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2019年が、スポーツにおけるどんな1年だったかを種別ごとに振り返る企画、続いてはランニング。東京オリンピックの開催前年とあって、オリンピック関連のトピックが多い1年に。数々の歴史的快挙も成し遂げられ、“嵐の前の静けさ”どころか、ランニング界(陸上競技・長距離ロード)は大盛り上がりの年でした。

1:MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)開催
男女2名ずつ東京五輪マラソン日本代表が決まる

 オリンピック種目で根強い人気を誇る男女のマラソンだが、これまでマラソンの日本代表の選考基準は非常にわかりにくく、何かと議論を巻き起こすことが多かった。だが、2020年東京オリンピックでは、そのマラソン日本代表の選考方法が大きく変わり、新たな選考レースが設けられた。それが、9月15日に開催されたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)だった。
 MGCに出場するには、MGCシリーズと称された指定大会で一定の成績を挙げるなど、厳しい出場条件をクリアしなければならず、“一発屋”は選ばれないシステムになっており、男子31人(1人欠場)、女子12人(2人欠場)の精鋭のみが出場できた(※世界陸上ドーハ大会に出場した選手は辞退した)。
 男子は、前日本記録保持者の設楽悠太(Honda)の独走劇から始まったが、大逃げは成し遂げられず。そして、39・2㎞で勝負に出た中村匠吾(富士通)が優勝。2位には、最終盤に大迫傑(Nike)を逆転した服部勇馬(トヨタ自動車)が入った。
 女子は、前田穂南(天満屋)が20㎞から独走し、2位に大差を付けて圧勝した。2位には、鈴木亜由子(日本郵政グループ)が、小原怜(天満屋)に4秒差にまで迫られたものの、なんとか逃げ切った。
 これで男女2名ずつのマラソン日本代表が決まったが、残る1枠は、2020年3月までMGCファイナルチャレンジと称される選考レースが続く。それらのレースでMGCファイナル設定記録(男子:2時間5分49秒、女子:2時間22分22秒)を突破した上で、最速記録をマークした選手が選出されるが、設定記録を突破した者がいなかった場合は、MGC3位の大迫、小原が3人目の代表となる。

Photo:AFLO

2:東京五輪のマラソン、競歩が札幌開催に

 MGCから1カ月後、レースの興奮も冷めやらぬうちに突如として持ち上がったのが、東京オリンピックのマラソンと競歩が札幌で開催されるという案だった。10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)が、札幌開催案の検討に入ったと発表したかと思えば、翌日には正式決定となった。
 そもそもMGCは、代表選考レースという側面ばかりか、東京オリンピックのプレイベントとしても開催されていた。スタート&ゴール(建設中だった国立競技場)を除いて、当初予定されていたオリンピック本番のコースと同じコースで行われ、暑さ対策等もオリンピック本番を想定して実施されていた。
 また、日本陸連の強化委員会は、猛暑の東京オリンピックで結果を残すための対策を練ってきていた。MGCでいち早く本番同様のコースを選手たちが走った経験ももちろんだが、東京開催は日本人選手に大きなメリットになるはずだった。
 しかし、IOCが開催地の変更を検討したのは、9〜10月にドーハで開催された世界陸上で、深夜の開催にもかかわらず、高温多湿の悪条件で競歩とマラソンで棄権者が続出したからで、致し方ないともいえる。これには、賛否両論が巻き上がった。
 その後、12月にはコースも決定。女子マラソンは8月8日、男子マラソンは翌9日、ともに午前7時にスタートする。競歩は、6日午後4時30分に男子20㎞、7日午前5時30分に男子50㎞、同日午後4時30分に女子20㎞がスタートする。

3:ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%が長距離界を席巻

 2017年夏に「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」が発売されて以来、同シューズを履いた選手が世界中のマラソン大会で上位を席巻するようになった。そして、今夏にはアップデートされた「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」が登場し、その勢いは一層加速した印象がある。他メーカーと契約していた選手にも、ナイキ製シューズに乗り換えた者が数多くいた。
 「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」は、発売時は鮮やかな緑色が印象的だったが、MGCと同日にピンクブラストという新色が発売。「厚さより速いものはない」のキャッチフレーズとともに、鮮やかなピンクのシューズが東京を席巻した。男子は、中村、服部、大迫ら上位3選手をはじめ、30選手中16人が同シューズを履いていた。
 「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」は品薄状態が続きプレミア化していたが、「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」は約3万円と高価ながらも、店頭やオンラインショップに“在庫あり”のケースが多く、入手しやすくなった。また、「4%」はトップアスリート向けの印象が強かったが、「ネクスト」は“より汎用性のあるシューズ”というインプレッションも聞かれ、大学生はもちろん、高校生や中学生の競技者にも同シューズを履く者が目立った。他社も続々とカーボン搭載のシューズを発売しているが、新年のニューイヤー駅伝や箱根駅伝でも、多くの選手が「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」(EKIDENパックと称された左右色違いのカラーリングがと登場)を履くことが予想される。ナイキの一強状態はしばらく続きそうだ。

Photo:YOSHINO YOZO [TAKIBI]

4:エリウド・キプチョゲが人類初のマラソン・サブ2を達成

 日本列島を台風19号が襲った10月12日、マラソン世界記録保持者(2時間1分39秒)で、2016年リオ五輪金メダリストのエリウド・キプチョゲ(ケニア)が、オーストリア・ウィーンで、非公認ながらマラソン2時間切りの歴史的偉業を成し遂げた。
 キプチョゲは、2017年にもイタリア・モンツァで行われた「Breaking2プロジェクト」で2時間切りに挑んだが、2時間00分25秒(非公認)と、この時は惜しくもサブ2はならなかった。だが、昨年9月には公認レースでもベルリンで2時間1分39秒の世界記録を樹立するなど、30代半ばを迎えても進化し続けていた。そして、10月12日にウィーンで行われた「イネオス1:59チャレンジ」で再び2時間切りに挑戦した。

 足元には、ナイキの最新機能が搭載されたシューズ。また、ほぼフラットで直線のコースで実施され、さらにX字型のフォーメーションでペースメーカーが付き、自動運転の車が先導。開催日時も気象条件を見て判断されるなど、様々なサポートがあったのも事実だが、1㎞のラップを2分48秒~2分52秒で最後まで維持し続けた。そして、ラスト500mはキプチョゲ一人で走り、フィニッシュゲートをくぐり、1時間59分40秒で42.195㎞を走り切った。公認記録ではないものの、この偉業で世界陸連の最優秀選手に2年連続で選出された。
 
なお、10000mの日本記録保持者の村山紘太(旭化成)も、ペースメーカー務めた。また、YouTubeでライブ中継があり、全世界のファンがリアルタイムで歴史的偉業を見届けた。

Photo:AFLO

5:女子マラソンでコスゲイが16年ぶりの世界記録を樹立

 キプチョゲの偉業の翌10月13日、今度はシカゴ(アメリカ)から女子選手のビッグニュースが飛び込んできた。
 従来の女子マラソンの世界記録は、ポーラ・ラドクリフ(イギリス)が2003年にロンドンマラソンでマークした2時間15分25秒で、世界歴代2位の記録とは1分36秒もの大差があり、破られそうな気配はなかなかなかった。それが、シカゴマラソンで、ブリジット・コスゲイ(イギリス)があっさりと更新。しかも、16年ぶりの世界記録は2時間14分04秒と、ラドクリフの記録も1分21秒も更新するものだった(同時に、ラドクリフが持っていた2時間17分18秒の大会記録も塗り替えた)。
 一気に2時間15分切りを果たしたのは予想外だったが、25歳のコスゲイは今勢いのあるマラソンランナーの1人だ。コスゲイは、昨年のシカゴマラソンも2時間18分35秒で優勝し、今年4月のロンドンマラソンも2時間18分20秒の好記録で制している。また、9月のグレートノースラン(イギリス)では、ワンウエーの下り基調の非公認コースながら、1時間4分28秒のハーフマラソンの世界記録(1時間4分51秒)を上回るタイムで走っていた。
 フィニッシュ後には、まだまだ余裕がある様子を見せており、2020年はさらに記録を縮めるかもしれない。ちなみに、足元にはやはり「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」があった。

