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新型コロナウイルスの流行によって、この2年にわたり社会のあり方とスポーツの価値が変わり続けている。日本を代表するトレイルランナーたちからなるコロンビア・モントレイルのアスリートたちにとっても、「山を走ること」が持つ意味を問い続けた時間になった。信越五岳地域に集まった彼らが、ランナー、ペーサー、コースディレクターとそれぞれの役割で100マイルのグループFKTに挑戦した。そのドキュメントは下記の映像でご覧いただきたい。

ここでは、トレイルランニング界のトップを走る6人のコロンビア・モントレイルアスリートがこの時期をどう過ごし、どうトレイルランニングと向き合ったのかチャレンジ前のインタビューからお届けする。走ることと生きることが直結する彼らの言葉に、トレイルランニングを楽しむモチベーションと、自然への畏敬の念を感じてほしい。

コースディレクター 石川弘樹「かつて僕が海外から持ち帰ったものとは違うものが生まれてくる」

石川弘樹(いしかわひろき)日本初のプロトレイルランナーにして、我が国にトレイルランニングを紹介したパイオニア。2007年Rocky Mountain Slam総合優勝、Grand Slam of Ultrarunning総合優勝。今回のFKTでは信越五岳エリアのコースディレクターを担当

コロナ禍以降、日本のトレイルランニングの状況をどう捉えていますか?

「一番大きいのはレースやイベントが無くなったことですね。レースに出るためにトレーニングが必要で、そのために走るというサイクルが無くなって、各自がトレイルランニングの遊び方や楽しみ方が多様化してきたと思います。自分が走りたいところを自分で調べて行動する自立した楽しみ方が広がったのではないでしょうか。トレイルレーサーというより、『トレイルランナー』が増えたという印象です」

コロナ禍で大変な状況も、トレイルランニング界としては良い側面もあったと?

「レースがないことはまた大変な側面もあるのですが、一方でこのコロナ禍でランニングを始めた人というのもすごく多い。昨年わずかに開催できたイベントで『コロナ禍でジョギングを始めた人?』と聞くと、手が上がって、『その中でトレイルランニングを始めた人は?』と聞くとまだ手が上がっている。もしコロナがなければトレイルランニングなんてしなかった人たちが、このスポーツを始め出しているという印象を受けていますね」

新しい人が増えた一方で、これまでトレイルランニングをやってきた人はこのスポーツとの付き合い方を変える必要があったと思います。元々のランナーに対しては、どんなメッセージを伝えていましたか?

「僕自身が怪我をしていて走れず、自分が走ることで何かメッセージを伝えることができませんでした。だから走れなくても、大会が無くてもできることがあるんだ、ということをいろんなSNSを通じて発信していた時期ではありました。トレイルの整備はその中心ですね」

怪我とコロナ禍の時期が重なっていたということですね

「本来であれば、この色んな物事にストップがかかってしまったタイミングで自分の身体を直せれば良かったんですが。でもこの間に新しい治療法が見つかったりもして、この時期だからこそ焦らずにリハビリには取り組みたいですね。ずっと小さい頃から走ることをやってきたので、ここまで動けなくなってみると、正直な話、第二の人生も考えました。トレイルランニングのために生きてきて、自分のやりたいこと、生きたい場所がまだまだいっぱいある中で走れないのですから。だからアスリートレベルでの走りをしていくのか、自分の経験を伝えることとか、どんなアクションをするべきなのかとまだ模索している状況です」

今回のチャレンジには、石川さんが作ったトレイルランニングのカルチャーを現在担う若い世代のランナーも参加しますが、彼らに期待したいことや言いたいことはありますか。

「いまは調べようと思えば色々と調べられる時代ということもあって、若い人たちは目標ややりたいことにストレートに進んでいると感じています。10代の後半から20代前半のランナーが自らのスタイルを作り出そうとしながらトレイルランニングをしていますよね。それに伴って、かつて僕が海外から持ち帰ってきたものとは違うものが生まれてくるんじゃないかって楽しみに思っています」

枝元香菜子「本気の趣味であり最高のリフレッシュ」

枝元香菜子(えだもとかなこ)大学教員として勤務しながら100マイル完走・UTMB完走を目指し、休日は白山や北アルプスなどでトレーニングを行う。2021年 14th SKYLINE TRAIL SUGADAIRAスカイマラソン優勝、FunTrails Round 秩父&奥武蔵100K優勝。今回のFKTでは第1走目としてスタートの斑尾高原ハイジから黒姫までの33.7kmを担当。

このコロナ禍を経て、トレイルランナーとして感じたこと、気づいたことはありますか?

