日本の国土のなんと3分の2は森林で、世界でも有数の森林国。しかし、その森林の4割は人工林だ。二酸化炭素を吸収しオフセットしてくれる樹木や森林は環境維持に欠かせない存在だが、人工林の樹木はそれを利用し、管理していくことではじめて持続可能になる。ここでは、こうした「木」をうまく活用したアイテムを紹介しよう。ただし、持続可能性に貢献するだけでは、プロダクトとしての魅力があるとはいえない。「木」の持つ自然の性質や、何よりも身体に馴染む悦びを感じることができる製品をセレクトした。
yaso / 八十茶
お茶を淹れ、飲むという行為。なんでもない日常のワンシーンだが、わたしたちは無意識のうちにお茶に体の緊張をほぐす効果を期待している。「八十茶」を口に含むと八ヶ岳の森で育った松の葉の香りが広がり、鼻から抜ける心地よさに自ずと呼吸が深くなる。赤松には、古くから生薬や漢方、健康茶として飲まれていたルーツがあるが、より美味しく、飲みやすいようブレンドされた3種類の茶葉が気分に合わせ選べるラインナップになっている。日常のお茶が、その爽やかな香りと優しい味わいで、求めた安らぎに応えてくれる。
この「八十茶」誕生の背景には「アーボリスト」の存在がある。「アーボリスト」とは、造園業者や樹木医・林業などの限定された範囲にとどまらず、樹木の剪定や伐採、診断や治療、栽培や生産など樹木にまつわるあらゆる仕事に携わるプロフェッショナルのことをいう。日本ではまだマイナーだが、海外では広く普及している職業だ。
長野県茅野市の「木葉社」では、国内で希少なアーボリストが活躍している。国土の約70%が森林といわれる日本で、地域の樹木や森林の持つ公益的機能を可能な限り引き出すことが、彼らの仕事の意義となる。そんなツリーケアのプロフェッショナル集団と、東京を拠点とするデザイン事務所による共同プロジェクトとして「yaso(ヤソ)」がスタート。『森と寄り添う暮らし』をコンセプトに、木をめぐる日々の仕事で出会った森のカケラを手に取りやすい形へとリデザインしたプロダクトを生み出す活動が誕生した。
なかでも「八十茶」の開発には特別な事情があった。近年、松枯れ病の拡大が進んでおり、各地で松の個体数が激減しているのだ。標高が高く寒冷な気候の長野県諏訪地域での被害は比較的スローペースであっても完全に食い止められるものではなく、現存する赤松は被害に遭う前に人々の手に届くよう活用方法を模索した。葉はその特性を生かし工夫を凝らすことで、美味しいお茶へと形を変えた。さらに、幹はお香の基材、枝葉は精油、松ぼっくりはビールと、樹木管理の過程で発生した赤松を余すことなく使い、森を循環させる仕組みにつなげている。「yaso」だから見出せる自然の魅力のリデザインにより、私たちもはるかな山を身近に感じることができる。
Cul de Sac -JAPON / Cul de Sac, Filhiba
天然の日本三大美林の一つとして数えられる「青森ヒバ」。その木材は、腐食に強く、耐久性に優れているため建築用素材として使われてきた。中尊寺の金色堂(岩手県)、掛川城(静岡県)、出雲大社(島根県)など名だたる重要文化財に、経験的知識により選択されてきたのだ。“なにか不思議な効能”とされていただろうが近年、科学的な裏付けがなされている。青森ヒバから抽出される精油に含まれる成分「ヒノキチオール」「β-ドラブリン」が、抗菌、防虫、消臭、リラックス効果を持つことが分かったのだ。この成分を持つ木は世界でも稀で、現在日本では天然ヒノキチオールを抽出できる原料はそのほとんどが青森ヒバだという。
〈Cul de Sac -JAPON(カルデサック-ジャポン)〉から届いた箱を開くと、すぐに効能の一つ、“リラックス効果”が嗅覚を通じて感じ取れる。「ヒバチップ」が心落ち着く自然香を漂わせ、暮らしの中に定位置を設ければ、徐々にアプローチを広げていく。また、「リードディフューザー」は、100%ヒバの精油とヒバ粉のみで贅沢に作られたオーガニックオイルを、ヒバの枝を通して吸い上げ優しく香りを拡散させる。この他にもヒバの高機能がライフスタイルに取り入れやすいシンプルなプロダクトの数々に落とし込まれている。
