スポーツ用品やアウトドア用品を扱う店舗が数多く集まる東京・神田エリア。その路地裏にあるパタゴニア東京・神田ストアが昨年2021年にリニューアルを果たした。
春夏シーズンはクライミング、秋冬シーズンはスノースポーツに特化した国内初となるテクニカルストアとして、幅広いニーズに応えるラインナップを取り揃える。ギアのメンテナンスや修理方法の提案、そして、レンタルサービスも充実しているということで、ビギナーからエキスパートまでをフォローしてくれる頼もしい存在だ。
過日、そのパタゴニア東京・神田ストアにてパタゴニアのアルパインクライミング、ロッククライミング・アンバサダーである横山“ジャンボ”勝丘氏によるトークイベントが開催された。
トークイベントは彼が2017年、2019年、そして、2021年の3度に渡って行ったアメリカ・ユタ州南東部、モアブ近郊にある渓谷へのクライミングトリップを振り返る内容。同じくパタゴニアのスノーボード・アンバサダーで2019年と2021年に同行している加藤直之氏とともに語った。
彼らが取り組んだのは、横山が敬愛する伝説のクライマー、ジェイ・スミスが見つけたミネラルキャニオンという美しい渓谷で岩にあるひび割れを手がかりに登るクラッククライミング。ジェイ曰く「1本だけクラックの上にアンカーがあるのを見つけただけ。それ以外は全くの手つかず。もしこれをフリーで完遂できたら、ユタのこの界隈でも5本の指に入るいいルートになるだろう」、その言葉に“未知”を求める冒険心が突き動かされたのだった。
©Masazumi Sato
2017年の4日間の滞在で挑戦を決意した横山は、2019年に加藤、そして、パタゴニアのロッククライミング・アンバサダーである倉上慶大とともに再訪。
「ただ登るのではなく、地球のスペクタクルを感じる。なかなか経験できない楽しみを分かち合える人と行きたい」と横山がイベントでも語ったように彼らのクライミングトリップはただただ課題に競技的に取り組むための過程ではなく、ウィルダネスを共に楽しめる仲間と冒険を分かち合うようなもの。クライミングだけでなく、レストの日やキャンプ地での時間も大切な旅の醍醐味なのだ。
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横山と加藤のふたりでの挑戦となった2021年。「自分自身のプロジェクトに対して、特別な準備はしてこなかった。2年前の経験で身体が慣れていたので、かなり早い段階でムーブが洗練されていたので最初の1週間を終えて『これはいける!』とリードを始めました」。
ルート上の最難関部である核心を超え、10数メートルを残しながら幾度となく完登を目指すも最後の一手が決められない。そのような状況がつづき、滞在期間のリミットが近づいてくる。プレッシャーに押しつぶされそうになる中、2021年11月22日に42回目のトライで登り切ることができたのだった。
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クライミングトリップの模様はパタゴニア公式サイトのクライミング・ストーリー『the Bond: つなぎとめるもの』にて詳しくレポートされている。
横山はそのルートを「the Bond」(5.13+)と名付けた。「このクラックが様々につなぎとめてくれたという意味を込めました。僕もジェイもこの場所を発表するつもりはない。いつか何年後か何十年後かにクライマーがここを見つけるはずなんです。絶対にこのクラックは目に入る。自分自身と未来のクライマーをつなぐという意味もあるんです」
今回の特集テーマである〈The accidental tourist 偶然の旅行者〉としてのクライマーがこのクラックを見つけることになるかもしれない。彼らは横山が刻んだブラーク(石版)を見た時に何を思うだろうか。彼の地への旅情とともに、冒険心が掻き立てられるというものだ。
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