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東京・檜原村を拠点とし、既成概念にとらわれない幅広い事業内容をもつ林業会社〈東京チェンソーズ〉。以前の取材では、課題と向き合いながらも林業の可能性を広げる彼らのさまざまな活動を知ることで、森林資源の重要性を理解することができた。そして今回、地域や協力者とともに始動した〈東京チェンソーズ〉の新たな挑戦に注目したい。

東京チェンソーズは、檜原村、学校法人桜美林学園と産官学連携の〈子どもの好木心『発見・発掘』プロジェクト〉を始動した。『檜原村トイビレッジ構想』を掲げる檜原村を舞台に、プロダクトデザインを学ぶ学生と協働し、林業会社ならではの市場に流通しない素材を活かした新たな木のおもちゃの商品開発を行うという。

〈子どもの好木心『発見・発掘』プロジェクト〉が目指す3つのゴール

1.子どもが感じる木の素材への“ワクワク”を起点としたおもちゃを開発し、地域産業の活性に貢献すること
2.開発されたおもちゃで遊ぶことで、子どもたちの好奇心が「好木心」へと昇華すること
3.おもちゃを通じた子どもたちの“好き”が親や先生など周囲の大人に伝播することで、森と人とのつながりが広がっていくこと

プロジェクトの土台となる『檜原村トイビレッジ構想』とは、どんな世代も親しみやすい「木のおもちゃ」をキーにした檜原村の魅力を最大限に活かす取り組みだ。総面積の93%が森林となる檜原村では、かつて暮らしを支える“炭焼き”が盛んに行われ、森と人との間にも深い関係性があった。しかし、エネルギーの転換により炭焼きは衰退していき、時代の流れと共に人々の関心は森から離れていってしまった。

おもちゃを通してその関係性を再度つなぎなおそうと、『檜原村トイビレッジ構想』が掲げられ、産業と観光の両軸について、おもちゃ工房の設立(2019年11月)、檜原森のおもちゃ美術館の設立(2021年11月)と取り組みが進められてきた。

今回はセカンドステージとして、“Made in 東京”の木のおもちゃの新ブランドを作り、檜原村の魅力を高めること、また、地域の林業・木材産業の活性化により村の豊かな自然環境が持続可能な形で次の世代へとつながっていくことを目指している。

〈プロジェクトリーダーの声〉

このプロジェクトの運営を担う、東京チェンソーズの販売事業部高橋和馬さんにお話を聞いた。

ー『檜原村トイビレッジ構想』から生まれた、新しいプロジェクトなのですね。

「はい、東京チェンソーズはこれまでも『檜原村トイビレッジ構想』のもと、木のおもちゃ制作に取り組んできました。林業といえば、建築用の構造材などを伐り出す作業をイメージすると思いますが、この地域の急峻な地形ではそれらを効率よく生産することが難しく、また、丸太価格の低迷もあり、林業のかたちを考える必要がありました。

そこで、『おもちゃの村』として有名なドイツのザイフェン村からインスピレーションを受けました。夏は山岳、冬はスキー客で賑わう田舎町ですが、メインストリートにはおもちゃを求めて世界中から人々が訪れる場所です。村の人口約2,200人のうち、半数がおもちゃの産業に関わっていて、檜原村がそんなふうになったらいいなと参考にした背景があります。

自然豊かなこの地域にも、登山コースや森林浴のできる散策路はありますが、認知して来てくださるのは年齢層の高い方々。世代問わず交流できるようにと、子どもたちをターゲットにしたプロジェクトになっています」

ー桜美林大学の学生さんは、今回のプロジェクトにどのように貢献するのですか?

「東京チェンソーズがこれまでに木のおもちゃを制作してきた経験を活かせても、デザイン面については、ゼロベースから新たに作り上げることは容易ではありません。そこで、桜美林大学准教授で、プロダクトデザインを教える林秀紀先生にアプローチしました。林先生は、幼児期から木材体験を行う“木育”の研究者であり、木のおもちゃが子どもに与える影響や発達を促すデザインを書籍にまとめています。

林先生のもとでプロダクトデザインを学ぶゼミ生のみなさんにデザインの提案をお願いしたところ、快く引き受けてくれました。学生にとっても、学内の発表会を超え、販売を前提にパッケージングや売上まで考えてデザインすることが貴重な経験となるようです。フレッシュなアイディアに期待しています」

ー学生さんたちに伝えているデザインのコンセプトや条件はありますか?

「1)素材を活かす、2)子どもたちがひと手間加えることで完成する、3)空間を活用する、という3つを提示しています。

東京チェンソーズの事業のひとつにある『1本まるごと販売』のように、森林資源を余すことなく使いたいという、私たちがものづくりで大切にしていることを学生の皆さんにも理解してもらいたいなと思っています。木の枝や、細かったり形の歪んだ丸太、根っこ、“根張り”と言って伐採の際、最初に切り落とす三角形に切り取られる部分など、ホームセンターで売っていない山の素材を活かすことをベースに盛り込んで欲しいとお願いをしました。

また、ターゲットとしては、幼稚園や保育園です。一般販売もする予定ではありますが、まずは近隣地域の園向けに提案していくので、その空間を活用でき、子どもたちが一手間加えて遊べるものをデザインして欲しいとオーダーしています」

ー高橋さんは、商品化のプロセスでブラッシュアップする役目ですが、プロダクトデザインのご経験があるのですか?

「いいえ、プロダクトデザインの経験はないんです。もとは大手の食品メーカーで働いていて、2年前東京チェンソーズに転職してきました。最後の5年間、商品開発・マーケティングの部署にいて、当時は飲料の中身やそのコンセプトを考え、新製品の開発をし、販売する仕事をしていました。その経験から私が考えられることもある一方、立体物のデザインとなると専門的な知識になるので、林先生に協力してもらいながらこれから出てくるアイディアに対して、私たちが中心となりブラッシュアップしていく予定です」

ー商品開発における現在のステージは?

「今、学生のみなさんはアイディアを広げるために授業を受けている段階です。建築家や木材を扱うデザイナーはたくさんいる中で、私たち林業会社がものづくりをする上で大きく異なるのは、すぐ側に森があるということです。将来デザイナーになる若い学生さんたちには、林業のことや森林のこと、使う素材の背景について知ったうえでアイディアの幅を広げてもらうことが一番重要だと思っています。

4月には2日間、合宿で檜原村に来てもらいました。社有林や工房を見てもらい、素材を実際に手に取ってもらいました。商品企画のワークショップも行いました。

『幼い頃に行ったきりで、しばらくぶりの森の中は感動した』とか、『公園の木や街路樹が気になるようになった』という感想が聞けました。私自身も、これまで通り過ぎていた景色に対する意識の変化から考え方までも変わった経験があるので、同じようなことを感じてくれたのは嬉しいですね」

選ばれる数量はまだ未定だが、7月下旬に出揃うプロトタイプの中から商品化するモデルが決定する。その後、デザインのブラッシュアップや商品名称が決定していく流れだ。スケジュール通りに進めば、来年4月には、檜原森のおもちゃ美術館などでの試験期間を経て、幼稚園や保育園での利用、一般発売がされるとのこと。

興味があるけれど森林との関わり方がわからない人にとって、商品を購入し国産材のおもちゃに触れることからでもいいだろう。〈子どもの好木心『発見・発掘』プロジェクト〉によりこれから誕生する木のおもちゃブランドが、檜原村の森と繋がりを感じられる一つの手段になる。

〈子どもの好木心『発見・発掘』プロジェクト〉特設サイト
https://tokyo-chainsaws.jp/koukishin/