サステナブルという言葉が日常に定着するいま、新たなランニングアパレルブランドがデビューする。TANNUKIは、完全国内生産、シーズンレスに長く愛せるものづくりを目指す。企画担当・加藤賢さんが考える「ローカルへの回帰」とは。
哲学者 内山節の言葉と「ローカル」の見直し
モックネック、ラグランスリーブ、左脇にポケットを配したアシンメトリーの裾……。TANNUKIのアパレルはランニングウェアでありながら、ファッションブランドとも取れそうなデザインをひとつの特徴としている。
それもそのはず、企画を担当する加藤賢さんはTANNUKIの立ち上げ以前、様々な外資系ブランドで商品開発や営業を経験。その中にはファッションブランドでの経験も含まれているからだ。ハンギング時に美しく見えるよう、裾のデザインに対し「ポケットがある左側の方が重くて下がりやすいために、反対側の丈をやや長くしています」と語る。
デザインへのこだわりは筋金入りだ。ただ、TANNUKIはファッション性の高さを売りにするブランドではない。
「哲学者の内山節さんが好きでよく本を読むのですが、『自分たちが還っていく場所、還っていきたい場所、あるいは自分の存在の確かさが見つけられる場所』という一節があり、また、それらを“里”と表現しているんですね。読んで以来ずっと考えていることですが、私も里に還るような感覚になれる、安心を得られるような、消耗品ではなく、そのモノ自体と物語を紡いでいく気持ちになれる“ローカル性”を感じられるものをつくりたいと思うようになりました」。
森と共生していくブランドに
TANNUKIはコンセプトを3つ設けている。ひとつは加藤さんが話してくれた通り「ローカル性」。完全国内生産にこだわり、デビューコレクションのカットソーは熊本県の職人によって織られた素材を福井県の工場で縫製している。
2つめは「スタイル&ファンクション」。先にファッション性の話に触れたが、素材と機能性にしてもランニングウェアとしての目線は下げない。実際にカットソーを着てみると、ポリエステル100%とは思えないコットンライクで柔らかなタッチ。吸水速乾性やUVカット機能を高く保ったまま、自然な風合いを実現している。
「商品開発を長く続けてきてきましたが、やはりダイレクトにコストに影響するのは素材です。でも、TANNUKIでは素材には妥協したくない」。
タッチと機能、相反するものとも取れる2つの要素を高い次元で融合させることを目指す。また、素材へのこだわりにつながる点として、フィーリングを重視する。加藤さんがランニングに引き込まれたのは「自然」を感じたことからだからだ。
「4,5年くらい前のことですが、何日間か続けて走る機会があり、そこでランニングが単純に楽しいことに気づいたんですね。地面や風、匂い、走りながら頭と身体で感じている実感があり『こんなに心が沸き立つものか』と自分でも驚きました。それまではランニングはトレーニングのためのものという認識しかなかった。誰かと競う考えではなく、黙々と自分と向き合う時間も魅力でした。ランニングアパレルを始めようと思ったのはその経験からですね。パフォーマンスを上げるプロダクトというよりも『感情を左右する』ものを追求していきたいと思っています」。
最後のひとつは「森との共生」。
「この言葉も内山さんが語っている言葉からの引用になります。ブランドネームのTANNUKIは、子供の頃から好きだった動物であり、“里”に住む動物であることから名付けました。繋がりとして森と共に生きていくブランドにしていきたいと思っています。今は森づくりフォーラムと、CAJ(コンサベーションアライアンスジャパン)に参加させてもらっていますが、僕自身まだ森に対する知識が深いわけではありません。ですが、将来は『TANNUKIの森』を作り、アパレルを展開するだけではなく、立体的な活動をしていきたいと考えています。早く具体的な形を見せれるようにしたいですね」。
サステナブルを強く打ち出すことはしないが、DIYやMYOGとも似た思考で、共感できる「仲間」を増やしていくことを目指す。パフォーマンスにこだわるのではなく、「自然」への回帰を促すブランドステートメント。これまでにはないランニングブランドとして、プロダクトはもちろん、その立ち振る舞いにも注目していきたい。
