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今年1月、日本橋に〈Parklet〉を立ち上げたマックス・ハウゼガはカルフォルニア育ちの29歳。本業はクリエイティブディレクターで、「山、海、食」をテーマに掲げるライフスタイルメディア『TERASU』の発起人でもある。毎日、職場まで乗る自転車に、スケートパークでのスケートボードや海での魚突き、雪が降ったら日本の雪山へ出向き、東京に暮らす現在もアクティビティ三昧の毎日を満喫中だ。

「サンフランシスコ郊外に引っ越したのが10歳のころ。サンフランシスコで西海岸ならではのカルチャーに触れ、スケートボードを始めたんだ。サーファーだった父に連れられてサーフィンはしていたけれど、本格的に何かに打ち込んだのはスケートボードが初めてだったかもしれない。BMXにも取り憑かれ、その後、山の中のシングルトラックをマウンテンバイクで走るようになったんです」

マウンテンバイクはカリフォルニア州郊外にあるマリン郡発祥のアクティビティといわれるが、自宅はちょうどそのエリアにあった。周囲の山には素晴らしいトレイルが広がっていて、マウンテンバイク仲間とトレイルの整備を行うほどマウンテンバイクにハマってしまった。ハイスクールに進むころにはチームに所属し、レースにも出場するようになっていた。

「夢中になるとそれしか見えなくなってしまう性質で、そのうちプロと同じ大会に出るようになって、さらに上を目指したくなリました。そこでハイスクールを卒業するタイミングで、ワールドチャンピオンシップ(UCIマウンテンバイク世界選手権)の出場を見据えて1年間、プロとして活動することにしたんです。でも義務感でトレーニングを行っているような気持ちになって、うんざりしてしまって」

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クリエイティブを学び、日本へ

大怪我をしたこと、それから違うフィールドでも活動したいという気持ちが目覚めたこともあり、選手としての活動を断念してカリフォルニアの大学に進学した。大学ではメディアスタディを学び、真や映像を本格的に勉強した。必修科目の語学で日本語を選択したことで日本に興味を持つようになり、マウンテンバイクへ注いでいた情熱を日本語習得に傾けるようになる。

「13歳でスノーボードをしに北海道に行ったことがありますが、雪も最高だし食文化や暮らしも興味深くて、子ども心に鮮烈な印象を残したのが日本でした。またいつか、あの天国のようなフィールドを滑りたいって長年思っていたから、モチベーションも高かったです。1年半で喋れるようになろうと期限を決めて、とにかく必死で勉強しました」

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その翌夏にはインターンとして東京のクリエイティブ・エージェンシーで働き始める。大学で学んだ映像制作のスキルを活かしたかったが、クリエティブよりビジネスを優先する社風が合わず、すぐにフリーランスに。そして「海、山、食」をテーマに掲げるライフスタイルメディア『TERASU』を立ち上げた。

海、山、食の相乗効果で世界を“照らす”メディアを

「山はマウテンバイクとスノーボード、海はサーフィン。どちらも僕が子どものころからごく身近に感じていたフィールドで、かつ独特のカルチャーがあり、自分の人生に不可欠のエッセンスでした。もう一つの要素に食を取り上げたのは、10代からフードブログを始めて、年を重ねるごとに食の重要性を実感するようになっていたから。つまり自分の人生に深く関わっている3つのカテゴリーの相乗効果で世界を“照らす”メディアにしたいと思ったんです」

レーサーとして活動するようになった10代で食への意識が芽生えたというが、そのバックグラウンドを育んだのは、自由に外食をさせてくれた両親である。足繁く通ったのは、街のサンドイッチショップやメキシカンの屋台だった。それらのキッチンに入り浸るうちに料理の手法や素材を覚え、それを自宅に持ち帰っては実践するようになった。食との関わりの第一歩である。

トレーニングに明け暮れた10代後半では、ただおいしいだけではなく、パフォーマンスの向上、つまり身体に良くて機能的な食を考えるようになった。レースの結果とはその1日のために積み重ねた日常の賜物である。だったらその努力を無駄にするようなジャンクフードやスナックは一切、やめよう。おいしくヘルシーで、パフォーマンスアップにも効果的な食材の組み合わせ・調理法。それらをメモして検証していくうち、マックスのフード・ジャーナルはアスリート仲間や友人たちに注目されるようになったというわけだ。

「パンを焼くようになったのは選手を終えてからです。マウンテンバイクで膝を傷めていろいろな薬や治療法、コンディショニング法を試したけれど一向に良くならず、そんなときにたどり着いたのがグルテンフリーでした。グルテンフリーの食事をしていると、テーピングや痛み止めなしでも試合に出ることができたんです。その時には『もう二度とグルテンは摂取しない!』と思ったけれど、それからいろいろ試してみてちゃんとした小麦を使い、きちんと発酵させたパンなら身体の調子を損なわないって実感しました」

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スポーツと食を通じて目覚めたテロワール

マックスにサワードウを焼く楽しみをもたらしたのが、〈Tartine Bakery〉のチャド・ロバートソンと、写真家でサーファーのエリック・ウォルフィンガによる共著『Tartine Bread』だ。エリックはサーフィンが上手で、彼のメンターであるチャドにサーフィンを教え、チャドはエリックにパンを教えたというエピソードがあり、それがマックスの心に響いたようだ。

「彼らのライフスタイルはシンプルで、海に行く前に生地を発酵させて、海に入っている間に二次発酵させておく。海からあがったら発酵した生地を焼き上げる。チャドとエリックによれば、パンを焼くことはサーフィンのタイミングにぴったり合っているとのこと。そういうところにも心惹かれます」

本のレシピ通りにサワードウを作るようになると、今度はそのできあがりを左右する発酵のことを知りたくなった。こうして、サーフィンとパンというキーワードからぐんぐんとの食の世界にのめり込み、『TERASU』でも発酵をテーマにしたコンテンツを製作した。発刊記念イベントではみんなに自作のパンを振る舞ったほどだ。そして現在の〈Parklet〉に至る。

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TERASUが本の発売するにあたってAOYAMAパン祭りに参加した時に焼いたAmazake Sprouted Spelt。マックスのオランダ出身のお父さんとおじいさんが大喜びするドイツ系パンに日本の甘酒を加えている。

「山、海のカルチャーと同様、食の領域も自分らしい視点で切り取って発信していきたいと考えていて、〈Parklet〉はそうした表現のひとつ。だからここでは建築、デザイン、環境問題、作家のうつわ、…主役である食と、いろいろな要素をかけ合わせた体験ができます」

根底にあるのは“テロワール”という考え方だ。テロワールとは本来、農地の地理的な特性を表す言葉だが、スポーツと食を通じてマックスが考える“テロワール”とは、土地の文化、環境、そこに暮らす人々が作り出すもの。つまり土地の個性そのものである。

「左官仕上げ、歩道橋を思わせるグリーン、公園で見かける子どもの遊具から作り上げた色の組み合わせ。イメージソースはこの周辺で見かける風景です。風景のなかで見つけた気になる要素を遊び心のあるデザインに落とし込みました」

テロワールを意識した店作りで〈Parklet〉が目指すのは、肩肘張らずにリラックスして食を楽しむ自由なカリフォルニア・スタイルと、日本橋に息づく文化の融合だ。毎日のパンを買いに、コーヒーを飲みに、とっておきのワインを探しに。マックスのライフスタイルから生まれたこの店には、快適に過ごすためのキーワードがあふれている。

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