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山形県は意外に大きい。そして人が生活できる平らな土地は山岳によって隔てられているために鶴岡のある庄内地域、新庄を中心とした最上地域、米沢のある置賜地域、そして県庁所在地の山形市がある村上地域にわかれていて、習慣や食文化も違っている。それぞれの地域に魅力的なレストランやバーが存在するが、旅の最初に訪れるなら山形市の〈ナチュラルワインときまぐれキッチン プルピエ〉をお勧めしたい。
店主の佐藤洋一郎さんと話していると“縁”という言葉が頻繁に聞こえてくる。それは山形の各地域を繋ぐ縁でもあり、東北を繋ぐ縁でもあり、世界中の気持ちが通じる生産者との縁でもある。仕入れやイベントを通して繋がった縁の結節点が〈プルピエ〉だから、ここで身体に優しいナチュラルワインとインプロビゼーションに満ちた料理を味わいながら、それらがどこから来て、どんな物語を持っているかに耳を傾けることで、これからの旅の期待感が高まり、訪れるべき場所のリストも厚くなっていく。

〈プルピエ〉は、市内の別のお店で一緒に働いていた店主の佐藤洋一郎さんとシェフの武田悠さんが令和の最初の日に立ち上げた。

「以前働いていたお店は60席くらいの大きな場所でワインを提供するスタイルで、そのころの山形でワインの文化を伝えるひとつの役割を果たしていたと思います。ただ、僕がもともと好きだったナチュラルワインの作り手と会う度に、こういう魅力的な人たちのことをもっと丁寧に伝えたいなと思ったんです。じゃあ、一年のうち350日くらい一緒にいた武田とふたりで始めよう、となったのがこのお店なんです」と佐藤さんが開店までの経緯を教えてくれた。

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店主の佐藤洋一郎さんは、宇都宮のバーで修行し輸入ワインの専門商社で経験を積んだ。ナチュラルワインを自身の言葉で物語にして伝えてくれる。

ふたりが惚れ込んだナチュラルワインの魅力を伝えたいと規模感を意識した席数は24席程度。いまは若いスタッフも参加して3人でお店を切り盛りしている。JR山形駅のほど近くだが落ち着いた通りに面し、ガラス張りの店内は夜になるとガス灯のように柔らかく輝いて、県内外問わずワインと美味しいものが好きな人々が集まって賑わいを見せる。

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山形のワインの普及に貢献してきたふたりのお店だから2019年のオープン直後からすぐに人気店となったが、間もなくコロナウィルスの緊急事態宣言の下での営業を強いられた。

「大丈夫だったかと言われればそうではないですが、なんとかやってこれました。テイクアウトをしながらでも営業を続けたのは、食材のロスを出したくない、生産者さんへの循環を絶対に止めたくないという理由でした。自然な農法でやってる作り手さんは、夏になればトマトや胡瓜が出てきますし、茄子が出ますし、冬になればそれはそれでいろんな食材がありますし、それを廃棄ということにはしたくなかった。だから、うちは今まで通り食材を扱っていこうと。

ナチュラルワインも農産物なので、この時期になると世界中からリリースされるじゃないですか。なるべくちゃんとそれを預かって、ってやってたらワインがずいぶん増えてしまいました(笑)」

そう笑う佐藤さんの目線の先には、セラーから溢れんばかりのワインストックが。お店のキャパシティを超えるほどのワインがある訳は、作り手との関係を大事にする〈プルピエ〉の気持ちの現れなのだと気づかされた。だから扱うワインのラインナップも信頼関係を大事にしたものだ。

「日本のワインはナチュラルワインであることを大前提として、作り手さんとのご縁を大事にしています。でも、例えば山形の〈ウッディーファームワイナリー〉さんのようにナチュラルワインとは謳わないポリシーをお持ちでも、畑に除草剤をまかない育て方をしていたりするような信頼できる作り手さんのものは扱わせていただいています。

国には拘っていません。フランスが一番多いのですが、ドイツ、イタリア。あと僕はオーストラリアが好きなのでオーストラリアのワインとか。作り手やインポートしている方、それを仕入れている酒屋さんとの繋がりの中で、うちで歓迎できるなと思ったら扱うという感じです」

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そうしたワインに合う料理を提供する武田シェフは、ソムリエの資格も持っている。日本一ブラインドテイスティングが当たらないソムリエですよと笑って謙遜するが、ナチュラルワインを愛する気持ちから料理も変化していったという。

「比較するわけではないですけど、一般的な亜硫酸などを使ったワインとナチュラルワインは別物とは言わないまでも飲み心地が違います。ナチュラルワインに合わせるには野菜もより自然なものの方が良いですし、ワインの奥行きに合わせて素材が伸びるようにするにはどうしたらいいかなと考えています。ここ最近は、スパイスを使って香りを立たせてワインと合わせるという考え方が面白いなと思っていろいろ試しています」

