日本の近海でよく釣れることから、古くから庶民にも親しまれてきた鱚(きす)。北海道南部以南から台湾にいたるまで、広く生息する海水魚で、初夏から9月ごろまで産卵期を迎える。また海岸付近の砂底で生活するため、舟に乗らずとも釣れる、釣り人にもおなじみの魚だ。漢字のつくりが“喜”であるため、その縁起の良さから、江戸時代には徳川将軍も朝食に食べたという一説もある。
鮮度のいいものの見分け方は、目が澄んでいて、身に透明感があるもの。またうろこがたくさんついていて、銀色に光っていることもポイント。さらに15㎝ほどの小ぶりなものほど、おいしさがギュッと凝縮している。
淡白な味わいでしっとりと水分が多いので、天ぷらに最適。鱚の水気をペーパータオルなどで拭いたら、両面に軽く小麦粉をまぶしておく。そして衣は卵と小麦粉、片栗粉を用いて作った衣にくぐらせてから、中温の揚げ油にそっと入れて、カリッと黄金色に揚げれば完成。または鱚の旨みを閉じ込めた昆布〆を酢飯と合わせた寿司は、これからの食欲が落ちる季節もさっぱりと食べられる。