スリランカで感じた
これからの日本の旅、その姿
世界は多様だ。その世界を知る最も手軽な方法は、Google MapsやSNSではない。バックパックを担いで世界を旅することだろう。世界の都市にはゲストハウスと呼ばれる安価な宿が集まるストリートがある。若い旅人――もしくは、時間があり節約したい旅人――はまず、自由な空気に満ちたゲストハウスを目指す。しかし、日本には比較的低価格で宿泊できるビジネスホテルや民宿、カプセルホテルなどがあり、ゲストハウスカルチャーが醸成するまでには至らなかった。が、この10年ほどで日本にもゲストハウスが増えてきた。バーやカフェを併設したゲストハウスの草分けの一つが、株式会社Backpackers’Japanが運営するゲストハウス群だ。現在、ゲストハウスtoco.(東京)、Nui. HOSTEL& BAR LOUNGE(東京)、Len(京都)、CITAN(東京)を展開しており、国内外のバックパッカーに支持されている。
CITANのバーダイニングに現れた本間貴裕さんは、日に焼けていた。それを指摘すると「これでも気をつけていたんですけどね」と笑う。数日前までスリランカ南部州アハンガマにある〈Sunshine Stories〉という宿に滞在していたと言い、さらに顔がほころんだ。1週間単位の宿泊客しか取らず、日々サーフ&ヨガリトリートに明け暮れるという宿だ。趣味の旅というわけではなく、視察を兼ねての滞在だった(もちろん、彼は大の波乗り好きなのだが)。
人と自然の境界線を曖昧に
「ゲストハウス文化を日本に持ってこようと8年前に開業しました。今では良くも悪くもゲストハウスは流行り、日本全国にゲストハウスが誕生し、当初の目標は達成されたんじゃないかと思うようになった」と彼は言う。スタートアップ後は精度を高めた後に拡大に転じるというのがビジネスの定石だろう。だが、本間さんは「ゲストハウスという形での急速な拡大路線はない」と言い切る。
「このまま拡大していったらそこには競争がある。僕らが作ると誰かが困り、誰かが作ると僕らが困るかも。誰かを困らせてまで、競争したい、勝ちたいとは思わない」
では、これから先10年間でなにをするのか。スリランカでの滞在は事業の今後を考える時間だったという。
「机の上ではなにも生まれませんから」
本間さんは社内の役員会で説明し、仕事の一部として旅をすることにした。2年間、1度につき10日間、改めて世界を見て回る。
「これまでにラオス、オーストラリア、カンボジア、スリランカに行った。訪れる国々は、将来展開したい国、そこに見たい“なにか”がある国です」
スリランカでの滞在は刺激的な日々だったと話す。〈Sunshine Stories〉では同じ日にチェックインをした13名が共に時を過ごした。波乗りにはコーチが付き、動画も撮ってくれる。海から戻ったら、ヨガや食事。そして、ゲスト同士で話しをする。ガイドブックの確認作業のようなツアーとは対極のスタイルだ。それが、素晴らしい時間だったことは、本間さんの表情とこんがりと焼けた肌から容易に読み取れた。余計な物をそぎ落とした滞在から旅本来の持つ自由を感じたようだった。このようなアクティビティデザインは日本でも可能ではないか。本間さんはそう考える。
「トレイルランやスノーボードなど、日本の四季を生かしたリトリートの作り方があるはず。ツアーやガイドを雇うのは少し億劫ですが、だけど知らない土地でトレランやサーフィンをする怖さはありますから。僕たちは理念に繋がる形ならば宿泊業以外のことをするのも良いと思っています」
〈Backpackers’Japan〉は『あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を。』というミッションを持つ。その上で、RespectOthers、Stay Healthy、Keep Studyという働く上での3つのルールを掲げて事業を続けている。
「人と自然の境界線を曖昧にしていきたい。自然の脅威から人間が逃げ続けた結果が、都市への逃避とも言えると思う。その結果、安全にはなったけれど同時に恵みも見えなくなってきている。自然が見えていないと、そもそも自然を大切にしようとは思わないし、ご飯だって有難いとは感じづらいですよね。だから、僕たちは多少のリスクを取っても自然の中に入り込んでいったり、逆に都市に自然を誘致したりする必要がある時期に来ていると思う。その境界線を曖昧にしていくことで、新しい暮らし方、生き方が見えてくるように思いますね」
本間さんは〈Backpackers’Japan〉の次の10年を考える旅と言う。しかし、これは日本の旅を変える問いかけとなるかもしれない。
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