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Takigahara farm〉とは
石川県小松市滝ヶ原町の古民家を改装、2016年に誕生したファームハウス。〈Takigahara House〉を中心に〈Takigahara café(タキガハラカフェ)〉や2020年夏にオープンしたホステル〈Craft and Stay (クラフトアンドステイ)などが隣接している。「農的な暮らしの探求」をコンセプトに掲げ、移住してきた運営メンバーの生活拠点、滝ヶ原町の住人や、さらには国内外からこの地を訪れる人々との交流の場となっている。

滝ヶ原町は、人口約170人ほどの限界集落。日本の里山がそのまま残っている自然豊かな心地よい場所だ。小川諒さんはこの土地に4年前に移住し、プロジェクトの中核を担うメンバーとして〈Takigahara farm〉全体の管理、運営に携わりながら、半農半Xの暮らしを実践している。

『半農半X』とは、塩見直紀が提唱した言葉であり、自給的な農業と他の自分のやりたい仕事(個人の才能を生かした生業=X)を両立させる生活スタイルのこと。販売を目的に栽培する商業農家とは違い、自身や家族の暮らしと結びついた農である。効率を重視したモノカルチャー(単品目栽培)に陥いる必要がなく、食べたいものを少量多品目で作る自由がある。

©️Yufulei

手探りで始めた半農半X

ーー畑をいざ始めるとなって、どのようにスタートしたのですか?

「『この土地を好きに使っていいよ』って言われても、何から始めていいかわからなくて。ただ『耕して、土に種を入れて水を撒き、芽が出て、収穫して食べる』っていうサイクルはなんとなく知っている。説明書がなくても、自然のサイクルに沿っていけば全くわからないってことはないと思ったんです。わからないことは、地元のおばあちゃんの畑を見たり『今何してるの?』って尋ねて教えてもらっていました」

ーーまずはやってみよう精神ですね。最初は何の野菜を植えたんですか?

「最初はネギだったかな。地元のおばあちゃんに『これ植えてみな』って言われた記憶があります(笑)。育てていく過程で、おばあちゃんにいろんなことを教えてもらって、そのネギがすごく美味しくて。自分でつくったものを自分で食べるっていうことを初めて体験しました。食べるまでのプロセスが胃袋に返ってくる感じはすごく特別だと感じましたね。その体験が自分の中の常識みたいなもの大きく覆してくれました」



ネギからスタートした諒さんの畑。現在では様々な種類の野菜を育てている。

「とにかくはいろんなものを植えてみようと思って。小さい畑に可能な限りたくさんの種類の種を蒔いて実験しました。もちろんすべて計画通りにはいかないですが、試行錯誤の結果から集中的に育てる野菜を絞って決めていきました。種類が多すぎると管理が本当に大変で。手入れの時期もバラバラだし、少しの収穫量のためにいろいろと用意しなきゃいけない。色々と経験を経て、効率が悪いなってことに今年やっと気づいたばかりです(笑) 畑の面積は今は6倍くらい拡大したところで、これから何を栽培するか計画を練っています」

ーー諒さんが育てている野菜はすべて無農薬栽培なんですよね。

「そうですね。シンプルにやっていきたいので、農薬や化学肥料っていう発想がそもそもないです。もちろん自然が相手だと思いがけないこともたくさんある。ある日突然、畑の野菜が元気なくなってるとか。畑仕事は野菜と自然とのコミュニケーション、つまり観察です。見て何かを感じ取って、してあげる。の作業の繰り返し」

農学の知識を学校で学ぶ方が効率が良いこともあるけれど、時間がかかっても諒さんは自然との対話をしながら畑仕事を行う。見た目が可愛い野菜をオンラインショップで発見すると、種を買い育てることも。楽しみながら実験を繰り返し、畑は少しずつアップデートされていく。



