人と自然が共生する未来を創る。 ”Live with Nature“ を提案するライフスタイルブランド〈SANU(サヌ)〉の第一弾のサービスは『セカンドホームのサブスクリプション』事業だ。本間さんは以前にもPERFECT DAYのインタビュー記事にも登場いただき、都市と自然の距離について話をされていたことが印象的だった。〈Backpackers’Japan〉を経て、新しい事業立ち上げるまで背景や、セカンドホーム事業を通して提案するこれからの生活様式とは。
WEBサイト:https://sa-nu.com/
INSTAGRAM:@sanu_com
FACEBOOK:sanuofficial
「人と人」から「人と自然」を繋ぐことへの挑戦へ
以下 本間貴裕(本間)、福島弦(福島)、PERFECTDAY(PD)
PD:〈SANU〉を立ち上げた背景について教えていただけますか?
本間:蔵前の『Nui.HOSTEL & BAR LOUNGE』や馬喰町の『CITAN』などは、あらゆる境界線を超えて、人々が集える場所「人と人」を繋いでいきたいという想いで立ち上げました。そんな中「人と人」っていう関係性に加えて、「人と自然」がより親密に繋がっていく未来が作れたらいいんじゃないかという想いが湧いてきたんです。僕自身が福島県会津若松出身で、美しい自然に囲まれて生きてきたというのがそもそもの理由ですね。加えて、〈Backpackers’Japan〉は10年という期間で5店舗展開しましたが、より大きいサイズの事業に挑戦したいという想いもありました。社会を変えるインパクトを残す挑戦をしたい!と考える中で〈Backpackers’Japan〉という出来上がったカルチャーを変えるより、僕自身が変化した方がいいと思い〈SANU〉という会社を作りました。
福島:僕は北海道岩見沢出身で180日雪山の中で遊ぶような環境で育ちました。自分のルーツは自然にありますが、都心でゴリゴリ働いていました。マッキンゼーに所属しコンサルティングの仕事をしていく中で、ヨルダンの再生可能エネルギープロジェクトに関わったことが転機となりました。自分が事業を始めるなら気候変動のトピックは挑戦したい分野だと思っていた時に、たまたま友人の結婚式で本間さんに出会い、5秒後に「一緒に仕事しよう!」と誘われて今日に至ります(笑)トラベラーだけでなく、そのホテルのまわりで生活している都市生活者にとっても新しいものを生み出すホテルの面白さを本間さんに出会って知って、〈Backpackers’Japan〉を手伝うようになりました。
PD:〈SANU〉を立ち上げようと思ったのはいつ頃ですか?
本間:「人と自然を繋げる」というテーマで事業をしたい、という事業構想自体は2年半前くらいからありました。その上で、僕個人の体験ですが、コロナの緊急事態宣言が明けたタイミングで、海辺の小さい家を借りて長期間滞在したんですね。緊急事態が終わったとはいえ仕事も、対面でのミーティングもやりづらかったので違うライフスタイルを試してみたかったんです。それがめちゃくちゃ良かった。今まで東京で10年暮らしていて、自分では気づいていなかったけど、どうやら疲れてたらしいぞって思ったんです。海辺にいた時の自分の健康・精神状態がすごく気持ち良かった。一方で、都市生活にしかない人との出会いや、音楽が聞ける場所、美味しいご飯とお酒っていう生活は捨てがたい。
今回のコロナで強く感じたのは、シンプルにどっちも行けるような生活がいいんじゃないかと。そういう個人的な背景もあって、構想してた事業を加速化させました。
PD:コロナの体験を踏まえた後に、ということは事業発表(7/15)まで結構なスピード感ですよね。
本間:6月1日に事業を決定しました。僕らとしては、コロナの投機的なチャンスに食いついたというよりは、そもそも「人と自然」を繋いでいくこと考えていく中で、偶然コロナの時期と重なった。人の生活を変えるチャンスであるという見立てをしました。
PD:もともとあった概念が加速された、ということですね。福島さんの立ち上がりでの役割は?
福島:本間さんが会社のビジョンや空間のデザイン、ブランディングなどを担当しています。僕は、一人でも多くの人に体験してもらうための事業拡大を考える。事業としての骨組みを作る役割で、どの立地から攻めようかなとか。2人なのでお互いの議論の中でオーバーラップしながら考えていきました。
繰り返し通える里山のような自然
〈SANU〉は都市に仕事や⽣活の拠点を置きながら、繰り返し⾃然に通うライフスタイルを提案している。いわば、昔の里山のような場所を作ろうと。そこで考え出されたのが、一定の固定費で、何度でも自然に行ける仕組み「SANU 2nd Home(サヌ・セカンドホーム)」だ。ロケーションとして想定されているのはは軽井沢や館山をはじめ、一宮、鎌倉、逗子、秩⽗ 、桐⽣、野尻湖、みなかみ、etc……。東京から1.5-2時間ほどの距離の山、海、湖などでアクティビティが楽しめる環境を、⽉¥50,000の⽉額基本料⾦から提供する。サービスの開始は2021年春を予定している。
PD:東京から1.5時間という距離感に共感したのですが、場所のラインナップの根拠は?
