(写真 藤巻 翔/文 礒村真介(100miler) )
糖質と脂質。
人間はこの2つをバランスよく燃焼させることで基礎代謝を保ち、活動している。
このうち糖質のほうが高い出力を得られるためスポーツ中の主たるエネルギー源になるが、一度に身体へと蓄積しておける量はほんの僅かだ。
一方で脂質は脂肪としてほぼ無制限に貯めることができる。
そこで「安静時でも運動時でも、脂肪をもっと効率的にエネルギーとして利用できる身体に調整しよう」というのがファットアダプテーションだ。
具体的なメリットや実践法は以下および「mark11 トレーニングは贅沢時間」本誌P126で詳解するが、主には日々の食生活を変えていくことで身体の内部をアダプトさせていく。
するとトレイルランなどの競技では、エネルギー源として脂質の割合を増やすことで高いパフォーマンスが長時間、安定して維持できるようになる。
また普段の安静時の脂質代謝が高まれば、リカバリーが早くなりフィットネスが向上する。
超長距離競技における新たなパフォーマンスアップのアプローチ
すべてのキーになるのは脂肪の燃焼効率だった
◎運動強度が上がっても脂質をエネルギーとして利用できる
糖質からのエネルギーは、一時的な効率や出力は高いものの、ガス欠や出力レベルの上げ下げが繰り返されたりと、脂質に比べて安定したエネルギー源になりにくい。
一方で脂質は安定的に燃焼できるため、パフォーマンスも安定する。
ファットアダプテーションが進めば運動強度が上がっても脂肪をエネルギー源にできるばかりでなく、1分間に燃やせる脂肪の量も増えるため、出力が高め安定に。
糖質が着火剤だとしたら脂質は備長炭なのだ。
◎乳酸をエネルギーとしてより効率的に利用できるようになる
ひと昔前までは老廃物と誤解されていた乳酸は、じつは有酸素運動における重要なエネルギー源。
しかし運動強度が高まると、乳酸を分解してエネルギーとして再利用するための回路「TCAサイクル」が追い付かなくなり、血液中にまるで老廃物のように蓄積されてしまう。
ファットアダプテーションを実践していくと、乳酸をエネルギー源として再利用する「TCAサイクル」が働く領域が高まり、高い運動強度でも長時間継続できるようになる。
◎内臓への負担が減る
エンデュランス競技では、糖質を補うためには運動中に補給をして体外からエネルギー源を摂取しなくてはならない。
食べなくてはならず、さらに食べたものが内臓で吸収される必要がある。
吸収すること自体もエネルギーを消費するため、運動中に並行して、継続的に何かを補給し続けるのは至難のワザだ。
ファットアダプテーションが進めば身体の脂肪をメインのエネルギー源にできるため、補給の回数や頻度を減らすことができる。
◎携行する補給食が減る
上の項目の続きになるが、それはすなわちアクティビティ中に携行する補給食の量を減らすことができるということ。
これによりトレイルランや登山での荷物を軽くスリムにできる。
また、内臓を酷使していなければ休息中の回復フェーズにおいて身体は内臓ではなく筋的なケアへと集中することができる。
ファットアダプテーションには本誌P126に挙げるようなコツと忍耐が必要だが、適応した場合はメリット多数で、デメリットもない。
ザック・ビター氏の実践
先日までトラックにおける100マイル(160㎞)の世界記録を保持していたザック・ビターは、ファットアダプテーションの実践者。
ある測定では、VO2MAX 84%の運動強度のときでも、エネルギー源の76%が脂質からのものだった。
そのため運動中1時間あたりの摂取カロリーがファットアダプテーションの前後で400kcal→150kcalと激減。彼の感想によると、糖質に頼っていた頃はエネルギーレベルの上下が激しく、途中で内臓疲労をおこして代謝能力が低下、よくペースダウンを起こしていたという。
ファットアダプテーションのエンデュランス競技における大きなメリットとして、エネルギーレベルが安定し、臓器の疲労が少ないということが挙げられる。
監修:福地 孝
株式会社ロータス、ストライド代表。アルトラやルナサンダルといった新しいギアを輸入しつつ、海外の最新理論に明るいトレーナーとして、聖蹟桜ヶ丘にストライドラボを立ち上げランナーのパフォーマンスアップに貢献している。ファットアダプテーションを日本に導入した立役者。写真のトレイルランナー、Tomoさんこと井原知一さんへのアドバイスも務める。
※2019/4/10発売「mark11 トレーニングは贅沢時間」転載記事
「生涯で100マイルレースを100本走る」を掲げるトレイルランナーのTomoさんがファットアダプテーションを実践した詳細記事は本誌P126-127をぜひご参照ください。

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