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前回はレース前のカーボ(グリコーゲン)ローディングについて紹介しました。今回のテーマは水分補給。マラソンレースの終盤で、失速の原因となるのは、糖(グリコーゲン)の枯渇と脱水症状の相互作用です。ですから、マラソンレース中は糖の枯渇だけではなく、給水が十分足りているかにも意識を払わなければいけないのです。もちろん、レースだけでなく普段のトレーニングでも同様です。

水は生きていく上で欠かせないもの

私たちの身体の50〜60%は水で出来ています。水は細胞の内外に体液として存在し、体内で主に3つの働きをします。一つは溶解作用、もう一つは老廃物の排泄や栄養物質などの運搬作用、そして体温維持の働きです。

水は、いろいろな物質を体内に蓄えておくための水溶液となっています。例えば、トレーニング座学03で「糖(グリコーゲン)は水に溶けた状態でなければ体内に蓄えられない」ことを紹介しましたが、糖だけでなく水溶性の栄養素は全て水を溶液として体内に留まり、水を媒介に化学反応を起こすことでエネルギーや酵素としての働きをします。

糖など水溶性の栄養素が使われて消失すれば水溶液としての水も不要となり体外に排泄されます。排泄は、尿や大便、呼吸からの水蒸気、皮膚からの汗などから行われます。安静時の成人が一日に摂取する水分量は排泄する水分量は同じで、約2500mlほどです。また血管を通って体中に栄養素を運搬するのも水の働きです。

外の気温が変化しても体温が直ぐに変化しないのは、体液の働きによって体温調節が行われているからです。体温が高くなれば、発汗して気化熱を奪い、体温を下げるシステムが働くのです。しかし、水が身体から失われすぎると脱水症を起こし、損失量が2〜4%になると症状が顕著に現れはじめます。

脱水症になるとどうなる?

次の表は身体の水分が失われたときの、身体の諸症状との関係を表したものです。これを見れば、レースでもトレーニングでも、体重の2%以上の水分を失ってはいけない、ということが分かります。

のどの渇きを感じてからでは遅い

よく、のどの渇きを覚えてから水を飲んでいては遅い、と言われるのは、その時点で既にかなりの水分を損失しているからなのです。ですから、喉がからからに渇いたり、目眩がしたりしてから慌てて水分を摂るのではなく、運動中は小まめに水分をとり続けましょう、ということなのです。

パフォーマンスに関しては、「体重の2%を脱水で失うとパフォーマンスは4〜6%低下する」というEd Coyle博士らの研究があります。単純計算ですが、体重60kg、走速度5’00”/kmの人が、1.2リットルの水を汗で失った場合、走速度は5’12〜5’18”/kmまで落ちることになります(実際はもっと複雑ですが!)。マラソンなどでエネルギー補給と水分補給がどちらも十分でなければ、レース終盤にはグリコーゲンの枯渇と脱水症状の相互作用が起こり、ますますパフォーマンスが落ちると考えられます。

給水のタイミングと量

レースやトレーニング中の水分補給の必要量は、気温、湿度、天候、体重や発汗速度にも大きく関係します。給水量が少ないのは問題ですが、多すぎるのもまた問題で、低ナトリウム血症になってしまったり、胃の排出量を超えてしまって胃の中で波打つことになったりしてしまいます。

ですから、水分は15分〜20分ごとに小まめに給水し、必要に応じて飲む量を調節しましょう。また、水とスポーツドリンクが選べる場合は、糖質を摂取できてミネラルも含まれているスポーツドリンクと併用しながら摂ることをお勧めします。

参考文献:
ADVANCED MARATHONING (PETE PFITZINGER, SCOTT DOUGLAS, 2001)
健康・栄養科学シリーズ 基礎栄養学 (2004, 南江堂)
基礎から学ぶ!スポーツ栄養学(鈴木志保子, 2008)

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則
#09 トレーニングの頻度と超回復
#10 トレーニング強度 ベースとエンデュランス
#11 トレーニング強度 スピードトレーニング
#12 トレーニングのデザイン(1)
#13 トレーニングのデザイン(2)線で描くトレーニング・サイクル
#14 トレーニングのデザイン(3)量質転換のプログラム
#15 カーボローディングとは?

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net