12月4日、そこにはいままでありそうでなかった風景が広がっていました。第17回湘南国際マラソンは世界初のマイボトル・マラソンとして生まれ変わり、給水所での紙カップを廃して、ランナーがマイボトルやマイカップを持って走るスタイルになりました。マラソン大会では当たり前になっていた、給水所のゴミだらけの風景はなくなり、クリーンなマラソン大会の新しい景色の中を走る最初のランナーのひとりになれたことを誇りに感じます。
当たり前の景色を変える
今回の湘南国際マラソンはメインスポンサーが〈THE NORTH FACE〉になったことをきっかけに、マラソン大会の当たり前を変えていこうという動きの中で改革がスタートしました。アウトドアメーカーである〈THE NORTH FACE〉の目から見た時に、大量のゴミが生まれる大会運営はそのまま受け入れることは難しかったと言います。そこで運営主体である〈ランナーズ・ウェルネス〉との取り組みによって、誕生したのがマイボトル・マラソンでした。
具体的にはランナーはマイボトルもしくはマイカップを持って出走することが義務付けられます。給水ポイントに紙カップは置かれていないので、独自開発したジャグ(給水器)からマイボトルに給水するか、マイカップにその場で注いで補水します。これだけを聞くとランナーの負担ばかり増えるように感じるかもしれませんが、特筆すべきは給水ポイント数です。なんと200ヶ所に用意されているため、ランナーは必要なタイミングで給水することができるのです。
コンディションは抜群 いざ出走
わたくし編集長の松田が、公式のマラソンを走るのは2019年の台湾マラソン以来実に3年ぶり。夏にトレイルランのレースを経ていたものの、忙しさから大会前になるとぐっと練習量が落ちてしまっていました。そこで目標はサブ4での完走に設定し、マイボトルマラソンをしっかり味わうプランに。
マイボトルマラソンということなので、ボトルをどう持つかというのが装備の課題になります。いまは〈THE NORTH FACE〉からも揺れないポケットがついたショーツが販売されていたり、一般ランナーがマイボトルを持ってマラソンを走ることもまったく苦ではなくなっています。
ただ、自分の場合は極端な寒がりで、マラソン大会のスタート位置での待機が一番のストレス。ならばと、トレイルランナーらしくザックを背負って、そこに防寒具を入れて走ってみてはどうだろうと思いつきました。山を走る時はザックにボトルや補給食、防寒具を入れて走っているし、そこに負担は感じていないので、ロードレースでそれをやってもいいじゃん!という考えです。
これはスタートの寒さ問題とその不安を一気に解消してくれました。今年の湘南国際マラソンはかなり暖かなコンディションだったので、防寒はマストではありませんでしたが、それでも半袖とショーツで待機するのは自分にとっては厳しかったと思います。選手の中にはマラソン大会でよくあるビニール袋をかぶって防寒にしている方もいましたが、普段の大会と比べると少ない印象でした。ここは、大会も課題を感じているようで、防寒に伴うゴミの問題も、今後いろいろアイデアが出てくることを期待しています。
世界初のマイボトルマラソンの景色
実際に走ってみると、思いがけずザックを背負ったランナーが多いのに驚きました。みなさん考えることは同じだなと感じたと同時に、〈THE NORTH FACE〉サポートの大会になったことでトレイルランナーの参加率があがったのかなという印象も持ちました。逆にロードランナーの方は、こうしたトレイルランナーの装備をみて、次回に取り入れたり、トレイルランニングに関心を持ったりという相乗効果もあったのではないでしょうか。
走ってみると序盤から手厚すぎるほどの頻度で、給水ポイントがあらわれます。最初の10kmまでは、利用者も少ないのでもっと減らしても良いのではと思うほどでした。
自分はというと、目標を4時間に設定したものの、大会あるあるで3時間半のペースで気持ちよくスピードをあげて走ってしまいました。いつも練習で20km走をする時はたいして水分を摂らないので、江ノ島の折り返しまでに給水したのは一度きり。ここで体に違和感を感じ始めました。ハーフ地点に至る頃にはまさかの両足痙攣…。まったく走れません。歩いては少し走りを繰り返しますが、時間は進むのに距離はいっこうに縮まらない。辞めたくてたまりませんでした。
けれど以前の湘南国際マラソンで目標タイムに届かないことがわかった時点でリタイアしてしまったことがあり、その時はレース後にものすごく後悔したことを覚えていたので、今回はどんなに悪い記録でも少なくともゴールまでは行こうと決心しました。
そんな訳なのでレース後半は給水ポイントの数の多さに助けられました。前半は水やスポーツドリンクを中心に摂取していましたが、後半はカルピスの甘さが救いに!しかも進んでいくと巨峰味、いちご味と味変まであって、至れり尽くせりでした。
最後は湘南国際マラソン出場者を苦しめる、ゴールを素通りしての折り返しに至り、ギャラリーを意識してここだけは走りました。結果は4時間42分21秒というダントツのワースト記録。でも、記録が悪くても最後まで続けたことに自身の成長を感じました。
そして何よりも、クリーンな給水所の風景を間近にみられたこと、世界初のマイボトルマラソンに参加できたことが喜びとなりました。17,000人近いランナーが走ったという湘南国際マラソン、このランナーたちはきっと従来のゴミの多いマラソン大会に違和感を感じるようになるはずです。この一歩が新しいマラソン大会のスタンダードを作る大きな一歩になるに違いありません。