「交流拠点施設」として新宿中央公園内に開業したSHUKNOVA(シュクノバ)。この施設の2階に“アウトドアフィットネス”を提唱する黒野崇さんが手がけたPARKERS TOKYO(パーカーズトキョー)が同時オープンした。海や山ではなく、都心のど真ん中に置いた理由、公園である理由とは?
SHUKNOVA(シュクノバ)のコンセプト、“SHUKUBA REBORN”が意図するところは、江戸時代は宿場町、内藤新宿として栄えていた時代の活気を再生、現代的に発展させること。大都会のオアシスとして親しまれてきた、緑溢れる新宿中央公園を活用し、地域住人やオフィスワーカー、来街者の交流、憩いの場、「宿場町の縁側空間」としていくのが狙いだ。
PARKERS TOKYOはそのコンセプトを下支えする存在として、STARBUCKS COFFEE、むさしの森 Dinerといった飲食店とともにこの施設内に入っている。ヨガスタジオ、ボルダリングジム、それからランステーションとしてロッカーとシャワールームが利用できる。
手がけた黒野さんは日本にアウトドアフィットネスを持ち込んだパイオニア。2007年に全国初となる会員制アウトドアフィットネスクラブ「BEACH葉山」を創業、2016年には「SURFCITY宮崎」をプロデュース。デジタル社会を生きる現代人に向けて、サーフィンやヨガ、SUPやトレッキング、トレイルランなどのアウトドアアクティビティを通じ、人間らしい健康づくりを広めてきた。
すでに全国各地に30近くの施設を展開しているが、多くは海や山に近い自然環境豊かな場所が中心。それが2019年に入ると、東京・日比谷のSPORTS STATION Hibiya Park、滋賀・大津市のCommunity Park OTSUKYO、大阪。鶴見区のOUTDOOR FITNESS TSURUMI RYOKUCHI PARKと、立て続けに公園を活用した案件に着手。なぜ今公園活用なのか。その意図を尋ねた。
Park PFIの制定によって拡がった公園の可能性
「公園を活用するアイディアは2015年頃から持っていました。アウトドアフィットネスの注目度が増していた頃でもあり、実績も重ねていましたので、ディベロッパーの方に会うたびに企画書を見てもらっていましたが、我々が目指しているような公園内の施設運営は前例がなかったこともあり、現実的な形にするには至りませんでした」。
潮目が変わったのは2017年。国土交通省が*Park PFIを制定したことによります。民間資金を活用、運営できるようになったわけですが、企業は好立地で事業ができ、行政は未使用の土地を活用してもらい借地料が入る。住民は近隣環境が華やかになる。三方良しというわけです。
*Park PFI = 飲食店、売店等の公園利用者の利便の向上に資する公募対象公園施設の設置と、当該施設から生ずる収益を活用してその周辺の園路、広場等の一般の公園利用者が利用できる特定公園施設の整備・改修等を一体的に行う者を、公募により選定する「公募設置管理制度」のこと。平成29年に都市公園法改正により設けられた。都市公園における民間資金を活用した新たな整備・管理手法として「Park-PFIと呼称。PFIはPromotion Support Networkの略。
また、私たちに声がかかった理由として健康・未病の観点が大きく影響していると思います。Park PFIの公募には、社会問題を解決するための健康・未病コンテンツが必要なことが多く、アウトドアフィットネスは公園との相性も良く、インドアフィットネス以上に地域住民の健康に寄与できます。
年を追うごとに、特に都心部において、自然調和型のスポーツライフスタイルは急速に求められています。公園は、日常生活の中で、最も身近な自然に触れられる場所。スポーツをする上で有効活用しやすい場所でもある。そこに行政も目を向けてくれました」。
運動を日常にする、自然調和型ヨガスタジオ
