いま東京の食が面白い。海外のレストランを経験した若いシェフや、日本を目指して来訪した外国人シェフたちが、クリエイティビティをいかんなく発揮して新時代を生み出しつつある。そんなグローバルな動きを支えるのが、日本のローカルな生産者たちだ。環境と共存し、土地の味=テロワールを理解する彼らの存在があってこそシェフの想像力が刺激される。そんなグローバルとローカルの絶妙な均衡が生む稀有な食体験へ、いざ!
美味しい肉を得るための
あくまでも手段としての狩猟
世田谷区喜多見に店を構える〈ビートイート〉は女性店主自身が仕留めたシカやクマ、イノシシなどを出すジビエ料理店。それでありながら、ジビエを使ったミールスが専門誌のカレー特集にも取り上げられているし、店主はマクロビオティックにも造詣が深いという。正直なところフックがありすぎて、切り口に困る店だ。こんな質問から始めてみることにした。「自分で撃って、動物の息の根を止めて、それを調理し、振る舞う。その流れの中で、どういう想いが生まれるのか?」と。
カウンター7席ほどのお店。竹林さんの狩猟話を楽しみにしている常連さんも多い。
「責任感」と、〈ビートイート〉の店主・竹林久仁子さんは答えた。それは客に対しても、自分が仕留める獲物にも同様の気持ちだ。だからこそ、自分の腕を磨き上げる必要がある。無駄に苦しませないよう、より美味しく頂けるよう、射撃の練習も積み重ねた。どういう環境なら健康的な動物が育つのかという環境学的なことも猟師のもとで実践的に学んでいる。
調理法はシンプルのひとこと。余計な物は加えず、自分が獲った肉本来の味を引き出すことだけに注力する。そういう責任感のもとに供されるジビエは驚くほど旨い。
イノシシを塊でじっくりと焼く。脂も余さず閉じ込める。豚に比べるとイノシシは脂身が多い。その脂こそが、甘みがあり抜群に旨い部分。甘やかされた豚とは別物なのだ。
竹林さんは、ジビエブームに興味はないし、自分で獲っているということを強調して、売りにしたいワケでもない。
「いまだゲテモノ扱いされがちな獣肉の、純粋な食材としての美味しさを知ってほしい。だから自分で撃ってきたというのが、話題になって興味をもってもらえるなら、という気持ちです」
ただひたすらに美味しい食材を求めたその答えが、竹林さんにとって自ら獲ることであり、ジビエだったという話でしかないのだ。
空薬莢と弾。北海道のエゾシカ狩りでは、環境負荷を考慮して銅製の弾を使うのが義務。
『PERFECT DAY05号』より転載。この記事が掲載されている雑誌をAmazonでチェック