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・陸上ライター 和田悟志さん(以下和田)
陸上競技を中心に、さまざまな選手、実業団、大学などを取材するスポーツライター。観るランニングの指南役として、観戦のいろはを教えてくれる。

・mark編集 田中優帆 (以下田中)
編集部の文化系担当。陸上観戦はまったくの初心者のため、どこをどのように観ればよいか、和田さんに教えを乞う。

誰でも経験したことがあるスポーツだから楽しめる

田中:今回は陸上観戦の楽しみについて知りたくて。私は実家で年始にテレビで流れてくる箱根駅伝くらいしか観たことないんですが、一体どう楽しんだらいいんでしょうか。

和田:箱根駅伝は、こたつでみかん食べながらだらっと観るのが、理想というか定番ですよね。確かに選手の名前や実績を知っていれば、おもしろいとは思うんですが、そういった細かな情報を知らなくても楽しめるのが学生駅伝、とりわけ箱根駅伝ですね。

田中:なるほど。駅伝は観戦ビギナー向けなんですね。

和田:選手たちが大会で走っている3分/kmというペースがいかに速いか、ふだんランニングをしている人だと、より実感できるんじゃないでしょうか。市民ランナーにとって最初に壁となる4分/kmよりも1分も速い。自分のレースペースと、トップランナーのペースを比べると、超人的だというのがよくわかります。
タイムの換算がピンとこなくても、「100mを18秒で走る」ペースだと考えると、その速さがわかりますよ。誰しもが学校の体育の授業でタイムを測ったことあると思うんですけど、18秒って結構全力。自分の100mダッシュよりも速いペースで20kmも走り続けているって、実体験に照らし合わせるとすごいですよね。陸上競技でも他の種目だと、記録の凄さがピンとこない時もありますけど、走ることに関しては、誰もが経験しているスポーツだから、観ててもわかりやすいです。

田中:確かに走るって、細かいゲームルールもなくて、感覚的にすごい!速い!って観ることができるスポーツですね。

自分の推しを見つけよう

田中:野球やサッカーのように、自分が応援しているチームとかはなくて、なんとなく駅伝の雰囲気全体を観ていることが多いんですが、やっぱり特定の大学や選手に肩入れして、熱く応援したいっていう気持ちがあります。

和田:そうですね。学生駅伝の場合は、みなさん自分の母校や家族親戚の出身の大学を応援するパターンが多いようです。もしくは、おらがまち(地元)応援スタイル。箱根駅伝の場合、日本テレビの実況だと選手の出身地をアナウンスすることを徹底していますね。文化放送も、出身都道府県別のエントリーリストを作ってホームページで公開しています。個人のファンサイトなんかでもそういう紹介ページがあったりする。そんな情報を参照しながら、身近に感じる選手を見つけるのもいいですね。

田中:そういえば出身地以外にも、選手のパーソナルな情報というか一言コメントみたいなものを公表していることありますよね、好きな食べ物とか。

和田:まさに『陸上競技マガジン』で作っている選手名鑑は、好きな有名人っていう質問項目があり、SNSなどでも話題になっていますね。

田中:選手の個性的な情報は、一気に親近感出るのでどんどん出して欲しい。走っている選手の顔、みんな一緒に見えちゃうので。

和田:みんな一緒に見えるっていうのも分かる気がします。若者の総体として、汗を流して走っている姿に胸打たれる、みたいなのも駅伝の魅力のひとつだと思いますね。一方で自分の応援している推し選手がいれば見方がまた変わるかもしれないですね。

田中:推しの選手の見つけ方ってありますか?

和田:事前番組を観ることをおすすめしたいですね。駅伝シーズンは10月からですが、当然、選手たちは1年間を通してトレーニングして、夏には合宿もあり、駅伝以外の大会にも出場しています。そんな学生選手の1年を追いかけて素顔に迫っている事前番組を観ておくと「この人共感できるな」って思う選手を見つけられるかもしれません。

駅伝をもっと楽しむ おすすめのテレビ放送
文化放送・・・駅伝シーズンに入ると毎週「箱根駅伝への道」という番組が放送される。近年は柏原竜二さんがコメンテーターを務める。

日本テレビ・・・箱根駅伝予選会が10月に、学生ランナーの1年間を追った「春夏秋冬」などの関連番組が11月くらいからBS、CS放送などで放送される。直前番組も「絆の物語」などがある。

和田:あとは11月の終わりくらいに発売される選手名鑑のプロフィールに目を通したり。名鑑だけで一体何冊あるのかってくらい書店に並ぶので、チェックしてみるのもひとつ。各出版社ごとに個性があっておもしろいです。オフィシャルが好きな人は、12月に入ってから発売される公式ガイドを待つのが良いと思います。

本戦よりもアツい? 出場権を争う10月の予選会

和田:そういえば田中さんは箱根駅伝の予選会って観たことありますか?