PARKERS TOKYOの施設の目玉はなんと言ってもヨガスタジオ。ガラス張りの向こうに公園を望む、室内とは思えないほど開放的な空間に圧倒される。テラススタジオも用意され、自然をダイレクトに感じられる環境は国内では稀だ。プログラムもストレッチ&ヨガからアシュタンガヨガ、ピラティスなど、曜日、時間帯によって異なるプログラムを用意し、毎週日曜の朝は目の前の専用芝生を使ったパークヨガも実施している(雨天時はインドアへ変更)。Juri Edwardsを筆頭とした充実した講師陣を見ても、力を入れたのが伺える。


「公園経由大自然」のナビゲーション
ここで疑問に思う人もいるだろう。PARKERS TOKYOはどちらかといえばインドアの方が色濃く映る。ノルディックウォーキングやフォーム&コンディショニングを見るランニングなど、ビギナーのためのプログラムはあるものの、アウトドアフィットネスとして見ると全体的に物足りない。アウトドアフィットネスとPARKERS TOKYOの関係性を黒野さんはどう結び付けようと考えているのか。
「ランニングも含め、どんなアウトドアアクティビティも、まったくはじめての一般市民にとっては実はどれもハードルが高いものです。経験上、身体を動かしたいと考えている人の多くがまず始めるのはヨガ。その点を踏まえて、PARKERS TOKYOのヨガスタジオは緑、光、風だけを感じてもらえるように、余計なものを省いています。
この施設は都心で暮らし、スポーツやアウトドアに触れる機会の少ない人にとっての入り口。現代人、特に都心で暮らす人は忙しく、日常的に自然に触れる環境はほとんどありません。最も身近な自然を感じられる公園を拠点として、アウトドアフィットネスに触れ、『世界を広げたい』と思ってもらう。そして大自然へ飛び出してもらう。公園をアウトドアへ出ていくベースキャンプとしたのです」。


生涯スポーツと出会うチャンスを一般的に
公園を経由して大自然へ。経験値を上げ、大自然へと興味を抱いた人のため、
ホームページにはサーフィンやSUP、スノーシューハイクなどの多様なプログラムを用意している。PARKERS TOKYOで初めてヨガに触れた人が、「週末は郊外でアウトドアスポーツに没頭する」というスタイルがスタンダードとなる日は意外とすぐのことかもしれない。
黒野さんはなぜ自然環境豊かな場所での施設運営にとどまらず、都市部に活動の幅を広げたのか。アウトドアフィットネスにこだわるのか。そこにはスポーツをしている人であれば誰しもが経験する「自主的引退」が関係している。
「『生涯スポーツと出会って、一生続けてほしい』それが私の願い。スポーツやフィットネスのコンテンツはたくさんありますが、ほとんどが生涯スポーツにならない。インドアフィットネスは特にそうです。
公園で満足してもらっても良いですが、それではいずれ飽きてやめてしまうでしょう。大事なのは『続けたい』と思う感情を芽生えさせることです。
わたし自身サーフィンを20年近く続けていますが、ここまで続いたのは『ダイナミックな自然の変化や感動・爽快感』が得られているからです。それがアウトドアスポーツの魅力であるし、続けるモチベーションとなります。
公園と大自然をつなぎ、いつまでもアウトドアスポーツを続けたいから、ヨガスタジオで心身のコンディションを維持する。大自然を夢中で楽しんでいたら、気づいたら健康になっていた。これが未病の本質であると考えています」。
先日公開したasicsの調査記事によれば、新型コロナウイルス感染症による生活の変化を機に、フィジカルの健康=メンタルの健康と捉える意識は加速、ランニングやエクササイズする人が増加したというデータが出てきている。
都心生活者のフィットネス環境として欠かせなかったスポーツジムの活動自粛から汗を流す場を失った人は少なくなく、一時的にではあるにせよ、身近なランニング環境として河川沿いを走る人が増加したという話もある。
都心生活者に限らず、身近に、自然を感じ、フィジカル、メンタルのコンディションを整えられる場所があるというのは、これからのライフスタイルに欠かせない。「公園で生涯スポーツと出会う」がスタンダードとなる日は、そう遠くない未来のことといえそうだ。