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シェフの武田悠さんは、フレンチの経験をベースにイタリアンや和食、そばといった多様な経験の引き出しから、旬の食材をナチュラルワインに合う料理へと変身させる。

佐藤さんも、野菜へのこだわりを話してくれる。

「うちは寒河江市にある〈お日さま農園〉という無農薬でやってる農家さんからお任せで野菜が届くんです。それが季節を感じさせてくれますね。今ならピーマンとか、つるむらさきが届きますし、さくらんぼは先週で終わりくらい。それを見てぱっと料理できるのが武田の素晴らしいところです。これを作りたいという我が強すぎない。届いたものを活かしてくれます」

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料理:前菜の盛り合わせ(2名分) ワイン(左から):ASHID DELA (イエローマジックワイナリー) / Rosato Bis! Ripasso(ファットリア・アル・フィオーレ) / Sans Soufre BLANC(タケダワイナリー)

「前菜盛り合わせは季節によっても変わりますが、今日の内容はズッキーニのサラダ、もち豚の内モモを使った自家製のハム、お日さま農園の野菜を使ったピクルス、もち豚の肩ロースを使った中にハーブやスパイスを入れた焼きハム、キャロットラペ、トマト(エコスマイルとシンディスイート)のマリネ、豚タンのコンフィ、伊熊商店のバゲットとロースハムのムースです。夏の暑さが厳しいのでピクルスのように酸の強いものを取り入れて」(武田シェフ)

「〈アルフィオーレ〉さんは、人気のレストランを突然閉めて、宮城の川崎町でワイナリーを始めました。その立ち上げの頃から関わらせてもらっています。農家さんと一緒に収穫して、ワイナリーでこんなワインにしたいとお願いして、プルピエオリジナルワイン〈キュヴェ・プルピエ〉も作ってくれています。僕らにとっては切っても切り離せないワイナリー。ここからいろんな料理人や生産者さんと繋がっていきました」(佐藤さん)

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料理:最上鴨のロースト ワイン:Tikka the cosmic cat(ヤウマ)

「最上鴨はお米を食べさせている鴨で、海外の鴨と比べて血のような鉄分っぽい感じが少ない。だから赤ワインソースのような甘めのソースではなくて、野菜を使った青みのある感じに。コリアンダーを刻んで、いっしょに食べてもらうのが一番あってるかなと思ってます。メインのお肉の付け合わせに野菜をいっぱい食べてもらいたいんですよ。珍しいのはピーマンの芽。ちゃんとピーマンの味がします」(武田シェフ)

「生産者は〈Jauma〉と書いてヤウマと読みます。オーストラリアを訪ねたときに泊めてもらったこともありました。元々ソムリエだったんですが、オーストラリア最優秀ソムリエに輝いた後に、ワイン作りの道に走ったという作り手です。南オーストラリアのナチュラルワインのパイオニア、ルーシー・マルゴーのお弟子さんになって、メキメキと頭角を現して自分でワイナリーを持ちました。今では南オーストラリアの御三家と呼ばれています。〈Tikka the cosmic cat〉はシラーズとグルナッシュを使ったワインで少し青臭さもあるので、このニラとコリアンダーを使った鴨のお肉と合うかなと思って」(佐藤さん)

いろんな方の日常の一部に

オープンしてからは怒涛であっという間の3年だったと笑うふたりに、これからの〈プルピエ〉がどうなっていくのか尋ねてみた。

「コロナの真っ只中でお客さんが少なくなって、それでも来てくれる常連さんに支えられてやっていけている。これからも、お客さんにもっと喜んでもらえるようにしていきたいです」と話す武田シェフからは真摯な人柄がうかがえる。一方、佐藤さんにはこの先のお店のあるべき姿が見えているようだ。

「お客さんからまだ3年なのって言っていただいて、それは街に馴染んでいるということですごく嬉しい言葉ですし、一方でこちらもしっかり地に足をつけていかなきゃいけないなと感じています。

ナチュラルワインは特別なものじゃなくて日常のものだから、いろんな方の日常の一部になりたいなって思います。自分の尊敬する方が買い物は投票だっておっしゃるんですけど、全くその通りで、自分がその時になんでそれを選択するのか、誰を応援したいのか、先を見て気にかけていけるようになったら豊かな時代がくると思います。うちはそれを食事やナチュラルワインという文脈からできるようにしていきたいなと考えているんです」

ナチュラルワインと気まぐれキッチン プルピエ

ナチュラルワインと気まぐれキッチン プルピエ

所在地 山形市桜町2-42
電話番号 なし
営業時間 18:00~24:00(金・土曜 18:00~25:00)
定休日 月曜(不定休あり)
※予約はインスタグラム、またはフェイスブックのメッセージから
FB https://www.facebook.com/people/プルピエ-Pourpier/100057227058092/
Instagram @pourpier_naturalwine