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アウトドアで眠る際に非常に大きなストレスとなるのが、寒さだ。本記事ではmont-bel(モンベル)の金森 智さんをアドバイザーにお迎えして、「保温」と「防水」といった2つのキーワードをテーマに、ギアの選び方やぐっすり眠れる環境づくりのイロハを紹介したい。まずは「保温」から。

アウトドアで快適に眠るために

テントのなかで眠るとき、ヒトは何をストレスに感じるだろうか。地面の凹凸や周囲の音なども考えられるが、やはり一番は気温だろう。

暑さに関しては衣服のコントロールやテントの設置場所である程度解消できるが、寒さは眠りの大敵となる。そこでまずは、冷えから身を守るための保温術について学んでいこう。

ご存じのとおり、山の朝晩は季節を問わずグッと冷え込む。これは高温の物体(ここでは地球)が外に向かって熱を放つ放射冷却による影響で、太陽の光がなくなる夜間は、受ける熱よりも地球が外へ放出する熱のほうが強くなることで冷え込みやすくなる。

天気が悪い日に寒さが増すイメージだが、実際は雲や風のように地面から放射された熱を遮るものが何もない、晴れの日や風の弱い日のほうが冷え込みやすい。

地面が冷たくなると地面に接している空気も冷やされるため、身体と地面の距離が極端に近いテント泊はダイレクトに冷気を感じてしまうというわけだ。つまり快適な眠りには、下からの冷気をどれだけ遮断できるが鍵となる。

地面からの冷気を遮断するスリーピングマット

アウトドアで快適に眠るために
上から、クローズドセルタイプ、エアータイプ、ウレタンフォーム入り自動膨張タイプ

冷気を遮るアイテムの一つがスリーピングマットだ。マットの種類は大きく分けて3つ。

広げるだけで使用できるクローズドセルタイプ、空気を注入して膨らませるエアータイプ、ウレタンフォーム入りの自動膨張タイプがある。

「保温力と寝心地という観点からいうと、やはりウレタンフォーム入りの厚手のものが最も優れています。続いて、エアータイプ。フォーム入りに比べて若干保温力は劣りますが、軽量でコンパクトになるのがメリットです。クローズドセルタイプは設営や撤収が瞬時に完了する手軽さと、リーズナブルさが選ばれる理由。スリーピングマットは寝袋以上に快適性を左右するにもかかわらず、あまり重要視していない人も実は多い。快適性を求めるならまずはマットから見直し、シーンによって使い分けるといいでしょう」。

空気の層による断熱材を活用する

アウトドアで快適に眠るために

スリーピングマットが冷気の遮断に繋がる理由は、地面と身体の距離が遠くなるという物理的な要因のほかに、空気の層が断熱材になっていることも大きい。たとえばカップ麺の容器に熱湯を注いでも熱く感じないのは、容器の発泡素材に大量の空気が含まれているから。

このように空気は鉄や水に比べて熱伝導率が非常に低いという特性があるため、身体のまわりに空気の層を作ることで、体温を逃さず維持することができる。これはマットだけでなく寝袋も同様。

そこで以下では、空気の層をキーワードに寝袋選びのポイントを紹介したい。

フィルパワーを理解する

アウトドアで快適に眠るために

寝袋を選ぶにあたり、ダウン素材のものにするか、化繊素材のものにするかは大きな悩みどころだ。どちらにも一長一短があり、マット同様に使用するシーンに合わせて選ぶ必要がある。快適な眠りという観点から、それぞれの素材の特徴をみていこう。

まずはダウン(=羽毛)の寝袋から。ダウンは水鳥の胸元からわずかに採取できる柔らかなボール状の綿毛のことであり、ダウンの品質はフィルパワーという単位で表示される。

「フィルパワーとは『1オンスの羽毛が何立方インチの体積に膨らむか』を表しており、簡単にいうと、空気を蓄える能力(嵩高性)を数値化したものになります。たとえば800フィルパワーは、1オンス(28.35g)の羽毛が800立方インチに膨らんでいることになり、1つの寝袋に同じ量のダウンを入れた場合、この数値が大きいほどたくさんの空気を含み保温力が高くなります。少ない量で暖かさを確保でき、なおかつコンパクトに収納ができるところがダウンの魅力です」。

軽くて暖かい寝心地を持つ一方で、ダウンは濡れに弱いという性質もある。水に濡れると空気の保持ができなくなり、保温力も落ちてしまう。

「冬はテント内外の気温差による結露によって、寝袋が濡れてしまうことがあります。何日も山で連泊するような場合や、濡れが想定されるような天候の日は寝袋カバーを装着するといいでしょう。寝袋を濡らさないというメリットだけでなく、一枚生地を多く羽織ることで寝袋のまわりに空気の層ができ、保温力が高まります。ただしカバーの選びかたには注意が必要。冬用の寝袋は膨らみがあるため、きつい寝袋カバーに入れてしまうとダウンが潰れて保温力が落ちてしまいます。寝袋本来の機能を発揮させるためにも、適切なサイズを選びましょう」。

そんな寝心地のよいダウンと、防水カバーが一体化した防水寝袋の代表格といえばmont-bellの『シームレスドライダウンハガー900』だ。ダウンの偏りを防ぐための隔壁をなくしたシームレス構造で、冷気の侵入と熱の放出を防いでくれる。さらに表面には防水性と透湿性を併せ持った素材を使用しているため、外部からの浸水も防げる。防水性の寝袋という1つの選択肢として覚えておきたい。

乾きやすい化繊のチカラ

アウトドアで快適に眠るために

寝袋の選択肢として挙がるもう一つの素材が、化繊だ。ダウンに比べてリーズナブルであることから、最近はオートキャンパーの間で人気を集めている。化繊のメリットを紹介する前に、まず繊維について理解しよう。

「化繊の寝袋のほとんどはポリエステルに空気を溜め込む加工をした中綿が使われていますが、繊維の太さや構造が各メーカーによって異なります。mont-bellオリジナルの『エクセロフト®』は、3種類の異なる太さのポリエステル繊維を使った薄いシート状の綿を、複雑に絡み合わせることでかさを出しています。これにより空気をたっぷりと含み、高い保温力を発揮しているのです。また外部からの圧力に対しても綿切れや偏りが起きにくく、スタッフバッグから出して広げた時にも復元しやすい構造になっています」

シワになりにくく、洗濯しても伸び縮みしないこともポリエステルのいいところ。さらに濡れても保温力が落ちにくいというメリットもある。

「濡れた後の乾きが早く保温力の回復という面では、ダウンよりも化繊のほうが優れています。その半面、同じ対応温度域のダウンに比べると嵩と重量がある。これらを考慮すると、雨に降られることが多い夏の山を何泊もかけて縦走する人や、コンパクト性を求めないオートキャンパーに向いているといえるでしょう。同じ対応温度域の寝袋であれば、化繊でもダウンでも保温力は変わりません」。

監修者:金森 智

モンベル広報部課長としてプロモーション、地域との連携、企業コラボレーションなどの業務を担当。大学山岳部で登山を学び、国内外で登山やクライミング、テレマークスキーを経験。30代からサーフィン、40代からロードバイクとアクティブなライフスタイルを送る。
www.montbell.jp