そして、抗菌、防臭、消臭機能を最大限に生かしたファブリックコレクション「Filhiba(フィリバ)」が新ラインとして登場している。抗菌表示2.0の合格ラインを大きく超える抗菌活性値5.9の抗菌性試験結果を得ており、繰り返し洗ってもその効果が落ちない安定性も備える。再生セルロース繊維レーヨンにヒバ精油を練り込んだ生分解性のある100%自然素材は、唯一無二のオリジナルファブリック。原料から製造段階までエシカルデザインにこだわる点は一貫している。ファッション性高いトップスも、素肌に触れるインナーウェアも、シンプルながら高機能なアイテムを永く使い続けることが持続可能性に繋がる。
A4 / tumi-isi
丁寧な包装を解くと、まだほんのりと木の香りがする。自然な木の風合いを残しながらカラーリングされたころころとした多面体ブロックは、手に持つと不意をつかれる。木ってこんなに柔らかく感じただろうか。
A4の「tumi-isi(ツミイシ)」は、ランダムにカットされた木製ブロックをバランス良く積み上げることで、創造的感覚を養うことを目的としたニュースタイルの積み木だ。意外にも、面と面の間でグリップ力を持ち、こんなふうに縦に積み上げることも可能。少なからず手先に神経を集中させるのだが、適度な難易度が大人にも楽しい。もちろん、子供には自然素材の感触を覚えながら創造力やバランス感覚を身につけてほしいし、大人が一点に集中する時間を堪能してもいい。
さまざまな楽しみ方がある「tumi-isi」は、「2021年グッドデザイン・ベスト100」を受賞している。部屋のインテリアとして飾れるよう、ブロックひとつひとつに手間のかかる工程を惜しまず、サイズや形状に審美性が追求されている点も高く評価されている。素材は、500年の歴史ある奈良県産吉野杉・吉野檜を使い、加工・塗装・組立・検品に至るまでオールメイドインジャパンだ。また、自然塗料の使用や、緩衝材には廃棄されるカンナ屑を用いるなど、安全性・環境性への高い意識にも心を掴まれる。吉野材シリーズに加えて、広葉樹・リサイクルコルクなど素材を変えて展開され、質感の違いの中に、遊ぶもよし、飾るもよしのお気に入りが見つかるだろう。美しいアイテムを手に取れば、それがいつの間にか持続可能性に繋がるセレクトになる、消費者には嬉しいアイテムだ。
THE HUMBLE CO. / バンブーハブラシ、バンブー舌クリーナー
心躍るカラフルなカラーブラシに、あたたかみあるウッド調の組み合わせが見た目に可愛い。サステナブル素材である竹製の持ち手は握りやすく、歯を包み込むようなブラシ毛はしっかりと汚れを落としてくれていることが気持ちよく実感できる。
歯科医の監修のもと確かな機能性を持つ〈THE HUMBLE CO.(ザ・ハンブル・コー)〉のオーラルケアアイテムには、地球環境維持への挑戦と、先進国も途上国もなくすべての人が口腔疾患で苦しむことのない世界へと取り組む強い思いが反映されている。
“プラスチック製品をなくしたい” そんな難題に真摯に向き合い、持ち手は生分解可能な竹素材、ブラシ部分には植物由来原料約40%のバイオベースナイロンを使用した「バンブーハブラシ」。キッズ用サイズと、「舌クリーナー」も展開している。
バイオベースナイロンの“40%”には課題を残し、将来は“植物由来100%”へと切り替えられるよう今後も最適な素材を探し続けるという。製造プロセスにも動物性原料、動物実験などを排除したクルエルティフリー(商品や活動が動物を傷つけたり殺したりしていないこと)でなければいけない基準を持つのも、ヴィーガン認証を取得する〈THE HUMBLE CO.〉のポリシーだ。
また、世界で年間100億以上ものプラスチックオーラルケアアイテムが消費・廃棄され自然環境に影響を及ぼす事実がある一方、口腔ケアが不十分で虫歯治療が手遅れになり子供たちの永久臼歯を抜くしか方法がないという国があるのも現実だ。口腔衛生支援活動を行う〈ハンブルスマイル財団〉へ製品や売上の寄付をし、世界中の子供たちに口腔ケアが行き届くよう持続可能な方法で支援している。地道な方法だとしても、一人一人が一本のブラシを見直してみることで地球全体の問題に視野を広げられる。スウェーデン生まれのオーラルケアアイテムは、紐解くほどに地球に優しく、人に優しい思いが詰まっている。