11月に京都で開催された〈NIKE メディア・キャンプ〉には、サプライズゲストが登場した。先日の全日本大学女子駅伝対校選手権大会で7連覇を成し遂げた名城大学女子駅伝部の米田勝朗監督、谷本七星選手、米澤奈々香選手だ。3名を囲むトークイベントでは、今シーズンのビハインドストーリーが語られた。
2023年10月23日に仙台で開催された全日本大学女子駅伝対校選手権大会で、2時間04分29秒の記録を残し、7連覇を成し遂げた名城大学女子駅伝部。38km、6区間で競うこのレースを名城は1区米澤奈々香(2年)、2区力丸楓(1年)、3区石松愛朱加(2年)、4区薮谷奈瑠(1年)、5区原田紗希(2年)、6区谷本七星(3年)というオーダーで臨んだ。1区の米澤選手がトップと3秒差の2位で襷を渡すと、2区力丸選手も2位をキープ、3区の石松選手が区間賞の走りでトップを奪い、4区の薮谷選手、5区の原田選手も首位を守った。そして、2位と15秒差で襷を受け取ったアンカーの谷本選手は区間賞の走りでゴール。終わってみれば2位の大東文化大学を1分近く引き離しての優勝となった。
レース結果だけを見れば例年通りの危なげない展開に感じるが、実は今回の優勝はこれまでの6回とはまた違った意味があったと米田監督は話す。
「大会前にメディア等で今年はかなり厳しい、7連覇は厳しいんじゃないかと言われていました。確かに年が明けてもなかなかチームがうまく機能しないという状況が続きました。
勝ち続けているとチームの中で厳しさだとか勝利に対するこだわりだとかいうのは、どんどん薄れてきているような感じがしたんです。去年の仙台では史上初の6連覇で新しい歴史を作った。富士山(女子駅伝)もやっぱり同じ気持ちで夏から12月までずっとやってきて、やっぱりすごく学生たちもきつかったと思います。それをやり遂げた後、気持ちがふっと抜けるのは仕方がないと思うんですよ。私も休ませたい気持ちはあって、時間を作ったんですが、結果的にはインカレの時期ぐらいまでチームが上手くまとまってこなかった。
そこで、私が学生たちに言ったのは、ある意味ここらで負けた方がチームも気付くことがあるんじゃないかということでした。勝ち続けているが故にすごく大事なことを忘れかけている部分もある。自分たちがやるべきことをちゃんとできないんだったら、負けた方がいいよって話をしたんです」
春先から怪我や体調不良で調子の上がらなかった米澤選手にとっても特別な駅伝になった。
「本当にチームには迷惑をかけてしまった。(全日本は)そんな中でのレースだったので、本当に不安や焦りもあったのですが、監督、スタッフや仲間、みんなが1区を私に任せてくださった。信頼や皆さんからの応援がすごく力になって、区間賞はできなかったんですけど、チームのために1秒でも早く繋ごうっていう気持ちがすごく強く現れたレースだった。七星先輩(谷本選手)がゴールテープを切ってくれた時には、本当に言葉では表せられないぐらい嬉しかった。苦しい1年だったからこそ、喜びがすごく溢れてきて、あまり涙とかは人前で出さない方なのですが、大号泣の大会で、本当に嬉しかった」
アンカーを務めた3年生の谷本選手も、これまでの2大会との大きな違いを感じていた。
「今まではすごく素晴らしい先輩方がいて、いわゆるディフェンダーみたいな立ち位置で勝たなきゃいけない駅伝といっていた。チーム内の選考が激しくて、出られたら自分の走りをするだけ、という感覚でした。今回は勝ちたい駅伝というかチャレンジャーというのが自分の中では大きかった。先生から今まで言われてこなかった“負けてもいいと思う”という言葉も悔しくて、チームみんなが勝ちたいっていう思いを本当に強く持って、挑んでチャレンジして勝った駅伝という印象です」
谷本選手の冷静な駆け引き
そう話す谷本選手だが、実際のレースでは緻密な計算と冷静な判断でこの駅伝をまとめていた。
「中継で何秒差っていうのは聞こえていて、一番最後に付き添いの子に聞いたのが30秒差。30秒っていったら150〜200mくらいはある。(後続の選手は)見えないかなって思っていたんです。だけど意外と近くに来ている。ただ、レース前の監督との話では、(1位で襷を受け取るのではなくて)前の選手を抜かすイメージで考えていました。何秒差だったらひっくり返せるかって」と谷本選手。
「当日の朝、谷本にどのくらいの差だったら逆転できるか聞いたら、“1分です”と。それで、前を走る原田に“お前は1分負けてもいいからな”って、だから抜かれてもいいからその後にしっかり粘ればいいよって。1分以内で襷を渡したらもうお前の責任じゃない、あとは谷本が頑張って走ってくれると話しました」
エース区間である5区は熾烈な戦いが予想された。そこで米田監督は、その区間を走る原田紗希選手をリラックスさせるために、こんな声をかけていた。それも、谷本選手の計算が立っていたからだろう。しかし、原田選手は健闘し、15秒差とはいえトップで谷本選手に襷が渡ることになった。
「前で来てる、でも意外と(2位と)近い。その時に不安はやっぱりあったんですけど、それでも競りだしたらちゃんと自分のゾーンに入れました。後ろが2人で来ていたのは分かっていました。集団でリズムをつかんで、誰かが一緒にいたらペースも速くなるだろうと。最初の2kmが坂なのですが、そこまでちょっと様子を見ようと思って、そんなに速くは入らず、これで追いつかれてもいいと考えました。最後にバテてるだろうから、そこで勝てると思って。だから最初は3分10秒/kmで入ったんですけど、その後3分30秒/kmまで落としました」
