昨年のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)では、首位争いを演じてレースを大いに盛り上げた大迫傑選手。MGC第一回、第二回と続けて上位で走り切るその安定感と強さは、大迫選手のランナーとしての魅力を多くの人の目に焼き付けた。惜しくも2位以内には届かなかったが、3つめのパリの代表権に最も近い場所にいる選手と言えるだろう。その大迫選手の走りを支えたのが〈ナイキ アルファフライ 3〉だった。昨年の暮れ、大迫選手が〈ナイキ アルファフライ 3〉と自身の走りについて語った。
バランスが良くなった〈ナイキ アルファフライ 3〉
10月のMGCでも実際に着用されていた〈アルファフライ 3〉のプロトに関して、過去に履いていたアルファフライ、ヴェイパーフライと比べた履き心地や、進化を感じている点等あったら教えてください。
―〈アルファフライ 3〉に関しては、2023年の東京マラソンから履いていて、かなりしっくりきています。バランスが非常に良くなりました。そしてさらに軽くなったので、今後はマラソンにおいてはヴェイパーフライではなくて、アルファフライを履きます。
反発がしっかりありつつも、引き続きクッショニングもしっかりしており、さらに今まで多少足りていなかったバランスの良さというのが追加されたので、非常に履きやすいシューズになっていると思います。
アルファフライ 3をいち早く、誰よりも早く履いていた印象があるのですが、周囲の選手や周りの人からの反響や質問はありましたか?
―今年の1月にケニアに行ったときに、NIKEの開発チームの方々が来ていて、「新しいシューズがあるから傑も履いてみなよ」ということで、プロトタイプを履かせてもらいました。その内容を動画で遠目に載せたのですが、興味のある人はそれをキャッチしていて、「これは何なんだ」とDMがきたり、「これはこういう靴ではないか」というようなことを、自分の中で解釈して発信されている方がいたので、かなり注目されていたシューズではないかと実感がしています。2023年の1月から履き始めて、ようやく皆さんにお披露目できるので、いつものシューズよりもより注目度が高くなると思います。
エリートはもちろんだと思うのですが、どのようなランナーにアルファフライ 3をおすすめしたいですか?
―自分の自己記録を更新しようと思っているランナー全員に、この靴をすすめたいと思います。普通のランニングシューズを履いている人にとっては、他のシューズと比較してもさらに驚くと思います。足入れ感もそうですし、走ってみると全然違う、化け物のようなシューズになっているので、トップランナーはもちろん、市民ランナーで記録を狙う人や、ただランニングするだけではつまらないという人たちは、こういうシューズを履くとランニングにハマっていくのかなと思います。
初めてのマラソンからずっと厚底を履かれていると思うのですが、大迫選手だからこそわかる厚底シューズの進化を感じるポイントというのはありますでしょうか?
―本当にNIKEは進化し続けていて、年々新しいプロダクトを出しています。普通は、ここにエアなんか入らないですよね。だけど、ここにエアがあることによって、より反発を出すことができるんです。僕がボストンマラソンを走った2017年ですら厚底は衝撃的でしたが、さらに想像の上をいくプロダクトを作れるというのは、なかなかないと思います。
大迫選手が、シューズに求めること
大迫選手がレース用のシューズに求めることは何ですか?
―シンプルに速く走れるかどうかというところです。年々より速く走れるシューズというのが出てきているので、心強い存在です。特にランニングというのは、本当にシューズと生身、体ひとつで戦うので、よりシューズの重要性というのは上がってきます。
その他のシューズに関してもお聞かせください。現在トレーニングでは、どのようにシューズを選択し、履き分けをされていますでしょうか?シーン別の履き分けとその理由をそれぞれ教えてください。
―基本的にジョグはペガサスを履いていたりするのですが、ちょっと路面が硬いと、インヴィンシブルのように、クッションが厚めの靴を履くことが多いです。特に海外に行くと、砂利道だったり、柔らかいところを走ったりするのでペガサスを履きますが、都内の場合は結構路面が硬かったりするので、柔らかめのよりクッション性のある靴を選んで履くようにしています。
速めのロングランなどはペガサス ターボだったり、状況に応じて、レース用の靴で走ったりすることもあります。以前はスパイク系も履いていたのですが、最近はロードトレーニングが中心になってきているのであまり履かなくなりました。ただ、トラックを走る時はドラゴンフライといったシューズも履いています。シーンごとに、ケースバイケースで、色々なオプションがあるので、色々なものを試しながら自分に合うものを見つけているということを引き続きやっています。
NIKEのシューズがマラソン・長距離において、圧倒的なシェアを誇る理由は大迫選手は何だと考えていますか?また、各メーカーが開発を競い合うマラソンシューズでNIKEの優位性は何だと思いますか?
―NIKEが先駆者として厚底を作っていなかったら、おそらく他のメーカーも作っていなかったのではないかと思います。今の所NIKEを追っているという段階でしかないので、先に走り始めて、しかも先頭を走っているNIKEのランニングシューズというのは、言わずもがなですが圧倒的に強いと思います。また、作るだけでなくさらに進化していくような開発を行っているところや、ケニアでNIKEのチームの人たちに会った時にも、すごく強い情熱を感じましたが、そういったところがずっとトップを走り続けられる理由になっているのではないかと思います。
モチベーションは上下する 習慣は続く
競技を続けていく上でモチベーションにしていることがあれば、教えてください。
―大きな目標はもちろんモチベーションになりますが、モチベーションを継続的に保てるかといったら、そうではないことも多い気がします。みなさんそうだと思うのですが、そういう時にはどうするかというと、習慣をつけていくということが必要だと思います。あまりモチベーションがなかったとしても、気持ちを強く、淡々とこなしていけるようなそういう生活スタイルを作っていくと、結果ゴールに到達できるんだと思います。
一時期、「モチベーションはどうやって保ったら良いのですか」ということを聞かれることが多くて、その時はうまく答えが見つからなかったのですが、でも結局モチベーションがずっと続く人はあまりい、と。もちろんアップダウンがあるし、頻度が多ければ多いほど良いので、色々なことにモチベーションをもった方が良いのですが、仕事に行くにしても、いつもエネルギッシュな感じでできるということはなかなか難しいじゃないですか。それは僕らも一緒で、毎回練習がすごくモチベーティブで、よしやろう!という気になっているかというとそうではない。
では、どうして練習に到達できるかというと、淡々と生活習慣にそのスタイルを組み込んでいるからこそ、何も考えなくてもできるというだけです。ただそれは、何も考えずにと言ったら悪い意味になりますが、しっかりとゴールを見据えた上での「淡々と何も考えずに」なので、その辺りは非常に重要だと思っています。
どのような環境下でも様々なプレッシャーがたくさんかかる中で、大迫選手はファンの期待に応えて毎回素晴らしい走りを見せてくれたと思うのですが、その大舞台での強さや安定した結果の源というのはどういったところでしょうか。
圧倒的に自分軸なところでしょうか。誰かのために走っているわけではなく、走って良い結果を出すことによって結果的に誰かを勇気づけられたり、明日ちょっと走りに行ってみようかなと思ってもらえたり、そういう習慣の一歩になることがあればすごく嬉しいですし、そうであると信じてはいます。ただ、みんなの期待に応えるために走っていないというところが、ある意味では覚悟が決まっている。その辺りが、変に力みがない点です。