「大会が中止になり海外にも行けず、レースに出られないことに残念な気持ちはありましたが、その分自分の好きな山に仲間と行くっていう機会が増えました。北アルプスや妙高、様々な山に足を運べたのはこの期間だからこそある意味できたと思います。縦走をメインに楽しみましたが、〈UTMB完走〉という自分の目標を見据えて、長時間動き続けることを景色も楽しみながらできたのはいい経験でした」

競技と縦走とは枝元さんにとって何が違いますか?

「基本的には同じベクトルにありますが、自分と向き合って追い込んでいくところは競技でしかできないと思います。いろんな方と出会える機会ですし、刺激をもらって切磋琢磨していけるというところが競技の良いところかなと。」

枝元さんがトレイルランニングを走る理由は?

「トレイルランニングは私にとって本気の趣味であり最高のリフレッシュの時間なんです」

須賀暁「原点に還り楽しむ気持ちを取り戻した」

須賀暁(すがさとる)東北を代表するトレイルランナー。2016年UTMF4位、2020年IZU TRAIL Journey3位、トレイル&マウンテンランニング世界選手権2021日本代表。今回のFKTでは第2走目として黒姫から戸隠神社中社までの50.3kmを担当。

コロナ禍における、トレイルランニングへの向き合い方に変化はありましたか?

「原点に帰ることができたのがこのコロナの期間でした。僕が10年以上前にトレイルランニング始めたきっかけは、遠目に見えるあの山に行ったらどんな景色が見えるのかなっていうところからです。それを、登山スタイルじゃなくて自分なりのランニングスタイルで駆けるようになったのが最初。その頃はレースがあることも知らなくて、好きに山に行ってただ景色を見たりどこまで走っていけるのかなってチャレンジすることが僕の中でトレイルランニングでした。

それがレースにたくさん出るようになって、次第にリザルトを求める部分が大きくなっていたと思います。コロナで多くの物事がストップした中で、自分は山とどう向き合っていこうかと考える時間になりました。レース関係なく、自分が行きたい山に行ったら楽しくて、これが山を始めた頃の気持ちだと思い出しました。自分が求めていた原点でしたね」

一方で、レースを主戦場とする選手としての物足りなさはありませんでしたか?

「その後レースが少しずつ再開していく中で、レースって特別なことなんだな、当たり前のことじゃないんだなと感謝の気持ちが湧いてきました。レースを走る時にも、この原点の楽しむ気持ちを忘れないで走ろうとしたら、結果が出るようになってきたんです。これまでは自然に結果を求めていましたが、そこから離れたら結果が出るようになったのがこの2年です」

山田琢也「これから懸けていけるものを見つけられた」

山田琢也(やまだたくや)トレイルランニングでは表彰台の常連者でありながら、クロカンスキー・BCスキー・バイク等で、地元を遊びつくすことを身上とする、マルチアクティビティプレイヤー。2017年信越五岳110K優勝、2018年阿蘇ラウンドトレイル110K3位、2019年Formosa Trail 70K優勝。今回のFKTでは第3走目として戸隠神社中社から黒姫までの50.3kmを担当。

山田さんの走る行程はナイトランとなることが予想されます。ナイトランの難しさ、また逆に魅力とは?

「日中にも言えることですが、とにかく自分の動きや走りに集中すること。ナイトランでは自分の照らしたところしか道が見えないので、これはこれで雑情報が無くて集中できる。自分に向き合えるという良さがあります。そういうところを楽しめればナイトランも良くなってくると思います」

コロナ禍における、トレイルランニングへの向き合い方に変化はありましたか?

