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Patagonia(パタゴニア)が日本の若者に向けて“気候のための行動を学ぶ”ワークショップ、クライメート・アクティビズム・スクール(以下、CAS)を開催した。若い世代が抱く気候変動への想いとは?

長年にわたり環境保護活動やサステナブルなものづくりを行うPatagoniaが初めて若者を対象にワークショップを開催した。このワークショップは2部構成。2020年12月に開催された前編、「座学と対話」での学びを受け、後編では実際に気候変動問題に対して行動をする方の話を訊き、自分たちにできることを考えた。今回取材したのは後編のワークショップ。2021年3月、2日間にわたり開催され、再生可能エネルギーについて学び、考えた。参加者は15歳から24歳の学生、社会人。CAS全体では150名ほど参加し、今回取材した再生可能エネルギーについてのワークショップには30名ほどが参加した。

1日目:再生可能エネルギーについて知る

長野県上田市のコミュニティーパワー「相乗りくん」を事例に、再生可能エネルギーに関する有識者や、取り組みに参加する方の話を訊いた。

左上:古屋将太さん(認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員)、右上:藤川まゆみさん(NPO法人上田市民エネルギー理事長)
左下:岡崎謙一さん(岡崎酒造株式会社代表)、右下:柳原健さん(長野県環境部環境政策課 ゼロカーボン推進室長)

「再生可能エネルギー/コミュニティパワー」古屋将太さん

持続可能なエネルギー政策の実現を目的とするISEPの古屋さんは、自然エネルギー(再生可能エネルギー)の基礎や現状について解説した。

「自然エネルギーの価格は一昔前と比較し格段に下がり、導入する一般家庭が増えてきています。一番問題となるのは、自然エネルギー使用に関する目標値が日本は他の先進国と比較し低いことです。目標を定めると、そこに合わせて政策、投資や企業などが進んでいきます」

また、コミュニティパワーの可能性を「原油などは採取できる場所が集中するが、自然エネルギーは分散型テクノロジーであり、あらゆる地域に資源があり取り組むことができ、また地域との繋がりが生まれます」と説明した。

「再生エネ事業と上田のまちづくり」藤川まゆみさん

東日本大震災をきっかけに自然エネルギーに興味を持ち、行動を始めた藤川さん。長野県上田市で「相乗りくん」という誰でも参加できる太陽光発電プロジェクトをスタートした。日当たりの良い屋根を持っていて太陽光発電に関心があるが、導入を躊躇している人(屋根オーナー)と、自然エネルギーを増やすためにアクションを起こしたい人(パネルオーナー、出資者)を繋ぎ、売電収入をシェアするプロジェクト。現在までに54ヶ所に太陽光パネルが設置されている。

「10年間の活動を通して、自分にできることを探している人が多くいることを感じました。前に進もうとする人がいると、周りの人も動き始めることを実感しています。それが社会が変わる原動力につながると信じこれからも続けていきたいと思っています」

「『相乗りくん』に参加する前と後」岡崎謙一さん

岡崎さんが代表を務める岡崎酒造は、屋根オーナーとして「相乗りくん」に参加している。活動をする中で始めは事業に取り組んでいる人などいわゆる“意識高い人”と話すと、自分の意識の低さやに後ろめたさを感じたが、行動を続ける中で自分にしかできないことを見つけた。「興味関心はあるが、行動に移せない人はたくさんいる。そんな人たちの後押しができるのではないか」と語った。

「長野県の気候変動対策策定の現場から」柳原健さん

長野県では自治体としては比較的早い時期である2006年から温暖化対策を行なっているが、当初はハレーションも大きかったという。一昨年の甚大な台風被害は、気候危機を伝えることへの必要性を強く感じるきっかけになった。再生可能エネルギー普及のほか、建物の断熱や省エネの建物、コンパクトシティーや公共交通機関の充実など、様々な取り組みを、地域の人と一緒になって取り組んでいる。

「何をするにも地域の方々の関与が大切です。地元の人が地域のポテンシャルに気づき、地域の資源を使って環境問題にアプローチしたり、経済を回していくことが重要だと思っています」

2日目:気候危機に直面する今、私たちに何ができるのか

1日目のインプットを踏まえ、2日目には、ロールプレイングや、気候変動のための行動案を考えた。ロールプレイングでは、市に風力発電を導入する設定で、市長、行政、風力発電事業者、環境NGO、住民に分かれてそれぞれの意見を出し合い議論した。風力発電について、様々な立場から考え、多角的な視点から考える機会となった。