田中:よ、予選会ですか? 存在すら知らなかったです。

箱根駅伝予選会とは?
正月の本大会に出場できるのは21チーム。前回の大会で10位までに入った大学は出場権(シード)を手にしているので、残り枠を予選会で争う。リレー式の本選と異なり、予選会ではハーフマラソンのコースを一斉に走り、各校上位10名の合計タイムにより、10チームを決定する(残り1チームは関東学生連合チームが参加)。毎年10月に開催される。

和田:陸上ファンの間では、この出場権をかけた10月の予選会の方がドラマティックでおもしろいという人もいるくらいです。本大会と予選のレースの特徴が違うので、選手の夏の過ごし方も違うんです。本大会で勝てばいいと思って調整していると、予選会で足を掬われちゃう。近年はコロナで無観客レースでしたが、従来は予選会とは思えないくらい観客も多いんです。スタート、ゴールは自衛隊の駐屯地なので普段一般の人が入れないところでやっているのも、一興なんですけど。

田中:ちなみに陸上ファンって、現地に観に行く派と、テレビ中継をウォッチする派に嗜好が分かれるんですか?

和田:分かれますね。現地に行っちゃうと全体の状況を把握できないんです。ただ、それもここ2、3年でTVerで日本テレビがライブ配信をするようになって、スマホでも中継と同じものが観られるようになったんです。なので現地にいながら、配信を観る。いいとこ取りですね。現地派は、それまではラジオで把握するっていうのが定番だったんですけど。

田中:ラジオという選択肢もあるんですね。正月は帰省の時期なので、移動中も聴けるのはいいですね。

和田:ラジオもなかなか面白くてですね。NHK、文化放送、ラジオ日本の3社が中継しているんです。文化放送さんは学生三大駅伝(出雲、全日本、箱根)すべて中継していますよ。

田中:観戦スタイルも時代とともに進化しているんですね。

レースの駆け引き

田中:駅伝に限らず、マラソンや他の陸上の大会などを観るときに和田さんはどこをみているんですか?

和田:僕個人としては一番目が行くのはやっぱりシューズですかね。選手たちが何を履いているか興味あるので。レース展開の中では表情などにも着目しますし、フォームの変化も見ます。でも、腕の振りや腰が高いとかはわかるんですが、接地などの細かい技術はスローモーションにしてみないとわかりにくいし、後からしっかり分析が必要だったりします。なので、現場の観戦だと僕や市民ランナーのみなさん含め、ギアへの注目度が一番高いんじゃないでしょうか。

田中:なるほど。

和田:あとはやっぱり駆け引きによるレースの展開です。

田中:駆け引き……?

和田:長距離のレースだと、まず目標タイムを設定してそれに向けてどうレースを組み立てるか、設計図を考えます。でも、レースになるとそこに駆け引きがあるので、なかなか設計図通りに走るのは難しい。そこが見所で、選手の自己記録などのデータと照らし合わせながら、今ってオーバーペースで走っているんじゃないかな?とか、この場面苦しいんじゃないかな?ってその心理を想像して。

田中:水面下の戦いみたいな。

和田:選手の本当の実力を知りたければ、自己ベストよりも実はセカンドベストタイムを見てみるのがいいと思います。あとは大きな大会で実績を残しているかどうか。ただ自己ベストが速いだけのタイム番長もいますから。それはノープレッシャーで走っているからで、本当に強い人は大会でも強い。ペースを上げたり下げたりとレースを動かす人がいて、蓋を開けてみないとレース展開がわからないから、僕らはドキドキしながら見ているんですね。選手たちの攻防、駆け引きがわかってくると、かなりおもしろいですよ。駆け引きは重要で、走っている時のサングラスは、自分の表情を他の人に読まれないようにするのも、付けている理由だったりもします。

田中:かなり心理戦なんですね!

和田:集団の中での同じポジションでも、例えば先頭集団の後ろにいる選手の場合、余裕がなくついているだけなのか、それとも、様子を伺いながらその位置にいるのかで意味が全然違う。だから解説などを聞きながら観て、その見方がわかってくるとレースはもっと魅力的になりますよ。

パリ五輪に向けた戦いがすでに始まっている

和田:昔はそれぞれのレースで、終盤に坂があったり、下り坂が長かったりとコースの特色があったんですが。ここ数年は、記録至上主義の傾向があって、平坦で坂やカーブが少ないコースが多いです。実際ベルリンマラソンも、高橋尚子さんが記録を出したときから、1つか2つカーブが減っていたりするんです。それゆえに、記録を出せて然るべきコースになっているし、レース中の劇的なドラマが少なくなった気がしますね。だから前回のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)は久しぶりに胸が熱くなりました! ラスト10kmだけじゃなく、スタートからすでにワクワクする展開でした。

田中:確かに2019年のMGCは、かなり盛り上がっていましたね。

和田:東京五輪が終わったばかりかと思いきや、もう次のパリ五輪に向けての戦いは始まっていますよね。来年秋のMGCに出場するための条件は細かく決まっていて、国内の指定大会で着順とタイムを残すことだけでなく、2レースの平均タイムでも出場できるので、記録重視で選考に臨む選手もいる。今年の秋の海外マラソンにも多くの日本人が出場予定なので、楽しみにしています。五輪の選考は、フロックではなく、本当に実力がある選手が通るようなシステムになりましたね。

田中:五輪選手を決めるMGCは、不正や不平等がないルールが決められているんですね。

和田:パリ五輪に誰が選ばれるのか。今から情報を追いかけておくと、MGCも本番のレースも観戦するのが何倍もおもしろくなりますよ。

和田悟志(わだ・さとし)

1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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