気持ちよく走っていたレース後半、突如ペースがガクンと落ちることがある。「30kmの壁」、「35kmの壁」と呼ばれるその現象は、体内のグリコーゲン、とくに骨格筋のグリコーゲン枯渇が主な原因だと考えられている。
「体内に貯蔵されるグリコーゲンは脂肪に比べるとはるかに少なく、2,000kcalといわれています。そのうち肝臓には500kcal、筋肉には1,500kcal分が貯蓄されており、この筋肉に蓄えられている1,500kcal分が実働エネルギー。長距離ドライブに出かける前にはガソリンを満タンにしておくのと同じように、レース前にはエネルギーを十分に満たしておく必要があります」
当日までに普段よりもたくさん糖質を摂り、筋グリコーゲンの貯蔵量を一時的に増やしておく。これがいわゆる「カーボローディング」や「グリコーゲンローディング」と呼ばれる食事法だ。
「以前は1週間、または3~4日前からカーボローディングを開始するのがよいとされてきましたが、実際は48~24時間が現実的。レース前2日間からタンパク質の種類を消化のよい豆腐などに変えて量を減らし、炭水化物を多めに食べます。大会前日、当日は炭水化物を75%程度に引き上げ、残りは水と塩分。揚げ物や動物油脂の多いもの、食物繊維が多いもの、ナマモノなど消化が悪いものは避けたほうがいいでしょう。〈MAURTEN〉のような炭水化物の濃度が高いドリンクを利用するのも手。500mlのドリンクを作り、前日に1本を目安に飲むようにします。そうすれば余計なものを摂らなくてすむので、身体の中が綺麗になった状態でレースに挑むことができます」
ちなみに体内のエネルギー源である「糖」と「脂肪」のうち、運動時に最初にエネルギーとして使われるのは糖であり、体内の糖質が不足すると脂肪が消費されるシステムになっている。
この仕組みを活用して最近では、あえて体内の筋グリコーゲン濃度を低くした状態で走り、脂肪エネルギーを利用してスタミナを持続させるという方法もあるが、実は体内の血糖値が少し上がっているときのほうが脂肪は燃えやすい。つまり、グリコーゲンが不足すれば脂肪燃焼スイッチも入らないというわけだ。
また、グリコーゲンが枯渇すると筋タンパクを分解してエネルギーに変えてしまう恐れもある。ダイエットを目的にした人や、フルマラソン以上の長距離レースを目指す人が普段の練習時に用いるのはいいが、フルマラソンのレース時はきちんと糖を蓄えておくのが賢明だろう。