本間:気軽に通えて、しかも自然の中で様々なアクティビティができる場所がいいなと。エクストリーム系じゃなくても、ハイキング、トレッキング、サーフィンといった、身体全体で自然を楽しめるような。朝、海に入ってして、家に帰ってきてシャワーを浴びてフルーツを自分で切って食べて仕事。夕方には日暮れを楽しみながら外を散歩して、夜はゆっくりして次の日に帰るとか。リゾートホテルみたいに遊び倒すのではなくて、日常生活の延長線上で楽しんでもらいたい。仕事もするし、なんなら洗濯もするぐらいの日常感です。
PD:通勤時間がアクティビティに置き換わる感覚ですね。今まで理想論としてあった生活がコロナで必然的にそうなってくるというような。自分の生活習慣をコントロールできるようになるのかなと。
福島:遊ぶけど、アウトプット(仕事)はしっかりする。僕らの世代の生き方として、意義があるんじゃないかなと思っています。
本間:今後人口の10%、15%でも。コロナ後にもそういう生活スタイルが残っていくと思うんです。その人たちがカルチャーを牽引していくと考えると十分な数ではないかなと。
PD:建築も環境に配慮するそうですが、どのようなことに取り組んでいますか?
本間:1つめは、CLT ⼯法*。コンクリートよりも、30%超のCO2 削減効果が期待できるところや、工期の約40%近い短縮などのメリットがあります。国産の木材を100%使用する予定なので豊かな森を維持するために必要な間伐を促進する効果もあります。2つめは、基礎杭⼯法**で、地面へのダメージが著しく低い。従来の⾃然⽴地での住宅や⼤型リゾート建設は、その⼟地の⾃然や⽣物に⼤きな影響を与えるものだったんですが、そういったことを最小限に。将来的には、建てれば建てるほど自然に環境が回復していくというところまでプロダクトを昇華させようと考えています。
*CLT ⼯法 : 繊維を直交させ張り合わせた⽊の集成材を使った⼯法。①優れた断熱性、②耐震性、③⽇本のスギなど国産材との適合性などが特徴
**基礎杭工法:地中に杭を打ち込みその上に建築する工法。使用するコンクリートが直接基礎工法に比べ80%近く削減でき、木を切り倒すなどの造成行為を最小化した建築が可能
PD:具体的にどんな人に利用して欲しいですか?
本間:まずは僕らみたいに都市に住んでいて自然環境に行きたい、と言う気持ちが既に顕在化している人。自然へ入ることへの興味が少しあって、それを習慣化しようとしている人に利用して欲しいですね。ただそれだけでは社会は何も変わっていかないので、そして、そんな彼らが友人を誘って〈SANU〉のセカンドホームに遊びに来てくれることが理想的です。自然にあまり興味がなく、触れたことのない人に、改めて自然への入り口に立ってもらう。元々自然が好きな人だけでなく、そうでない人が<SANU>を通して山や海を好きになっていくということが私たちの事業の大事な部分だと思っています。
福島:気軽に友達と行けるというのは重要なテーマですね。
本間:自然との距離は近づいてきている一方で、まだ動画や写真などメディアの中のイメージに留まってしまっている人が多い。それを今まで以上に気軽に体験できるようにすることで、自分事として捉える人の数を増やしていきたいと考えています。里山に生きていた時代は、自然はそもそも身近な存在だったけれど、それが都市化によって離れてしまった。また理想としてメディアの中では近づいて来た。時代の波は徐々にシフトしていくものですが、今回はコロナというの影響で加速度的に、かつ全世界的に自然を「求める」動きが起きているというのが背景としては面白いですね。今タイの友人ももNYに住んでいる友達もみんなもう一度自然を求めてるのを感じます。
PD:一気にトランスフォーメーションしている感じですよね。その波に、このスピード感で突っ込んでいけるのがまたすごいなと。
本間:人間って忘れちゃうじゃないですか。コロナで都市に閉じ込められて「自然に行きたい」って思ってたこともいつのまにか過去の事になってしまうと思うんです。その前に「自然に通う」というライフスタイルをある程度定着させたくて。〈SANU〉は、ただセカンドホーム事業を展開するためのブランドではなく、30年、40年かけて「人と自然が共生する社会」を作っていく一翼を担う存在になっていきたい。人が自然をもっと好きになり、結果、その自然を壊さず共生していこうとする動きが起きてくる未来を創造していきたい。このセカンドホームという事業は、その1発目だと思ってます。
福島:本間さんと一緒に写真家の石川直樹さんの展覧会を訪れた時の話ですが、ニュージーランドの森の写真展示の中でこんな文章に出会いました。
『ニュージーランドの鬱蒼とした原生林は人間から隔絶されたために美しい姿を保っているのではない。マオリというよき理解者が畏怖の念をもって森とつきあってきたからこそ、今の状態を保っていられるのだ。自然と共生するというのは、”人間が自然を守る”ことではなく、人間と自然が対等な関係を結ぶことではなかったか』
自然環境が壊れていくニュースを毎日耳にするようになりましたが、だからといって自然に入らず、家に閉じこもることが人間の正解ではないと知らされました。まずは私たちは自然の楽しさ、美しさを人々に伝えていく。そしてそんな人々が海や山を好きになり、自分の原体験の中に「自然」を持つようになる。このことが本質的な意味での「未来に自然を残す」ことだと考えています。