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近頃は、自然派ワインやヴァンナチュールと呼ばれる自然なつくりのワインを飲食店でも多く見かけるようになった。トレンド的な側面がある一方で、肩肘張らずに気軽に飲むラフさや、オーガニックなつくりだから感じる心地よさは、mark読者とも相性が良いはずだ。『WITH WINE』は、自然なつくりのワインに寄り添う人へのインタビュー連載。身体も精神も健やかで軽やかになれるワインの楽しみを、共有している。第二回は、北杜市長坂町のワインショップ〈Wine Shop Soif.(ソワフ)〉の店主、窪田さん。

八ヶ岳が見渡せる麓の町長坂に、コンクリートキューブのような外観が目を引く〈Wine Shop Soif.(ソワフ)〉はある。オーナー窪田さんは東京の酒屋勤務を経て、2017年の9月に同店をオープンさせた。

「ナチュラルワインは特に都会を中心に、世界中でブームが広がっていますよね。街でおしゃれに飲むシーンをイメージされる方も多いと思うんですけど、実際ワイン生産地へ行くと、ほんとに田舎。でもそういう場所で飲むワインが心地良かったりするんですよね。自然豊かな山梨でなら、そういった楽しみ方をしてもらえるんじゃないかって思ったんです」

窪田さんの地元は、ソワフのある場所よりもやや甲府寄りのエリア。飲食店が多く人が行き交う甲府よりも、より自然豊かな長坂を選んだ。有機栽培で野菜を育てる人も多いからか、ナチュラルワインへとの親和性も高い。

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長坂周辺は、長期休みのシーズンは観光、主にキャンプや登山を目的として訪れる人が多い。避暑地でもあるため、夏は別荘で過ごす人が近隣の北杜市にやってくる。冬は地元の人が中心だが、地元といっても移住者の割合が高めで、もともと都市でナチュラルワインを飲み慣れた人が店を訪れる。時期によってさまざまなお客さんが行き交う場所だ。

「こういう表現は語弊があるかもしれないですが、北杜市は、ミーハーでいられる場所なんです。東京に行こうと思えばすぐに行けるし、辺鄙な山奥すぎない。2拠点生活をされている人も多いし、東京から日帰りでも来れちゃう。そういう感覚で住んでいる人が多くて、実際30代の移住者、Uターンは増えてきていますね。最近は別荘をサブスクリプション方式で使える〈SANU〉がこの辺にもできたので、今まで山梨に縁の薄かった人たちも来ていただいています。この地域の新しい楽しみ方が広がっているかもしれないですね」

ナチュラルネイティブな同世代の作り手たち

ソワフのワインのセレクトはインポートが中心で、入荷のタイミングが合えば国産のものも扱う。山梨の飲食店への卸しは2022年春の時点で9軒で、そこには〈sun.days.food.〉や〈和食おすし若〉も含まれている。

「山梨だと、〈ボーペイサージュ〉の岡本さんにはとてもお世話になっていて、何かわからないことがあれば教えていただいてます。山梨はワイナリーが多い土地柄なので、人に恵まれています。この辺りでも、同世代でワイナリーを立ち上げる方も出てきたり。日本も海外も、若い世代で自分のワイナリーを立ち上げる方が増えてきています」

自然に負荷をかけない、ワインに対して余計に足さないことを考えている作り手、なるべく同世代で共感できる人のものを。ともに成長していく関係でありたいというのが彼の考えだ。

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「日本だと”おしゃれ”だっていうイメージだけど、現地ではガンガンヒップホップかけながらラフに飲んでたりします。若者文化っていうか。もちろん上の世代の人たちもいるので、一括りにはできないんですけど、みんな自由に、縛られずに。それもいいなって思いますね。ナチュラルワインは、2000年代は、一部カウンターカルチャー的な側面もあったかと思いますが現在、そしてこれからはワイン作りだったら自然なつくりを選択するのが当たり前、と考えるナチュラルワインネイティブな世代が出てきているイメージですね」