暮らしのための畑だから、食べたいものを植える

ーー野菜、味が濃くてすごく美味しかったです。育てて収穫したあとは、やはり食べる楽しみですね。

「自分自身の暮らしのための畑なので、食べたいものを中心に栽培しています。パクチーあったらタイ料理できる! バジル植えたらバジルペーストで美味しいパスタができるな! とか。種から自分の食卓へ、想像力がどんどん広がって行くのが面白いです。バジルやパクチーは、地方のスーパーにはあまり売ってないので自分でつくる。料理をして、みんなでテーブルを囲むこともすごく幸せです。ここで一緒に生活していている人たちが、僕の野菜をとても美味しく調理してくれるのもモチベーションになってます」



ここ滝ヶ原では、野菜が収穫されてから、美しく器に盛り付けられ口に運ばれるまで、見届けられる環境がある。多く収穫できた野菜はTakigahara cafeのメニューや、Takigahara Marketなど出される。タイミング次第で近くの飲食店に持ち込むことも。代価は必ずしも金銭ではなく、ランチ代や物々交換など。畑には自然と人が集まり、コミュニティツールの役割を果たしている。

「人に何かをあげるとき、買ったものと自分がつくったものでは全然気持ちが違いますよね。つくったものは『食べてみて?』って共有したいって気持ちが生まれます。これからさらに、マルシェから派生させて、レクチャーとかスクールみたいな食育企画をやってみたい。畑の技術を学ぶだけじゃなくて、料理を勉強や考え方を一緒に勉強しながらコミュニティになっていくようなことができたらいいなと思っています」

  • ©️Yufulei
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人と人とだけのコミュニケーションから
人と人、人と自然の「やりとり」へ

ーー東京から滝ヶ原に移り住んで、どのような変化がありましたか?

「都会に住んでいた頃は人と人とのコミュニケーションばかりでしたが、ここでは人だけでなく自然とのコミュニケーションの時間が増えました。植物や自然は、眺めているのも素晴らしいですが、育てたり何かを『やりとり』するって面白いなと。滝ヶ原に来るまでは感じていなかったことです」

「ほとんどの人が農民だった時代は、畑は生きていく手段の一つでした。食べ物を作って生きることから、お金を生み出して生きる方向への変化によって、自分たちの生活から農がかけ離れた存在になってしまった。分業・効率化、近代化したことによって人口を養っていけるようになった反面で、失われていったものも多いと思うんです。現代は野菜作ることが必ずしも生きていく手段ではないけれど、なんとも言えない安心感がある。すごく人間的、もしくは動物的なことかもしれないけど、大げさに言うと世界がこの先どうなっても、食べ物がここにあれば大丈夫な気がするんです」

  • ©️Yufulei
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ーー暮らしの畑は、自給自足の一助にもなる。つくって食べることは、生きることとすごく直結していきますね。畑を始めたい人に向けて、畑ならではの魅力を伝えるとしたらどんなことがありますか?

「ベランダ菜園からスタートするのもいいけど、土の中に種を植える『畑』はちょっとまた意味が違う気がしています。野生の鳥と、カゴの中の鳥、くらいの違い。空は上に広いけど、地面も下に広い。そう思うと畑って特別で、目に見えない壮大な多様性の中で植物が育っていくことです。植物が聴いている風や虫の声。偶然種が落ちてそこから新しい芽が生えてくる嬉しいハプニングもあります。土も、触っていくうちに良くなっていって面白くなる。手放せないというか、自分にとって宝物のような存在になっていきます」

半農半Xは、月に一度畑を触りにいくことからまずは始められる。実際に諒さんの畑には、週末だけ手伝いに来る人もいるという。滝ヶ原のような里山と都市の二拠点生活や、都市生活の中でも週末に自然に触れる生活。生活者それぞれのスタイルにあった形が、これから多様化していきそうだ。

「始めたからにはずっと続けたい。そのためには自分のライフスタイルに合うように。やらなきゃいけないと思うとどんどん大変になっていってしまうので。カフェで出すための野菜、というのも目的の一つではあるけど、それよりも自分で土に触っている時間や、美味しいと感じる喜びが先にあるかな。外からの責任感ではなく、自分の内側からのやる気があれば体は自然と動くし、想像力も広がっていく。そんな風に自分の“畑をしたい”という気持ちも自然に育てていきたいんです」

©️Yufulei

Takigahara farm
https://takigaharafarm.com/

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