「ずっと前から構想していて取りかかれなかった〈奥信濃100〉という100kmのレースをこの間に主催しました。コロナ禍で観光業がすごく大変な時期に、何か貢献したいという思いもありましたし、自分自身もレースがどんどん無くなる中でシーンを作ってトレイルランニングを未来に向かって繋いでいきたいという気持ちが高まっていたんです。このレースをやり終わって後も、練習ができないくらい忙しくしていましたが、それが今までのトレーニングの積み重ねに替わるくらい充実した日々で、これはこれでトレイルランナーとしてこれから懸けていける、そういったものを見つけられたと思います」

大塚浩司「人生の一部というか、人生そのもの」

大塚浩司(おおつかこうじ)(株)Nature Scene代表取締役。トレイルランニングを「ライフタイムスポーツ」として普及させるべく、大会運営を中心に活動する。2019年信州戸隠トレイルラン60K総合2位、2020年菅平スカイライン43K総合4位、2021年高社山VK総合8位・年代別1位。今回のFKTでは第3走目の盟友、山田琢也のペーサーを担当。

大会を運営される中で参加ランナーからの声や変化で印象的なものはありますか?

「2021年は6つの大会を開催する中で、アウトドアブームは明らかに感じています。山に入る装備がないまま参加される方がいたり、まったくロードランもやらないという方もいます。圧倒的に山を走りたいランナーが増えてるんだなと感じています」

そんな中で、運営者として、あるいはベテランのトレイルランナーとして大塚さんはご自身の役割をどう捉えていますか?

「競技面では、若い人を育てることですね。若くても速い選手はできるだけ招待選手として呼び、宿泊費なども若干ですがサポートしたりとか、若い層が入ってくれる受け皿をどんどん作り出そうとしています。先程はアウトドアブームと申しましたが、まだまだトレイルランニングやスカイランニングはそんなにポピュラーではないので、より多くの人の目に留まる機会を増やすために大会を作り続けていきたいですね。若い大会運営者も増えているので、彼らにも少しずつノウハウを共有しながら、必要なサポートを行っていきたいと考えています」

大塚さんにとってのトレイルランニングとは何でしょうか?

「もちろん趣味として走るのも大好きですが、一番は獣に戻れるというか、本能が目覚める感覚がすごい好きなんです。例えばナイトランでは強く感じますが、静まり返った中を走ってると自分の本能だけが際立ってくるあの感じ、好きですね。あとは自分は大会運営で今飯を食っているので、ライフワークの一つです。だから絶対に辞めるわけにいかない。これで稼いで楽しむという両立をしていかないといけないんです。もう本当人生の一部というか、人生そのものなので、やり続けて、そして楽しみます」

三浦裕一「この競技への恩返しを」

三浦裕一(みうらゆういち)バーティカルレースからロングレースまで幅広い分野で好成績を残し、現在はスカイランニングの日本代表選手として、海外のレースでも活躍中。2018年「ハセツネ」日本山岳耐久レース71.5キロ総合優勝。今回のFKTでは第4走目として黒姫からフィニッシュの斑尾高原ハイジまでの33.7kmを担当。

コロナ禍における、トレイルランニングへの向き合い方に変化はありましたか?

「出ようと思っていた大会がこの時期にほとんど無くなってしまったので、大会に出ることは考えず自分を磨くことにシフトしました。あとは地元や関東圏内の方々を集めて個人的にトレイルランニングのイベントを開催して競技の普及活動を主にやっていました」

自身が第一線の競技者でありながら、普及活動にも力を注いだのはどういう理由からですか?

「トレイルランニングに出合ったおかげで、全国に知り合いができて、つながりが生まれたんです。そんな機会をくれたこの競技への恩返しという面があります。普段会えない人とも、大会があれば会える。そういうトレイルランニングの楽しい側面を多くの人に味わってほしいという気持ちから、普及活動にも取り組んでいます」

一方で競技者として目指すところは?

「いまはプロランナーとして活動しているので、普及活動だけでなく結果も求められます。2021年は怪我の影響もあり思うような成績が残せませんでしたが、2022年はUTMBのような大きな大会、100マイルやロングのレースでも結果を出していきたいと考えています」

三浦さんにとってのトレイルランニングとは何でしょうか?

「レース中はだいたい苦しいんです。でもその先に、その苦しみを乗り越えた先に結果がついてくるんです。苦しんだ分だけ嬉しさが増えるところがトレイルランニングのいいところだと思います。今回も登りはすごく苦しんで、最後は笑ってゴールできるように走りたいですね」

コロンビア モントレイル
SHINETSU FIVE MOUNTAINS GROUP FKT

全国で活躍するコロンビア モントレイルアスリートが6名が斑尾高原に集結。石川弘樹がディレクションする信越五岳をめぐるルートでの「グループFKT」に挑戦。個々でありながらチームでも走るという、新たなチャレンジの形を模索する。