最後のワークショップでは、特定の地域を仮定し環境問題のためにできる行動プランを組み立てた。現状でどのような政策やプロジェクトが行われているのかを知り、自分たちにできることを具体的な施策に落とし込んだ。

クライメート・アクティビズム・スクールを終えて、参加者の声

高校生から社会人まで、20代の若者が参加した今回のスクール。参加者は何を学び、感じ、行動に移したのか。ワークショップ後、3名の参加者に話を訊いた。

高校3年生、磯野さん

国際協力やNGOでの活動に取り組む母を持ち、幼い頃から環境問題や社会問題が身近にある環境で育った磯野さん。

「高校では総合的学習の時間に『エシカル消費の進め方』をポスターセッションで発表しました。今回のCASでの学びも、ポスターを作成し学内に掲示する予定です。CASではグループごとに地域に着目してアクションを考えるセッションが心に残っています。私の地元を取り上げて話し合いを行いましたが、改めて地元が行う取り組みを知ることができました。学校にいると、フェアトレードやオーガニックの商品を選択していることを話すと、『意識高いね』『あなたはすごいね』と、敬遠されてしまうことが多くて、考えを共有できる人がなかなかいないんです。CASでは問題意識を持った人が集まってそれぞれの思いや悩みを共有できたのが楽しかったです。再生可能エネルギーについては、今まであまり触れてきませんでしたが、これをきっかけに学びを深めていきたいと思っています」

高校2年生、吉野さん

コロナ禍で休校になった期間に、食事を作るようになった吉野さん。料理をするようになると、賞味期限ギリギリの食べ物がたくさん出てしまうことに気付いた。そこから食品ロスに興味を持つようになった。食品ロスもCO2の削減や環境問題につながると思い、CASへの応募を決めた。

「CASの前編を経て何か行動をしたいと思い、スーパーの見切り品を使って作った料理をアップするInstagramアカウントを開設しました。また、スクールで食品ロスに興味を持っている大学生にも出会うことができました。同じ想いを持つ人が集まり、食品ロスに関するFacebookグループを立ち上げて、情報交換や勉強会をしています。いずれはアクションに移せたらと思っています。グループでは全国各地の大学生とも繋がることができ、新しい学びが刺激的で楽しいです」


吉野さんのインスタグラムアカウント。スーパーの見切り品や自宅にある食材を使用して作った料理、レシピをアップしている。

野外教育を行う、服部さん
日頃からトレイルランニングや外岩でのクライミング、スキーなどさまざまなアウトドアスポーツを楽しむ服部さん。小さい頃は家族でキャンプに行ったりスキーをすることが多く、自然が好きになった。今春に大学院を卒業し、現在は子供たちに自然の中で遊ぶ楽しさを伝える野外教育を行っている。CASでは、ロールプレイが特に印象に残っているという。

「政策を行う上で、様々な立場の人が違った視点で考え意見を持っていることを知りました。今後の自身の活動でも、自分がやりたいことに対して地域の人がどう思っているのか、経済的な効果はどうなのか、など多角的に考えて行こうと思います。ただ、子供たちに野外教育をするときに、環境問題など強制することは良くないと思っているんです、自然の中で遊んで楽しかった記憶が将来の行動に繋がることを願っています」

取材を終えて

若い世代の人にとって気候変動はとても重要で身近に感じている問題だ。参加者が積極的話を訊き、意見を交わす姿は印象的だった。CAS終了後インタビューに応じた3名は、すでに何か行動に移していたり、CASで繋がった仲間とアクションを起こそうとしていた。筆者も20代であり参加者と大きく歳が離れているわけではないが、とりわけ高校生や20代前半の人は気候変動に対して強く危機感を抱いていることが分かり、素直に驚かされ背筋が伸びる思いがした。

参加者が共通して感じているのは、周囲には環境問題や社会問題に取り組むことに抵抗を感じている人が多いということだ。積極的に取り組み発信する人もいるが、まだまだ全体には浸透していないようだ。考えてみると、欧米では環境NGOなどが強い影響力を持ち、企業の社会的責任を問う不買運動なども頻繁に行われているが、日本では問題意識を持ち行動に移し表現することは、躊躇されがちなのかもしれない。

今回インタビューした高校生2名はどちらも学校の授業でSDGsについて学んだり、筆者も大学では(今回ファシリテーターとして参加した株式会社エンパブリックの広石さんが担当する)サステナブルビジネスの授業があったり、少しずつ社会問題や環境問題が身近となり、実際にアクションを起こす人も増えているのではないだろうか。環境問題が深刻化する今、自分にはできない、関係ないと後回しにするのではなく、若い世代の人と共に考え、アクションを続けていきたい。