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役者としてプロテスト合格を目指すボクサー役を演じたことをきっかけに、自らもプロテストに挑んだ俳優・清水一輝さん。ボクシング完全未経験の彼が、なぜ過酷なトレーニングに打ち込み、プロテストに臨んだのか。そこには「否定から物事は始まらない」という信念があった。

ボクサー役を演じたのをきっかけに、ボクシングを始めた

「2年前、プロテスト合格を目指すボクサー役を頂いて。役に必要な基本の動きを教わるために、今の所属ジムへ通い始めました。撮影が終わってからも、体を動かすのが好きなのでジム通いは続けていて。だんだんと体のベースが出来た頃、トレーナーから『プロテスト受けてみたら?』と提案されたんです」

最初は即答できなかったという清水さん。ボクシングのような過酷なスポーツでプロを目指すなんて考えたこともなかった。でもプロテストを受けられるのは、所属ジムに認められた実力のある人だけ。限られたチャンスがせっかく与えられたのに逃げるのか? 自問自答を繰り返し、自らの可能性を信じて挑戦を決意した。


まず鍛えたのは腕よりも下半身、そして体幹

そこからプロを目指すためのトレーニングを開始し、1年間ほとんど毎日ジムに通い続けた。メニューは、基本のフットワークをつくる縄跳びから。ボクシングは下半身が重要で、足がついてこないと手が出ないためだ。その後、鏡を見ながらフォームを確認したり、イメトレを兼ねたシャドーボクシングをしたり、寸止めで打ち合うマスボクシング、腹筋を中心とした筋トレも欠かせない。


「腹筋もただの腹筋じゃなくて、腹にボールを落としながらやる。ボクシングは顔面を狙われるイメージがあるけれど、実はボディで倒されることが多い。腹を殴られると息ができなくなるから、徹底的に鍛えるんです」

その他のメニューは日によって異なる。特にきつかったのは、ロープを両手で持って上下に振るロープトレーニングだ。

「ずっとダッシュしているような感覚の辛さ。体幹、スタミナや腕が鍛えられるので重要な訓練でした」


ボクシングには、体力だけではなく精神力が必要

プロテストではスタミナ、手数、ディフェンス、型の美しさが総合的に判断される。どれかが欠ければテストの試合に勝ったとしても合格はない。1 日約2時間のトレーニングに加え、毎日挑戦している10kmランニングをこなす日々は「地獄だった」という。それは身体的な辛さだけではなかった。

「食事制限がきつかったです。朝はプロテイン、昼はおにぎり1個、夜は豆腐と納豆2パックにキムチかおくらを混ぜて食べる。それでテスト前に2週間くらいで12kg落としました。糖分をとっていないから頭が全然回らなくて、気持ちも落ち込んで。何度もやめようと思いましたね」


食事制限で気力が失せる中、相手ボクサーと対面する恐怖とも闘わなくてはならない。

「初めてプロボクサーとスパーリング練習をした時、一発の衝撃が予想以上で。囲まれたリング上でその恐怖に支配された結果、ボコボコにやられました。その時はもう、試験を受けるのは無理だなって。でもボクサーは全員、プロになるためにその恐怖を乗り越えてきている。その晩は苦しんだけれど、次の日ちゃんとジムへ行っている自分がいました」

強い想いは現実化すると信じて、過去の自分と戦う

清水さんを支える強い精神力の源は2つある。1つは“後悔”。中学時代に所属していた野球部で運良くスカウトの目に留まり、強豪高校に推薦入学できたが、周りの選手は自分よりも圧倒的に上手かった。彼らを目の当たりにし、全力を出しきる前から、勝てるわけがないと思ったという。辛い練習を避け、野球選手という夢に全力で取り組もうとしなかった。きちんと壁に向き合っていれば結果が残せていたかもしれない自責から「否定していても物事は始まらない」と考えるようになった。


もう1つは“自信”。憧れのアーティストに会いたい気持ちを原動力に上京し、俳優として会うための工夫や努力を重ねた結果、実際にその人と一緒に仕事までできた。その経験から、本気でやったら絶対掴める人間だと思った清水さんは、「強い想いは現実化する」と確信したのだ。

どんな挑戦でも最初から否定せず真摯に取り組めば必ず成功する。−−その信念を、かつての自分のように、人生にもがいて生きている人たちへ証明していくために始めたのが〈一騎討ちProject〉だ。信念を貫いている生き様を見せることで、それを立証していく。俳優として、自らがプロデュースする舞台やトークイベントで想いを発信してきた。今回のプロテストもその一環だ。1人の人間として、スポーツで自らの限界を突破し「否定から物事は始まらない」と実証する。これは単なるライセンス取得ではなく、自分との闘い。勝つまで挑戦し続ける覚悟があった。


3分間が異様に長く感じた、テスト当日

試験は筆記、体重測定、実技の流れで進行する。実技は3分2ラウンドのスパーリング。そのため練習は3分8ラウンドを繰り返し、本番に備えていた。しかし、テストは想像していたよりも厳しかったという。普通のスパーリングと違い、評価の判断材料となる“手数”を常に意識して増やす必要があった。正しい型で手数を繰り出すには、多くのスタミナも消耗する。


「後楽園ホールのリングフロアも想定外でした。練習で使用していたリングよりも柔らかい素材で、しっかり踏ん張らないと足が持っていかれるんです。緊迫した空気と興奮で、精神も極限状態。最初の1ラウンドが終わった後、正直まずいと思いました。3分ってこんなに長いんだって」


ゴールじゃない、ここから繋げていく未来

しかしテストの結果は見事合格。役者の仕事が最優先のため、プロとして試合に出場することはないが、スポーツ関係の広告が決まるなど、仕事にもいい影響があった。今でも週3回はトレーニングを継続している。筋トレやミット打ちは、続けていないと感覚が鈍ってしまうからだ。「次に繋げないと意味がないんで」と語る清水さん。〈一騎討ちProject〉に終わりはない。これからも、人生をかけて証明し続ける。

清水一輝 (しみずいっき)

清水一輝 (しみずいっき)

俳優。舞台を中心に、ミュージックビデオやCMなどで活躍中。2017 年より〈一騎討ち Project〉と題し、自らの舞台やイベントのプロデュースを開始、2019 年5月 の舞台『吼える』では東京および大阪で上演し、好評を博した。〈一騎討ち Project〉は舞台に止まらず、ボクシングのプロテスト挑戦も行い、合格を果たす。2019年3月、プロボクサーランセンスを取得。2017年には単独で皇居 100 キロマラソンも敢行し、完走した。毎年年末のトークイベントでは、1000 人以上を動員し、"もがいてる人間が、もがいてる人間の心を動かすProject"として、様々な挑戦を行なっている。
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