レースで逃げる立場は苦しい。後続が集団で追っていたら尚更だ。だが谷本選手はそこで焦ることなく、冷静に状況を判断して体力を温存する戦略を取った。その判断力に米田監督も「後で聞いたんですけど恐ろしいですよね」と舌を巻く。
「3分10秒から3分30秒、20秒という結構な上げ下げをしている。後ろが近づいてきたのがテレビの画面から見ていてもわかったので“え、何やってんの?”って。終わってから聞いたら“後ろがどういう動きをするかをちょっと様子見たかった”って、“あえて追いかけさせるようなペースでちょっと自分がペース緩めて、登りで脚を使わせようと思いました”と。そんな怖いことなかなかできないって思いましたね(笑)」
「結果的に3位の立命館大学さんとは5秒まで縮まったのですが、2キロ地点でこれなら行けるって思いました。そこから下りに入って、平坦で下りとか結構楽なコースなので、自分のペースであとは走るだけだなと思ってギア変えて、あとは一人で走っていました」
そして最終的には2位を52秒引き離してのゴール。駅伝の面白さが詰まった、レースとなった。
NIKE シューズの履き分け
こうした名城大学女子駅伝部の勝利を支え続けているナイキのシューズ、彼女たちはどのように履き分けているのだろうか。
米澤選手は、レースでは〈ナイキ ヴェイパーフライ〉を愛用し、練習では特に〈ナイキ ペガサス ターボ〉がお気に入りだという。
「朝練習と本練習でジョグを分けていることが多くて、朝練習は〈ナイキ ペガサス ターボ〉を愛用しています。集団走だったり、ゆっくりなジョグも対応できるので、すごく履きやすくてそこがお気に入りのポイントなんです。本練習は、リズムを朝練習よりもちょっと上げて走りたいな、と思っていて、〈ナイキ インヴィンシブル〉がすごく自分の足に合っているので、シューズを使って自分の体の状態を確認しながら走っています。クッション性もありますし、反発力もあって、ジョグとか自分のリズムで走るときにすごく走りやすい。ポイント練習はスパイクだったり、〈ナイキ ヴェイパーフライ〉を使っています」
谷本選手は、レースでは大きなエネルギーリターンを得られる〈ナイキ アルファフライ〉を着用し、練習では〈ナイキ ペガサス〉や〈ナイキ テンポネクスト〉を使い分けている。
「私は朝と午後はジョグシューズは変えずにやっていて、今履いている〈ナイキ ペガサス〉を履いています。〈ナイキ ペガサス〉は速いジョグでもゆっくりでも、長い距離でも何でも対応できる。ずっと履いていると自分の足の形がつくので、ジョグではずっと履き続けています。だからあんまり怪我をしにくいのかなと思います。ペース走と言って、ポイントの3分45秒/kmペースで12,000mとか16,000mを走るとき、〈ナイキ アルファフライ〉はレース仕様だから違うなって感じで、若干遅めでも対応できる〈ナイキ テンポネクスト〉を履いていて、スピード練習はトラックシーズンはスパイクで、駅伝シーズンは〈ナイキ アルファフライ〉を履いて練習しています」
一方、米田監督は監督の目線で次のように話す。
「二人ともそうですけど、普段からいろんな使い分けをしながらシューズに慣れていく。シューズに合った走り方を覚えていく。うちのチームが、駅伝やロードですごく走れるというのはシューズが合っているんだと思いますね。普段、朝練習もロードを走るので、やっぱり普段からの取組がロード、特に駅伝なんかでうまく活かされているのかなと思います」
駅伝の楽しさ
そんな駅伝の楽しさを、第一線で活躍する彼女たちに尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「個人種目は本当に自分だけの戦いになるので、それこそプレッシャーも自分ひとりだから責任もあまりないし、自分が練習してきた成果をとりあえず発揮できたらいいなっていう、ある意味軽い気持ちでスタートに立つことが私はできるんです。でも、やっぱり駅伝になると一緒に頑張ってきたチームのみんなの結果にもつながるっていう部分もある」と、個人としての強さを発揮する米澤選手も、駅伝には特別な思いがあると語る。
谷本選手も「1つの区間でも抜きつ抜かれつなどすごくいろんな展開があるんですけど、その区間でどれだけ離れてもその1分の逆転があったりなど本当に何が起こるか最後まで分からない。そこが駅伝の楽しみのひとつだと自分は考えています」と、その展開の面白さにも言及した。そして、その上で語るのはやはりチームワークのこと。
「駅伝はチーム戦なので歌詞にもあるようなフレーズですけど、悲しみというか不安、緊張、プレッシャーは3人いたら3分の1だし4人いたら4分の1。でも喜びって個人戦だったら「やった自分頑張った」くらいだけど、チームだったら本当に“頑張ったね〜私たち本当に頑張ったね〜”と喜びは3倍、4倍、応援に関わってくれる人がいればいる分だけ大きくなるし、それがチームスポーツの良さ。楽しみというか喜ぶ気持ちがあるかなっていうのが駅伝です」
年末の富士山の麓では、彼女たちが喜ぶ姿が見られるだろうか。富士山女子駅伝は、12月30日10時にスタートする。