#03『あらゆるスポーツにつながるエッセンス』に続いてお届けするのは、実際の競技やトレーニングから少し離れて、闘うための身体を作る「食」について。もちろん、ファンの方ならご存知「UNO PAN」についてもお聞きました。
「食」という闘うための準備。
闘うための身体を作るために、他競技と比べて特異な点に「減量」がある。鍛えながら、肉体を削るその準備は、刃物を研ぐ作業に似ている。5分3ラウンド=15分を闘うために、長く多様な準備が必要であり、そのもっとも日常的な「食」に対してどう向き合っているのかをおうかがいしました。
―― 日常の食事で気を付けていることを教えてください。
試合の予定があるときとないときとで違っていて、普段は脂質の高いものを控えつつ、栄養のバランスを取りながら好き嫌いなく食べています。体重の増減は常にチェックするようにしていて、今は試合体重が65kgなので、71~73kgくらいをキープするように心がけています。
―― 最近のMMAのトレンドだと、もっと通常のウェイトを上げて、試合前に一気に落とす選手も増えてきていますが。
年齢的に身体に負担をかけたくないのと、体重を増やしすぎてトレーニングのときに動きが悪くなってしまうのを避けたいんです。その範囲内の体重でいると身体のキレの良し悪しも自分で分かりますし、逆にトレーナーからパフォーマンスが落ちてると指摘されるときは、決まって体脂肪率があがってます。なので、その幅であれば、トレーニングはもちろん、食事を制限することでのストレスもそれほど感じてません。
――つとめて食べるようにしているもの、食べないようにしているものはありますか?
サラダを中心に野菜を多く食べます。あと、タンパク質は気にしてますね。多いときで1日に160~180gは摂るように心がけていて、競技生活が長いのこともあり、だいたい何をどれだけ食べると必要な量になるのかが分かるようになりました。ただ、効率が良いからといってすべてをサプリメントのプロテインで摂取せずに、三食合わせてバランスよく。トレーナーに身体を作る食事についてよく相談するのですが、お肉にしてもチキンだけじゃなくて、ポークもビーフも魚も、むしろバランスよく摂るほうがいいとアドバイスされます。たとえば、よく玉子の白身がいいといわれますが、アミノ酸のスコアが崩れてしまうので全卵で食べたほうがいいそうですよ。減量中は当然ですが普段からあまり食べないようにしているのは、揚げ物やラーメンなど、脂質の高いものですね。
――それが試合が決まると、少しずつ変えていくと。
大きく変わることはないのですが、基本的に体脂肪落とすことで、体重を下げるので、脂と油はより気を付けるようになります。一般の方のダイエットと違って難しいのは、脂肪だけを落とし、筋肉が落ちないように気を付けなければならないということ。当然動きが悪くなったり、力が入らなかったりするということもありますが、筋肉量が多ければ多いほど、最後の計量のときに水分でコントロールできる量が増えますから。計量の直前で一気に水を抜いてリミットをパスするのですが、スポンジで一度吸収した水をギュッと絞るのをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
――計量は試合の前日だと思いますが、計量後に試合当日までに身体をリカバリーさせるのも難しいのでは?
水分も一気に摂らず少しずつ口に含んでから飲み、徐々に胃をならすためにフルーツや消化のいいものから時間をかけて食べます。計量時に65kgで試合時には70kgくらいまで戻す感じですね。もっと増やす選手もいますが、自分は増えすぎて動きにキレがなくるほうがいやなので。以前に比べれば、リカバリーさせるための食事内容は本当に変わりました。UFCに出場した最初の頃は、応援であとから合流する家族に、日本からつぶあんマーガリンを持ってきてもらったりしてましたし、BJ(ペン)に負けた試合(UFC®34)ではどうしてもメンチカツバーガーが食べたくて、計量後に食べたら気持ち悪くなっしまい、こりゃダメだって、あとから気付いて。やっぱりご褒美は試合後ですよね(笑)。
欠かさないのは、より美味しく食べるための工夫。
試合という点をつなぐ「食」という日常の線。食事ひとつをとっても、闘うための武器を装備することに等しい。それほどでもないですよと、いつものように笑顔を見せるが、その肉体を見れば、想像以上にストイックに取り組んでいるのは一目瞭然。でも、そんななかにも、より美味しく食べるための工夫は欠かさないのが宇野さんらしい。
――キャリアを重ねるにつれて、食事の摂り方に関してアップデートできてると感じるところはありますか?
