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Ome Farm Kitchen〉は2020年に浅草橋にオープンした、カウンター5席のみの小さな食堂だ。営むのは東京・青梅市で有機農業を営む農集団、〈Ome Farm〉。夜はコースのみ・予約制という小さな店は、周辺にある飲食店のシェフや料理人を惹きつけた。「浅草橋といえばやきとり、やきとん」のイメージがあるように、これまで界隈には有機栽培の野菜を提供する店はほとんどなかったというが、そういうスポットが少しずつ増えてきたのは〈Ome Farm Kitchen〉がこの界隈の食材への認識を変えたからかもしれない。

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〈Ome Farm Kitchen〉のシェフ竹内真紀さん

今年5月、岩本町に移転した新店舗は「パッと飲んでサッと帰る」という神田エリアの土地柄を反映するように、旬の野菜を使ったフードと厳選したワインを楽しめる食堂へと変貌を遂げた。厨房では、旧店舗でもシェフを務めた竹内真紀さんほか、〈Ome Farm〉とつながりのあるシェフが日替わりで腕を振るう。つまりジャンルもメニューも料理のテイストも、料理人ごとに変わるという趣向だ。とはいえここの主役は2日に1度、〈Ome Farm〉の農場から届く野菜たちだから、料理人は変わってもベースラインは変わらない。味付けや調理方法はごくシンプルに、野菜それぞれの持ち味や香りを感じてもらえるように。季節ごとの色とりどりの野菜やハーブが次々にテーブルに登場する。

オーガニックは特権階級だけのもの?

「おいしい野菜を食べられるのは港区や渋谷区のごく一部のエリアに限られるって、なんだかおかしいと思いませんか?」というのは〈Ome Farm〉代表の太田太さん。

「『オーガニックは都心に暮らす特権階級の人たちだけのもの』という既成概念をぶち壊してやろうというのが僕の考え方。実店舗は自分たちのメッセージを伝える発信拠点だと考えていますが、そのロケーションにダウンタウンを選んだのは、オーガニックが根付いていないエリアに広めてこそ意味があると思ったから」

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アメリカに遅れること10年、ようやく日本にもダウンタウンがかっこいいという時代がやってきた。いい店、通いたい店はみんなダウンタウンにある、と太田さん。たとえば、といって名前をあげてくれたのは〈Parklet〉。一方、その〈Parklet〉を監修する“JJ”ことジェリー・ジャクシッチもオープン前から〈Ome Farm〉の野菜を使いたいと声をかけてくれていたそうで、イーストサイドでも〈Ome Farm〉のオーガニック伝道が広がりつつあるようだ。

おいしいを追求する、ユニークな食集団

〈Ome Farm〉は東京・青梅でサステナブルな農業と養蜂を営む食の集団だ。ルッコラやビーツといった西洋野菜から日本の伝統野菜まで、年間でおよそ40〜50種を育てており、なかには東京で江戸時代から伝統的に育てられていた在来種も含まれる。農薬や化学肥料は一切使わず、ハネ野菜など植物性原料を中心とした堆肥をつくり、自分たちでタネをとり種苗づくりから行うなど開園当初から環境になるべく負荷をかけない農業を志してきた。太田太さんにとってそれらは当たり前のことであり、声高にアピールすることでもないそうだ。

「僕たちとしては単純においしい野菜を作りたいだけ。最高峰のおいしさを突き詰めたらタネ・土・水に行き着いて、現在のような循環型のスタイルになっていった、ということです」

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新玉ねぎのロースト、春菊のペースト
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自家製梅酒のソーダ割り

不健康な環境で育ったものはおいしくないから論外として、厳格な自然栽培にこだわって安心安全を追求したところで、食べておいしくないなら意味がない。生産者としてはいつだって、おいしいかおいしくないかにベクトルを向けている。そのなかでさらなる高みを目指して試行錯誤する。おいしさに限界はないからだ。

二元論では語れないサステナブル

プロも唸らせる「おいしい」を長く続けるため、〈Ome Farm〉は循環型農法をとりいれているが、ここの取り組みをサステナブルな観点から語るのは難しい。

「2020年にノープラスチックの観点からマルチシートの使用を完全にやめてみたんです。それによって通常マルチシートを使う作物の収穫量が2〜3割落ちたものがありました。マルチシートを使わず、藁と籾殻をその代用とする農業者もいますが、その多くはF1種(一代交配種)を蒔いています。うちは在来種と固定種のタネのみを使っており、ノーマルチと在来種・固定種をサステナブルに両立することに頭を悩ませています。だって、ノープラスチックで環境負荷が低減されたとしても、収穫量が減ってしまったら農家にとってはまったくサステナブルじゃないですよね? 一方で雑草とりに費やす時間や体力を大幅に減らせるマルチシートは農家の働き方を変えることに貢献してきました。とすれば、これもひとつのサステナブルといえるわけです。どの視点に立つかによって見える風景がまったく変わる。それがサステナブルの難しさですね」

視点が変わればサステナブルのゴールも変わる。誰にとっての、何のためのサステナブルなのか。いま問われているのはサステナビリティの内容を二元論的な対立の図式で語ることではなく、自分たちの取り組みがどこに向かっているかを意識し、自らに問いかけてみることなのかもしれない。ちなみに〈Ome Farm〉のマルチ問題については、生分解性のマルチを見つけたのでこれを試しているところだ。

「収量は確保したい、スタッフの休みもほしい。でもプラスチックを燃やして処理することに抵抗はある。だからマルチを使わないと収穫量が落ちてしまう品種に限って、生分解性のマルチ導入してみることにしました。農業を営む自分たちにとってはノープラを追求するよりも、生分解性マルチを開発するメーカーを応援してプラスチック産業をサステナブルに変えていくほうに未来があるとも感じています」

食育は未来のためのタネまき

太田さんが胸を張ってサステナブルだといえる取り組みが子どものための活動だ。〈Ome Farm〉では高校生の校外実習を受け入れたり、子ども向けにタネ取りのイベントを実施したりといった活動を続けてきた。昨年は幼稚園児〜中学生に向けて、ニワトリを締めて羽をむしり、捌いてチャーシューを作り、骨からとったスープでチキンラーメンに仕立てて食べるというワークショップを開催した。

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「『気持ち悪い』、『もう肉は食べない』、それでもいいと思うんです。大人が押し付けることなく本人が感じたままが正解だから。ただ、何気なく食べているラーメンの一杯にどれだけの生命が関わっているのか、それを感じられる機会を作れればと思いました。理科室で、食べもしないフナやカエルを解剖してその死骸を捨てるより、よっぽど生命の重さを感じる体験になったはず」

いつかは「キッズファーミング」と名付けたスクーリングをしていきたいと考える太田さんは、子どもたちへの活動を、未来を変えるタネまきだと捉えている。

「サステナビリティにしろオーガニックにしろ、ものごとは善悪でははかれないし、そもそもこの世の中に正解なんてない。だから子どもたちには、自分なりの答えを自らに問いかけ、考え、感じることを大切にしてほしい。〈Ome Farm〉がそういうプロセスを提供できる場所であればと思っています」

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Ome Farm Kitchen
東京都千代田区神田須田町2-8-19
080-9386-2914
instagram.com/omefarmkitchen

Ome Farm
omefarm.jp