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第一回目ではMMA(Mixed Martial Arts=総合格闘技)の黎明期から現在の状況、さらに自身が感じるその魅力について語ってくれた宇野薫さん。取材後、およそ一年ぶりに足を踏み入れたリングは、デビューを飾った修斗のリング。結果は惜しくも判定負け。本人は何よりも勝ち名乗りを上げるシーンを見せたかったはずだが、ファンだけでなく会場全体までもヒートアップさせたそのファイトで、いまだ止まることのない進化を続ける姿を見せてくれた。そんな進化を裏付ける、MMAへの取り組みについてお話をうかがった。

MMAという競技がクロストレーニングそのもの

フリーという立場になり、練習環境が新しくなった宇野さんが、新しいトレーナーとの出会いから“すべてがMMAのためになるという視点”を手に入れた。ガムシャラに身体を鍛えたり、何時間もスパーリングをしたりといったこととは異なるトレーニング。それはシステムというよりは、むしろコミュニケーションの取り方であり、MMAという競技自体が持っている本質とかなり近いものがあるように見える。

――宇野さんがプレイヤーとして取り組んでいるMMAのトレーニングの状況を教えて下さい。

「トレーナーにはフィジカルの面で、僕のスタイルに合わせたもの、効果的なメニューを組んでもらっています。技術的には、パンチやキックといった打撃、タックルや投げの組技、グラウンドでの寝技と大きな3つの柱があって、それぞれ技術毎に専任のコーチに見てもらっています。コーチ陣からはそれぞれの技術をサポートするためのフィジカルの要素をリクエストしてもらい、それをトレーナーにフィードバックする。僕を中心にして、トレーナー、コーチがコミュニケーションを取れる環境ができています」。

――その環境をひとつの場所ではなく、宇野さんを軸につながっているということですね。

「自分がそれぞれの練習内容や技術的なアドバイスをフィードバックすることでコミュニケーションを取る。たとえば、タックルの態勢に入るときにどうしても抜けないクセがあったとして、それを矯正したいというリクエストがあれば、『それではこういったトレーニングをしたほうがいい』とか。自分を軸にクロスし総合的にトレーニングする。時には直接コンタクトを取ってもらうこともありますが、そうすることで、今までなんとなくやっていたこと、うまくいかなかったことの解決法が見つかっていきます」

MMAとはすべてが邪魔にならない競技

従来の格闘技と大きく変わってきているポイントのひとつに、ジム、道場という存在の変化がある。ひとつの道場に入門して、そこですべてを教わるのではなく、ベースにしながらも、足りない部分を補うために必要なトレーニングができるジムへ出稽古にいったり、トレーナーについたりすることもある。自分をベースにして、それぞれのトレーニングをクロスさせていく。そういった柔軟性や発想の転換もまた、MMAという新しいスポーツならではの成長の形だ。

――それはキャリアを重ねて行きついた、現在のベストの形なんですね。

「もともとのスタートとして、MMAが“何でもあり”、から始まっているせいかもしれないけど、いろんな要素を有効に取り入れられる、かつ邪魔にならない競技だと思っています。自由度が高いというか、自分のスタイルを構築していくうえで、これをこうしなきゃいけない、というものがない。選手一人ひとり、手足の長さも違うし、骨格も違う。決まりや公式がないから状況に応じて自分の次の成長のために、どこをどう伸ばしていけばいいか、そのためには何が必要なのか、ということに敏感でいて、そしてひとつの型にはめてしまわないことが大切だと思います。組み立て方法も、もともとあったものや持っていたもの、よかったときのものをバラして、今の自分に合った形に再構築することで、あらためて自分のことを知り、全体がようやくつながったことを実感できたりします。決して、体力だけじゃない。経験値や、知恵や工夫といったクレバーな部分も加わってくるし、年齢を重ねてもプレイヤーとして進化できるはずだと思います」。

――“何でもあり”ということでは、競技そのものだけではなく、コスチュームや入場など、キャラクターが立っているというか、個性を活かして上手く自分を演出している選手も多い。