減量中に身体にいいからといって美味しくないものをいっぱい食べるよりも、できるだけ美味しく食べたいって考えるほうです。選手によっては身体を作るための燃料的に食事をとるという考え方もあるようで、その辺はタイプが分かれるみたいですが、実際に食事の回数や量も減るので、自分はせっかく食べるなら美味しく食べられるように工夫してます。例えば、同じ料理を食べるにしても、カロリーをチェックしながらソースを作ってみたり、同じ味が続かないようにして、味のバリエーションを増やすにようにしたりするんです。だから、スーパーに買い物に行くと、調味料のコーナーはかなりチェックします(笑)。結婚してから食事を作ってくれる妻とも食事について話しながら、時には自分からも提案して、食事が飽きないように美味しくしてもらってます。
プロテインも同じものだと飽きてしまうので、いくつかのフレーバーを用意して、午前中はチョコレート、午後はストロベリーやヨーグルトといった感じで、ローテーションで飲み分けたりし、パンでも減量中は全粒粉のパンがいいと聞くと、ランニングしながら全粒粉で美味しいパンのお店を探したり、ゴパンで玄米パンを焼いたりします。あとは、スターバックスのラテをノーファットでオーダーすることは自分の中でスタンダードになってます。一昔前とは変わってどんな食品にも成分表示されるようになったところだけをみても、自分が進化したというより、自分がイメージする身体作りに適した食事がしやすい時代や環境になったということかもしれません。
――外食で気を付けることは?
試合が決まっていなくて減量していないときは、炭水化物の量やタイミングを気にしながら好きなものを食べますよ。あと、お酒はあまり飲みませんね。友達や家族達が飲んでるような時間帯がトレーニングの時間だったりするので機会が少ないというのもあるのですが、翌日のトレーニング時のコンディションを先に考えてしまいます。試合の前はもちろん、試合後の一カ月間と、打撃の練習をした日もダメージを考えて飲まないんです。
――パンについては後ほどじっくりおうかがいするとして、他に好きなものはありますか? 例えば、減量があって試合が終わったら、必ず食べたくなるものとか。
試合直前に食べないようにしてるせいか、揚げ物を食べたくなりますね。唐揚げとか、近所にある尾島商店のメンチカツが本当に美味しくて、それは試合が終わると必ず食べてますね。トレーナーからも、減量が毎日続いてくるとストレスが溜まるので、週に1度は食事制限の開放日を設けるようにって言われてるんです。今は毎週日曜日のお昼に設定して、そこで好きなものを食べても大きな影響はでないってことになっているのですが、結局、どうしても気になっちゃってあんまり解放できず制限してしまうのです(笑)。でも、制限しすぎると身体が慣れてくるのと、身体を守るために脂肪の量をキープしようとするのか、体脂肪が落ちなくなる時期もあって……。そんな身体の反応にも食事内容で対処しながら、試合体重を70kgから65kgに変えて、体重は減らして筋肉量は増やすという、肉体改造は成功したのかなと思います。
――ちなみに、苦手なもの、嫌いなものはありますか?
今は食べるようになったんですが、八つ橋のシナモンがダメだったんですよね。アンコが好きなのに(笑)。それ以外は特にないです。
そして、宇野さんのブログでもおなじみ「UNO PAN」について。もちろん、読者のみなさんのためにおすすめのパン屋さんもお聞きしました。ひとつに絞りきれないということで、宇野さんがディレクターを務めるセレクトショップ「UCS」のご近所のパン屋さんベスト3を! お買い物に合わせてハシゴしてみは?
――宇野さんといえば“パン”というイメージがありますが、それは幼いころからですか?
専門学校を卒業して「afternoon tea」でアルバイトをし始めてからなんです。当時、カフェのキッチン担当だったんですが、隣にパンを焼いてるオーブンがあって、形が崩れたりしてロスになったパンをお昼にいただいて、それを食べてるうちにパンの美味しさに気付いてクセになっちゃいました。ほぼ同時期にお茶の水の道場に通うようになったんですが、練習が22時半頃に終わって、それから実家の横須賀まで帰るとなると夜中の0時を過ぎちゃうので、コンビニに寄って「つぶあん&マーガリン」(ヤマザキ コッペパン)を買うのが日課になってしまって、、、それがパンに目覚めた頃ですね。練習仲間にもパンが好きな選手は多いですね。練習場所までの移動のタイミングで食べやすいのと、食べすぎなければ胃がもたれることもありませんから。
――最後に宇野さんから読者におすすめのパン屋さんを!
絞るのは難しいので、UCSの近所にある桜木町ベスト3を。ひとつは「プチ」というケーキ屋さんのあんパン。食パンも美味しくて、メイプルシロップやアンコを付けて食べると最高! 次は、先にもお話した「尾島商店」のメンチカツバーガー。試合後に必ず食べるご褒美です。最後に「キムラヤベーカリー」のコッペパン。カットして、あんこをはさんでくれるんですが、通常こしあんのところを、粒あんにして、さらにミルククリームをはさんだ宇野スペシャルというメニューがあります!(編集部注:通常は販売しておりません)
次回は、こんな食生活で作られた、強靭な肉体のメンテナンスについて。これは他のスポーツやトレーニングにも活かせるものがありそうです。お楽しみに。
【UNO VOICEアーカイヴ】
#01 総合格闘技がDo sportsである理由
#02 総合格闘技とはすべてが邪魔にならない競技
#番外編 ランナーへ向けたエクササイズを紹介
#03 あらゆるスポーツにつながるエッセンス
(文・聞き手 浅野じたろう(ATAQUE) / イラスト ナカオ☆テッペイ)