カウンターの奥に覗く豊かな緑はまるで自然の舞台装置のようであり、それを背に料理する女主人はさながら劇場で演じる女優のようにも見える。〈料理 胃袋〉に足を踏み入れると、非日常に包み込まれる。沖縄の滋味溢れる食材がさまざまな方法で生まれ変わった料理を口にすると想像力が拡張し、たどり着くのは恍惚の世界だ。単なる多幸感だけではなく、生きる力が奥底から湧き出してくるような充足感を得て帰る人もいると聞く。“胃袋劇場”で受けるこの感覚をなんと表現すればいいだろう。はたしてその源を紐解くことはできるのだろうか。半ば謎解きのような気分で店の扉を開けた。
食材の様子をつぶさに観察し、瞬間の煌めきを料理へ注ぎ込む

想像を掻き立てられながら受け取るのは自然の圧倒的な生命力
「料理を食べて、“生命力をもらった”って言われることがあるんです。場所の力もあるのかな」
そう語る関根麻子さんが料理に携わるようになった原風景には確かに沖縄がある。豊穣な大地や燦々と照りつける太陽のイメージから、沖縄では常に潤沢に食材が手に入る印象があるが、決してそうではない。移住者である関根さんは当初、季節や気候、環境によって変化する食材それぞれの個性を見極めながら、いかに美味しいものに仕上げられるか、鍛えられた時期があったのだそうだ。
「とにかく食材が先生。味覚もさることながら、嗅覚や視覚も駆使して、香りや色彩の変化を感じ取ります。土を見ることも大事。自然に耳を澄ませるということを無意識にできるようになったのは沖縄だからこそだと思います」


料理にはオオタニワタリや黒豆など沖縄ならではの食材がふんだんに用いられる。

「普段はひとりでお店を切り盛りしているから、それとは対象的な一体感を味わえるのが醍醐味。限定された時間の中で関わる人たちと向き合うと、その間にプロジェクトがどんどん成熟していく。自己完結とは真逆の無限の広がりのようなものもあって、そこで得られる快感を味わってからどんどんやりたくなりました。毎回、何かしらそこに私なりの情熱を宿すことが自分自身の可能性への挑戦。だって、楽しいんだもん」

