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運動せずに筋肉を作る薬、というのがあるのをご存じでしょうか。2008年に米ソーク研究所によって発表された「AICAR」という薬。マウスにこの薬を4週間摂取させると、全く運動していないにもかかわらず、走行時の持久力が44%上昇したそうです。運動せずに筋力をつけ持久力を高めることができるその効果から「カウチポテト薬」の通称でも呼ばれています。薬の服用によりAMP活性化プロテインキナーゼと呼ばれる酵素を活性化させることで、体により多くのエネルギーが必要だと信じ込ませ、細胞の活動に利用可能なエネルギーが増加するというのがその理論のようです。

「運動の代わりになる薬」として賛否両論物議を醸したこのAICAR。実用化にはまだ至っておらず、マウスでの臨床実験が続けられているようですが、この度、熱中症予防の効果があることが偶然発見されたとのことで再びニュースとなっていました。
 
この新たな効能を効能をネイチャー・メディスン誌で発表したのは、米テキサス州のベイラー医科大学のスーザン・ハミルトン教授。彼のチームは「悪性高熱症」という疾患を持ったマウスに、AICARを投与する実験を行いました。
 
悪性高熱症」とは、骨格筋の硬直、酸素消費量の増大、二酸化炭素産生量の増大を伴う代謝高進状態、異常な高熱などの症状を伴う病気。"RYR1遺伝子"の異常によって引き起こされる病で、熱中症が重症化するリスクが高いことでも知られています。
 
この"RYR1遺伝子"に異常のあるマウスに温度を上げた熱い部屋で運動をさせ、AICARを投与したところ100%の確率で死を免れたというのです。「熱中症にかかる基本的なプロセスは、"RYR1遺伝子"に異常がある場合もない場合も似通っているはずなので、将来的に、万人への熱中症予防薬として利用可能ではないか」と米ロチェスター大学メディカルセンターのロバート・ダークセン教授は指摘していました。
 
AICARのこの新たな効能は、高齢者やスポーツ選手、砂漠などに派遣された兵士に対する熱中症予防薬として、役立てられる可能性があるのではということでした。運動せずに筋肉を作り出すという夢のような薬の研究の副産物として、思わぬところで実用化される日も近いかもしれません。

(文 佐藤美加)