「テレビの地上波でMMAを放送していた時期から自分のTシャツを作って入場の時にチーム全員で着たりするのは当たり前になりましたね。そこにスポンサーのロゴが加わることでデザインが変わったり、どんどんスタイリッシュになって見られることを意識する選手が増えてきていると思います。特にプロで勝ち抜いていくには、試合的な力を付けて行くのと同じように、視野というか世界を広げて自己演出的な部分にも目を向けないとビジネス的にも残っていけないのかもしれません。だから、スポーツだけじゃなく他のことをやっても上手な選手は多いですね。ウィッキー(西浦聡生選手)やマッハ(桜井速人選手)は、絵がすごく上手いし、他の選手のブログを見てみても、文章が面白い選手や写真を撮るのが上手な選手も多く、表現方法は異なれど自分のことを表現するのが上手な選手がたくさんいます。あとはツイッターなどのSNSでファンとのコミュニケーションを絶妙な距離感で保っているのもそのひとつかなと思っています。なので、試合を離れたところで、キャラクター、個性を磨くという点でも、抽象的なんですが、モラル的な一線を超えなければ、自由というか、“何でもあり”なんだと思います」

――そんな“何でもあり”なMMAなんですが、フィジカルでもメンタルの面でも、他の競技に比べてよりハードな印象があります。そんな中で感じられる、おもしろいところ、楽しいところって?

「難しいことにチャレンジするということでしょうか。自分は全部で10点満点を取りたいんです。打撃も、組み技も、寝技も。目標設定を高くして、チャレンジしていく。新しくて難しいという点では、やりがいのある競技だと思うし、やればやるほど、これも上手くなりたい、あれも上手くなりたい、そしてもっと強くなりたいという欲求というか向上心を刺激するんです。そして、試合で強い選手と戦えば、自分に何が足りないかを知り、そこをまた伸ばそうとする。コンタクトスポーツなので、それが皮膚感覚でわかるから、どうすればその課題をクリアできるか、また頭のなかで整理しつつ考えてトレーニングをする。フィジカル的にも技術的にもチャレンジの繰り返しで、僕みたいにキャリアを重ねていくと、時間がかかったりもしますが、始めたばかりだったり、若い選手はどんどん吸収して、成長できますから、できるようになっときの達成感、満足感が分かるとやめられないと思います」

これからの生まれるMMAプレイヤーたちへ

ここまでプロの選手としてのお話をおうかがしてきて、Do SportsとしてのMMAに魅力を感じた読者の方も多いはず。そこで、チャンレジしてみたいと思った方への間口をさらにグッと広げるために、これからMMAを始める方へのメッセージをいただきました。

――今回のインタビューを読んで、これからMMAを始めてみたいという読者が増えたと思うので、ぜひ偉大な先輩としてのメッセージとアドバイスを。

「『痛い』、『難しい』というイメージがあると思うんですが、やりがいのある競技だと思います。20年以上の時を経て競技として成熟してきたMMA、格闘技にカテゴライズすると、部活や体育会的な厳しさを想像してしまうかもしれませんが、僕がお邪魔してるジムの指導者の方々はとても丁寧で親切な教え方をしてくれますし、それはどのジムでも同じだと思います。まず始めてみて、最初の『楽しい』を感じてもらい、それがやっていくうちに『難しい』に変わるかも知れませんが、僕がそうだったようにそれをクリアすることが次の『楽しい』に繋がっていくと思います」

やる気が高まったところで、次回は宇野さんがトレーナーを務める「UNO DOJO」にお邪魔して、実際にDo SportsとしてのMMAを楽しむ“市民ファイター”たちの表情やトレーニング内容をレポートします。

宇野薫(うの かおる)
総合格闘家(UNO DOJO所属)。プロレスへの憧れから、高校時代はレスリング部に所属。修斗でプロデビュー。第4代修斗ウェルーター級王者についたあと、総合格闘技のメジャー、UFCに参戦。惜しくもベルトには届かなかったが、トップ戦線で活躍。
宇野薫公式ブログ:http://ameblo.jp/caoluno/
Twitter:@caoluno
宇野薫が主宰する総合格闘技道場「UNO DOJO」公式ホームページ:www.unodojo.com

【UNO VOICEアーカイヴ】
#01 総合格闘技がDo sportsである理由

(文・聞き手 浅野じたろう(ATAQUE) / イラスト ナカオ☆テッペイ)