Photo:AFLO

 

6:川内優輝が“公務員ランナー”から“プロランナー”に。マラソン100レースを達成

 埼玉県庁に勤務し“最強の公務員ランナー”として知られていた川内優輝が、今年4月にプロランナーに転向した(あいおいニッセイ同和損害保険所属)。同時に、ツイッターも開始。レース前後のコメントだけでなく、ゲストランナーとして招かれた土地の魅力を発信するなど、新たな一面を覗かせている。また、5月には、実業団ランナーとして活躍した侑子さん(旧姓・水口)と結婚し、公私ともに大きな変動を迎えた1年になった。
 レース実績のほうは、ボストンマラソンを制した2018年のようなビッグパフォーマンスはなかったが、公務員ランナーとしての最後のレースとなった3月のびわ湖毎日マラソンでは2時間9分21秒(8位)と、自身13回目のサブテンを達成した。また、MGCの出場資格がありながらも、同レースは辞退し、4度目の世界選手権(ドーハ)に出場した(29位)。
 今年は6月と11月以外、毎月マラソンを走り(12月は2レース)、12月15日の防府読売マラソンでは、節目となるマラソン100レースを達成した。防府では大会3連覇を逃したが、これまでの優勝回数は100レース中41回を誇る。

Photo:AFLO

7:石川佳彦が“世界で最も過酷なレース”で快挙

 昨年(2018年)はウルトラマラソンの日本人選手の活躍が目立った。100㎞では風見尚選手(愛三工業)がサロマ湖100㎞ウルトラマラソンで6時間9分14秒と、20年ぶりに世界記録を更新。さらに、9月にクロアチアで開催されたIAU100㎞世界選手権では、男子の山内英昭選手(浜松ホトニクス)が2連覇、行場竹彦選手(芦屋市陸協)も2位に入った。女子も、藤澤舞選手(札幌エクセルAC)が銅メダルを獲得。団体では男女ともに金メダルを獲得した。
 日本人の活躍が続くウルトラマラソン界で、今年目立ったのは、石川佳彦選手だろう。135マイル(約216 ㎞)で8,200フィート(約2,500 m)以上の高度差があり、レース中は50℃を超えることもある、“世界で最も過酷なレース”バッドウォーター135(7月、アメリカ・カリフォルニア州)で、21時間33分01秒の大会新記録を樹立し優勝を飾った。2位には2時間40分もの大差を付ける圧勝だった。これで、2017年のIAU24時間走世界選手権、2018年スパルタスロン(ギリシャ)に続く、世界的な大会のタイトルを手にした。
 連覇を狙った10月のIAU24時間走世界選手権は出場を辞退したが、6月には民放のバラエティー番組に出演するなど、ウルトラマラソンの知名度アップに貢献した。

8:箱根駅伝が陸上競技の世界遺産に認定

 今や正月の風物詩となった箱根駅伝が、1920年の第1回大会開催から、まもなく創設100周年を迎えようとしている。
 今年5月には国際陸連(現・世界陸連)から、陸上競技界に顕著な実績を残した人物や団体、競技会などをたたえる「ヘリテージ・プラークHeritage Plaque」(昨年創設)に認定された。これは、いわば陸上競技の世界遺産のようなもので、今年9月には、有森裕子さんや高橋尚子さんといった五輪メダリストの指導者で、今年4月に亡くなった小出義雄さん、1951年創刊で今年1000号を迎えた「陸上競技マガジン」(ベースボール・マガジン社)が「ヘリテージ・プラーク」に選ばれている。
 箱根駅伝は、今年の大河ドラマ「いだてん」の主人公の1人、金栗四三らによって、「世界に通用するランナーを育成したい」という理念のもと創設された。MGCで東京オリンピック代表に内定した中村、服部も、箱根駅伝で活躍した選手たちだ。
 今年の箱根駅伝は、東海大が初出場から46年目にして初の総合優勝を成し遂げたが、100周年となる2020年の第96回大会も、連覇を狙う東海大を筆頭に、青山学院大、駒澤大、東洋大、國學院大などが優勝候補に名を連ね、激戦が予想される。箱根駅伝人気は、ますます高まるばかりだ。