生産地の空気感を肌で感じる

『この場所でワインを飲んだら、きっと美味しい!』確かな直感から、ソワフを立ち上げた窪田さん。地下のセラーでは、ワインを手に取り、作り手の特徴からワインの味わいまで丁寧に説明してくれるので、信頼して言葉に耳を傾けられる。ワインの知識に関してはほぼ素人レベルだったという立ち上げ前から、現在の信頼感ある、実感が込められた言葉を得るまでには、海外のワイン生産地へ足を運んだ経験が活きている。

「始めたころは飲んでも飲んでもわからないから、会いに行くしかないって。海外の生産者を巡っているのは、醸造家のもとにワインのことを教えてもらいに行き始めたのがきっかけです。インポーターさんにアポイントを取ってもらって、畑やワイナリー、彼らの生活を見に行った。ときに夕飯に誘ってもらったりもして。そうすると、これまで漠然と飲んでいたワインが、「知り合いが作ったワイン」になる。風景が見えてくるようになる。誰かにワインの説明をするときに、言葉に重みが出るような気がしていています」

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その経験を機に、毎年のように海外へ。ゆくゆくは会ったことがある生産者、顔が見える人のワインだけを扱う店にできれば、と窪田さんは話す。

「ワインは『テロワール(土地が生み出す味わいのこと)』の話をよくしますよね。それに加えて、僕はやっぱり『人』が大きいと思います。作り手の人物像や印象を伝えると、飲む人のなかでもワインのイメージが変わる。ただ「美味しいワインです」っていうのと「こういう人が作ったワインです」っていうのでは、その液体に対する向き合い方が変わる気がしていて。だから僕自身が人に会いに行くことが大きい」

楽しいことばかりではなく、農家さんにドタキャンされて大変だったエピソードなども交えて話してくれた窪田さん。でも彼のワインはそうしたことを飛び越えるくらい美味しいんですよね、と笑う。経験したすべてが、彼の言葉に結びついている。

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「ナチュラルワインの世界では昔からありますが、天体運行の動きを活用する『ビオディナミ農法』や『バイオダイナミクス』と呼ばれる栽培方法を実践して、月の満ち欠けに合わせて収穫栽培したり、牛糞を肥料としてスプレーしたりする農法の存在を知識としてはもっていたんです。ただ、本には書いてあるけど、半信半疑だった。でも、ある海外のワイナリーを見学していたときに『じゃあ今から牛糞スプレーしに行くから』ってごく自然にやってた。彼らはワイン作りだけじゃなくて普段の生活の中に、今日はジャムを作る日、収穫をする日、とリズムをもっていて。そのリズムが農法にも活かされているというだけなんです。スピリチュアルかどうか以前に、僕が会いに行った人たちはそれがスタンダード。本で読んでいたイメージがある意味覆った瞬間でした。実際にその農法を始めてから収穫量や質が上がったり、葡萄の病気が少なくなったことを、彼らの言葉を通して聞くこともできました」書物で得た知識も現場で目にすることで、窪田さんの中で実感を伴ったものへとアップデートされていった。

音楽とワインの共通性

自然なつくりのワインは、何も足さないので、毎年味が全然違うのが当たり前。若い作り手もたくさん出てきている中で、難しいヴィンテージの時もあれば、毎年”素晴らしい出来栄え”ではないこともある。しかし販売店として、売りづらいから仕入れないという選択をしたくない。

「音楽に例えると、ミュージシャンを好きになったら、毎年アルバム出たら買う、みたいなのと一緒。毎年彼らの作品を楽しみにしているし、買い支えている。彼ら生産者に会ったことがあると、その思いはより強くなる。ただ取り扱うのではなく、彼らの作品を預かっているイメージでもあります。作り手と関係ができていくと、そういう思いが強くなっていく。ただ売れるから売る酒屋ではいたくない。ナチュラルワインはそこでしかないと思うんですよね、人の魅力。彼らってすごくパワフルな人たちだから」

〈Wine Shop Soif.(ソワフ)〉
山梨県北杜市長坂町長坂上条2539-43
営業時間:11:00〜19:00
水・木曜定休+不定休
www.soif.jp/

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