ASICSが生み出したトップエンドのマラソンシューズ、METASPEED。ストライドとピッチという、ランナーの走法に応じて2種類のモデルをリリースするという新しいコンセプトは、驚きをもって受け止められました。プロトモデルながら、川内優輝選手の8年ぶりの自己ベスト更新という実績もその注目度を大きく高めました。
頂点は常に一つ。これまでどのブランドも、先鋭的なトップモデルは1種類のみでした。ASICSがリリースしたストライド派のためのMETASPEED Skyと、ピッチ派のためのMETASPEED Edge、ランナーの走り方に合わせた2種類のMETASPEEDは、いわば「ランナーファースト」なシューズと言えるかもしれません。してみると、当然のように次の疑問が沸いてきます。「ではこの2足を実際に履いてみたら、どう違うのか?」と。
ASICSが主催したMETASPEEDの試走会に潜入し、その答えを探ってきました。しかしそれがまた、トップエンドシューズらしいスピード感のある試走会になったのでした。
METASPEED Sky そのスピードに驚く
試走会場となったASICS RUN TOKYO MARUNOUCHIには、2種類のMETASPEEDがズラリ。そのうちの1足を手に取ると、レースシューズらしい実在感のない重さ。と同時に無駄のない作りには速く走ることへの使命感のようなものすら覚えます。
試走会のセッションは、2人1組のチームリレー形式で800mを3本というもの。スピードこそがこのシューズの本懐である、と言わんばかりの立て付けであるからには、自分にできる限りのランをしようと気合も入ります。筆者はフルマラソンをなんとかサブ4という走力なので、そもそもこのシューズの本当に「美味しい」部分には至れない人間。800mのダッシュペースで、このシューズが本来想定している健脚ランナーのスピード域を体験します。
選んだのは、すでにこの4月からデリバリーの始まっているMETASPEED Sky。足入れをした瞬間に感じる高いクッション性。ストライド型ランナー向けということが、履いた瞬間から体感的に理解できます。走り始めはストライドを意識。いつもよりちょっとストライド重視の走行を心がけると、面白いようにシューズが応えてくれました。
3分30秒/km(これが筆者の限界)ペースでも、クッションはあるのにブレる感じがしません。このあたりは、ASICSの誇るソール「FF BLAST TURBO」と、カーボンプレートの取り合わせの妙でしょう。また個人的には、アッパーのフィット感がこのブレなさに寄与していると感じました。
しかしながら、800m走の2本目の後半には疲労を感じ、イメージ通りに足が出ていきません。というよりも、足は前にぐんぐん出ていくのですが、上半身が置いていかれるような感覚。足が先に出て、引っ張られるようにして進んでいきます。当然1本目よりもブレーキがかかっている感が強く、より体幹と腕振りを強化しないと、このシューズの美味しい速度域についていけないと実感したのでした。
3本目は息も絶え絶え、最後は4分/kmペースまで落ちました。さすがにこの速度域になると、先ほどまでのシューズがひとり前に出ていく感覚も乏しく、自分の進まなさと葛藤をしながらフィニッシュ。これを履きこなせるようになりたい。そんな気持ちになりつつ。
METASPEED Edge イメージがしやすい正統進化
当社比で追い込みすぎたため、6月に発売のMETASPEED Edgeはジョッグペースでの試走にとどめました。ハイケイデンスでピッチを刻む走法を試せていないので、あくまで試しただけであることを前置きした上で、非常に履きやすいシューズでした。足裏に路面を感じられ、それでいて適度なクッション性。いい意味で、想像のつく範囲のハイエンドロードシューズという印象でした。
Skyのようなインパクトはないものの、質実剛健なASICSらしいシューズの正統進化。ASICS広報担当の方も、日本人ランナーにはEdgeを好む人が多そう、とのことで国内シーンでも広く支持されていきそうです。
アスリートファースト起点
ASICSが今回リリースしたMETASPEED。2種類のシューズを履いてみて、ASICSが世界最高峰のマラソンレースで結果を出すという命題を、シューズ起点ではなくランナー起点で取り組んだことが印象的でした。いまマラソン界を席巻している厚底シューズが、ランナーにそのシューズに最適化した走り方を求めるものだとすれば、METASPEEDは逆にランナーの側に寄り添った提案ということになります。
奇しくも一大スポーツイベントのスローガンと重なる「アスリートファースト」な姿勢を打ち出すASICSのシューズ。トップランナーたちのシェアをどこまで伸ばしていくか期待を込めて注目したいと思います。