時計ってタイムを測るためだけのものでしょ。さすがにそう思っている人はもういないと思うけど、それにしても、昨今のスポーツウォッチの進化はすさまじい。ひと昔前までは知るすべのなかった様々なデータをいとも簡単に測定し、リアルタイムで表示することができるのだ。ここで、今一度その機能で「できること」を整理してみよう。
現代の高機能ウォッチに欠かせないセンサーは主に2つある。ひとつはGPSセンサーで、これは機器の位置、つまりランナーの現在地を測定するためのもの。これに加速度センサーやジャイロセンサーを組み合わせて補正すると、ランニング中のスピードや走行距離が分かる。陸上トラックや正確な距離表示のあるコースでなくとも、走るペースがちゃんと分かるというのはとても便利だ。
もうひとつは心拍数を計測する心拍センサー。「ペースと心拍数(BPM)」でも述べたが、心拍数とは心臓が1分間に拍動する回数のこと。走るスピードを上げると心拍数も上がるため、運動強度の把握にとても役立つ。レースでは「この心拍数をキープすれば10km走り切れそう」などと、ペース管理に応用できる。
また普段のトレーニングでも威力を発揮し、心肺機能を鍛えたければ170BPMのペースで、スタミナを伸ばしたければ145BPMのペースで(この数値には個人差がある)、練習強度の設定も簡単に。以前はエリートアスリートのごく一部だけが行っていて、実業団レベルのランナーでもほとんど実施できていなかった心拍管理によるトレーニングが、その気になれば市民ランナーでもできてしまうのだ。
トレーニングを積めば同じ心拍数で出せるスピードが上がるし、疲労が溜まっていくとその逆もある。また安静時の心拍数にも変化が見られ、寒い冬には寝起きの心拍数が低くなるし、お酒を飲んだ翌日は一般的に心拍数が高くなる。ほら、酔ってくると胸の動悸が激しくなるでしょ?
自分の体感でなく、客観的な数値で身体の変化を可視化できる。いざモニタリングしてみると、ゲーム的な感覚が味わえて思いのほか楽しい。自分の身体がどう変化し、反応していくか。それが楽しくて走るという人もいるくらいだ。今どきのスポーツウォッチを身に着ければ、自分自身にしか味わえないエンターテインメントの扉が開く。
時計内蔵の光学式と胸に巻くベルト式、それぞれの心拍計のメリット・デメリット。
現在、スポーツウォッチが採用する心拍計は主に2種ある。時計本体の裏フタ側に内蔵される光学式心拍計と、胸に装着するチェストベルト式だ。後者のベルト式の方が製品としての歴史が長く、その仕組みは心電図の計測と同じ。ベルトに備わる電極が心臓の電気的変化をキャッチし、時計本体にbluetoothなどでデータを飛ばしている。電極部が多少湿っている必要があるため、冬の乾燥する時期にはデータを取りにくい、長時間使っているとゴムベルトの締め付けが気になる、という声も。
そこで台頭してきたのが光学式心拍計だ。時計裏のセンサーから皮膚内の血管に向かってLED光を照射。血中のヘモグロビンが光を吸収する性質を利用して、センサーへと戻ってきた光の量を測ることで脈拍をカウントする。ただし、その測定方法から実際の心拍とは誤差が生じがちで、激しい運動をすると10%ほどの誤差が生じると言われる。アスリートが本気で使うには心もとない精度だけど、時計本体に内蔵されているのでお手軽。また、安静時の心拍数を日常的にモニタリングし、体調管理に活かしやすいというメリットがある。光学式を内蔵する時計の多くで心拍ベルトも併用できるので、適材適所で使い分けたい。
GPS で繋がる、広がる。運動する前も、後も楽しい。
GPSデータが活用できるようになったこと。これも現代のスポーツウォッチが開いてくれたランニングの新しい楽しみ方だ。GPSで計測したログをネット上にアップすると、実際に移動した軌跡がマップに落とし込まれるほか、距離や運動強度レベルなどを簡単に振り返れる。いい酒の肴だ。そのデータをラン仲間や第三者にシェアするという楽しみも待っている。
ウォッチメーカーのスントでは、対応アプリを通じて世界中のランナーのランニングコースをマップから逆引きで探すことができる。例えば旅先で急に時間が空いて、ひとっ走りしたいとき。時間や距離に応じて「誰かが、いつか走ったランニングコース」のGPSデータを自分の時計へとダウンロードすれば、ナビゲーションしてもらいつつそのルートを辿れるのだ。