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スノーボードシーンを牽引する〈Burton〉は、創業以来、地に足のついたビジネスを行い、ソーシャルグッドな取り組みを続けている。2019年に〈B Corp〉認証を取得した〈Burton〉が考えるより良いビジネスモデルとは?

1977年、ジェイク・バートン・カーペンターが、アメリカ・バーモント州のガレージでスノーボード作りを始めたことから誕生した〈Burton〉。創業から半世紀近くに渡り、スノーボードカルチャーを牽引しつづけてきたパイオニアだが、同時に、サステナビリティや女性の地位向上、そしてコミュニティへの貢献といった取り組みを続けてきた企業でもある。

たとえば、女性ライダーとの契約に妊娠や出産、授乳期間にまつわる項目を追加する、気候変動政策へのロビー活動を行う、原料調達から廃棄にいたるプロセスでは、本社、工場、全てのサプライチエーンにおいてCO2排出削減に努めるなど、より良いビジネスモデルを目指してさまざまな施策を行ってきた。

そんな〈Burton〉が念願の〈B Corp〉認証を取得したのは2019年のこと。スノーボードカンパニーとしては初の事例だったという。

〈Burton〉の企業理念を広く実現するための〈B Corp〉

「取得したのは2019年ですが、その10年も前からBIA(※1)のプロセスに取り組んできました」というのは、本社のアリ・キーニーCSO。

アリ・キーニーCSO

「ビジネスモデル、企業戦略が社員にもたらす効果、コミュニティ、環境、顧客からサプライチェーン、社員の福利厚生や慈善事業への貢献といった項目が評価の対象になりますから、社内の各分野のリーダーを集め、それぞれに責任ある方針と基準を設けているかをチェックし、その内容を進化させてきました。

もちろん、〈B Corp〉の基準を満たすことは簡単ではありません。私たちは会社の登記をバーモント州のベネフィット・コーポレーション(※2)に変更しましたが、それもこの一環として行ったもの。つまり私たちの価値観や倫理観を、定款や細則、事業戦略に法的に盛り込んだのです」

※1 〈B Corp〉認証制度には「B Impact Assesment(BIA)」と呼ばれる評価ツールがある。認証の申請には、企業規模・業界・所在地によって異なる従業員・地域社会・顧客・環境に関する約200問の質問に答える必要がある。
※2 公的な役割を目的とする会社形態で、アメリカの37州で法制化されている。ベネフィット・コーポレーションになると、取締役は株主だけでなく公共の利益を考慮したビジネスを行わなくてはならない。また、たとえ会社が売却されても会社の価値観を継続することができる。

〈Burton〉は、コストを費やして利益を追求するという旧来のビジネスモデルから脱却し、すべての人々、コミュニティ、地球に利益をもたらすことを追求しても、企業(そして経済)は成功できるということを証明したいと考えている。そのとき、同じに理念をもつ企業が集まる〈B Corp〉のコミュニティに参加することが大きな力になるという。

「この運動に参加することは社会をポジティブな方向に導くだけでなく、企業があらゆる分野で責任ある行動をとっていることを、消費者に伝える評価システムを強化することにもなります。ここ最近、キャッチーなマーケティングのためのグリーンウォッシュが非常に多くなっていますが、〈B Corp〉認証は信頼できる企業をサポートしたいという消費者にとっての指針にもなるのです」

〈Burton〉がビジネスを行う、“金儲け”以上の理由

〈Burton〉は現在、3〜5年先の長期的な目標を据え、先進的な取り組みを行っている。たとえば温室効果ガスについては、年間排出量よりも多くのCO2を除去することでカーボンニュートラル以上の“カーボン・ポジティブ”になることに力を注いでいる。

そのほか目標に掲げているのは、自分たちのすべての製品が地球と人々にとって健康的であることを保証すること、公正な報酬、責任ある材料調達、公平性、多様性、包括性の推進など。これらの取り組みや目標は透明性が大切であるとの考えから、〈B Corp〉などの第三者認証を通じて公開している。

