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人間が体毛を脱ぎ捨てたのは、直射日光下でも動き回れるよう皮膚と汗腺が発達するよう進化したため、という説がある。最もオーバーヒートする状況に合わせて肉体をあつらえ、替わりに寒冷時には衣服を纏って保温することにしたのだ。

そして現代。ここ数年、保温のために着用するアウトドアウェアにある進化が到来している。

寒い中でも、運動を開始すると体は熱を帯びる。そのため保温着を脱がないと大量の汗を掻き、汗による濡れ冷えのリスクが生じる。一方で、状況が変わればまた登山であれば山頂に近づけば風は強まり、気温も体感温度も下がっていく。するとまた、防寒着を羽織る必要がある。

この煩わしい課題を解決するため、運動時も着用し続けられる新世代の保温着が登場し始めているのだ。停まると暖かく、動くと熱を排出する。先鞭をつけたのは、約10年前に〈Polartec〉と〈Patagonia〉が共同開発したパワーグリッド・フリースだろう。この潮流にある保温着はアクティブ・インサレーションなどと呼ばれている。

Answer4 / パワーグリッド フルジップ フーディ

自身のレベルに合った軽装でトレイルへと飛び込む。それ自体が喜びになるトレイルランニングでは、自然と人とを隔てるギアはミニマルなものが好まれる。

〈Answer4〉はご存じトレイルランニングギアシーンを牽引するガレージブランド。バックパックから産声を挙げた同社が、ウェアとして真っ先に企画したアイテムが、〈Polartec〉社のパワーグリッドを用いたフーディだった。

パワーグリッドの特徴は「裏地」にある。凸凹による四角形のグリッド構造(格子)になっており、これは言い換えれば、起毛された生地に対して碁盤の目のようにミゾが張り巡らされている状態。このミゾのおかげで、スピーディに移動する際には風が抜け、蒸れを排出する。凹凸による毛細管現象で効率よく汗を吸い上げる。かたや停滞時には空気が溜まることで優れた断熱性を発揮。

おまけにフルジップ、かつ上下とも別個に開閉できるダブルジップを採用したことで、着用者のシチュエーションに応じたきめ細やかな通気マネジメントが可能になる。

「ウェアを脱ぐことさえ億劫になる超長距離レース」のために開発された保温系ベースレイヤーだが、それがトレイルランというアクティビティの特性にはすこぶる丁度いい。

〈Answer4 / パワーグリッド フルジップ フーディ〉¥17,800-

MILLET / ブリーザー トイ アルファ ダイレクト フーディ 

同じ〈Polartec〉社のパワーグリッドがフリース素材であるところ、このアルファダイレクトは中綿素材になる。

ダウンや、その他の化繊素材のモコモコウェアと同じジャンルだ。とはいえ、一見ではおよそ一般的な中綿ウェアのようには見えない。中綿を閉じ込めているべき裏地が省略され、中綿(のようなもの)が肌面側に露出している。まるで毛足の長いフリースのように。

とはいえ、この中綿は特殊なニッティングがなされているので、裏地が無くても抜け落ちてしまうことはない。毛足がグリッドのように適度なバラつきのある密度で配されているのも特徴で、高負荷の運動時は湿気を外に放出する。体温が蓄積して飽和状態になると、不快を感じる前に余分な熱を放出してくれるのだ。

ちなみに本商品では、風を直で受ける身頃部分はやや密に、袖が重なる脇部分はややまばらにアルファダイレクトを仕上げている。中綿をパック内に閉じ込めておく必要がないので、これまたフリースのように着用者の運きに追随してもくれる。表生地は撥水性も持つストレッチブリーザー素材。たとえば足元は残雪が待ち構え、でも太陽は容赦なく照りつけるといったシーンにもってこいではないだろうか。

〈MILLET / ブリーザー トイ アルファ ダイレクト フーディ〉¥31,900-

THE NORTH FACE / ベントリックスベスト

羽毛布団の中身が偏ってしまい、煩わしさを感じた経験はないだろうか。このような偏りを防ぐため、ダウンであればダウンパックと呼ばれる袋の中にわたを封じ込め、あるいはキルトステッチで制限を設けている。

限られた量の羽毛で保温力を高く、つまり空気の層を作るかさを出そうとするとき、偏りはある程度避けられないことだった。

その点、〈THE NORTH FACE〉が独自に開発した化繊中綿ベントリックスは、ポリエステルの中綿をシート状に成型することでこの問題に一つの回答を提示。

パック内の空間を自由に移動できる羽毛や他の中綿とくらべると、質量当たりの保温力はやや劣ると考えられるが、それを補って余りあるスペシャルな工夫が凝らされている。スリットだ。

シート状の中綿に対して、運動量が多く伸縮して欲しい箇所に切り込みを入れたことで、動作するたびスリットの孔が開閉して積極的に通気を促す。おまけにこのスリットが開く分だけ伸びるため、伸縮性も非常に高い。実に理に適っている。

モーションキャプチャーにより運動時の人体の動きをシミュレートし、適切な位置にスリットが設けられていることは言うまでもない。

〈THE NORTH FACE / ベントリックスベスト〉¥23,100-

STATIC / アドリフトクルー

今回紹介する中で最も登場から日が浅いのが、この次世代アクティブ・インサレーション素材かもしれない。

大まかにフリースと表現して良い素材だが、まるで風に舞う綿毛のようとでも、上質なモヘアセーターのようとでも形容したくなるエアリーさを備えている。ロングスリーブ・Lサイズでも1着約110gと、とてつもない軽さ。その秘密は繊維にある。

帝人フロンティアが開発したポリエステル・オクタは、繊維の中心部に空間のある中空糸非常に軽量であり、さらに8本の突起が放射線状に広がっている。

「ちくわぶ」のような形状を思い描いて欲しい。肌との接地面が減るため素肌に着用してもベタつきにくく、中空部や突起のあいだの空間に空気を溜め込むことで、優れた断熱性が期待できる。

さらには宙にかざすと向こう側が明るく透けるほどの大胆なメッシュ素材。熱のヌケ感は他のアクティブ・インサレーションに勝るとも劣らない。一方で、休憩時はこれ一枚で保温させるのでなく、上にウインドシェルを重ね着するなど適切なレイヤリングスキルが求められるだろう。

OEKO TEX認証を受けた国内工場で生地を生産し、その過程で生じた繊維ゴミはリサイクルされるなど、持続可能性への意識も高い。

〈STATIC / アドリフトクルー〉¥12,100-