「アウトドアブランドは、カーボンフットプリントについて自分たちに責任があることを確認するような、組織的な取り組みを行わなくてはいけません。たとえば、自社が排出する温室効果ガスの量を測定する、それを削減するための長期的な目標を立て、毎年その進捗を公表する、などです。だって、私たちの生活の基盤も情熱も、フィールドが健全であってこそ存続できるのですから。悲しいことに、大半のアウトドアブランドはそうした行動をとっていません。まったく信じ難いことですが…… 。

カーボンフットプリントの削減量において、〈Burton〉は模範的なモデルであり続けたいと考えています。けれども気候危機はあまりにも大きな問題で、一企業でできることは限られています。電力システムや交通機関に再生可能エネルギーを採用するというような大規模な変化をもたらすには、強力な公共政策が必要ですよね。

〈Patagonia〉は、パートナーである〈Protect Our Winters(POW)>をはじめとする支援団体と協力し、気候変動対策に向けたコミュニティの結束を図っています。例えば、環境保護のために投票するよう、消費者に呼びかけたり、気候変動に関する法律を制定するよう働きかけたりしています。

私たちも〈POW〉やプロアスリートと手を携え、気候変動に対してポジティブな影響をもたらす政策を提唱し、気候危機を回避するための大きなうねりをもたらすべく行動しています」

公平で多様性のあるボードスポーツ・コミュニティのために

カーボンフットプリント削減と同じくらいの情熱を注ぐのが、〈Chill〉という若者支援のプログラムだ。創業者であるジェイクとドナが1995年に設立したバートン財団が前身となっているもので、当初は若者のためのライディング習得プログラムだったが、スノーボードに必要な忍耐、勇気、困難な状態から立ち直る力は日常生活にも応用できることから、青少年育成組織〈Chill Foundation〉として発展した。

差別や貧困、家庭的に困難で恵まれない子供たちのコミュニティを対象にしていることから、参加費も無料。現在は世界9カ国22拠点で、スノーボード、スケートボード、サーフィン、スタンドアップパドルボードの青少年向けプログラムを実施している。

「〈Chill〉は、〈Burton〉のビジネスをうまく軌道に乗せたジェイクとドナが、スノーボードコミュニティへなにかを還元したいと考えたことがきっかけで生まれました。毎年3,000人以上、設立以来、3万人以上の青少年にサービスを提供しています。このプログラムは、制度的に疎外された地域の青少年を主な対象としており、参加者の70~75%がBIPOC(黒人、先住民、有色人種)を自認しています。プログラムの内容はさまざまですが、彼らがボードスポーツのスキルアップを通して得た経験や内面の成長が、日常生活にも反映されています。ボードの上でも外でも、彼らは自分のコンフォートゾーンを飛び出すことに挑戦するようになるのです(〈Chill Foundation〉ベン・クラークCEO)」

〈Chill Foundation〉ベン・クラークCEO

〈Chill〉のプログラムの中心にあるのは、帰属意識を持ちながら内面的に成長する青少年が、より公平なボードスポーツ・コミュニティの構築に貢献するというビジョンだ。

「〈Chill〉のプログラムを通して、ボードスポーツ界をより公平で多様性のある、包括的な場所にできたらと考えています。そこでは、あらゆるアイデンティティを持つ若者が楽しみながらライディングを上達させ、強い帰属意識を経験することができます。そうした経験は心身の健康に寄与し、教育や職業上の成功を導くはずです」

責任ある企業として

カーボンフットプリントにしろ、公平なボードスポーツ・コミュニティの構築にしろ、〈Burton〉の中心にあるのは「企業は地球や地域社会に与える影響に対して、責任ある行動をとらなければならない」(アリ・キーニー〈Burton〉CSO)という信念だ。

現在の経済システムでは価格に反映されていないけれど、自社のビジネスが生み出すマイナスの影響を常に把握して省みること、世界にポジティブな影響を与えること、企業が社会やコミュニティ、自然環境から「取る」以上のものを「与える」ことを約束すること――というのが、〈Burton〉の存在意義なのだ。

「私たちがビジネスを通じて成し遂げたいのは、エゴや個人の利益に振り回されることなく、地球とすべての人々の幸福に焦点を当てた社会の実現です。私たちは現代のビジネスモデルを変革することで経済、政府、地域社会を変えることができると信じています。〈B Corp〉とそのコミュニティが、私たちの変革の助けとなってくれるのです」

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