fbpx
せっかく、おいしいと言われるコーヒー豆を手に入れても、それを上手に淹れることができているか疑問に感じている読者の方も多いだろう。どうも昨今は、プロのバリスタが増え、情報技術が発達したことから、コーヒーの淹れ方にも数値管理が進んでいるようだ。それならわたしたち一般のコーヒー愛好家もお手本にできるところがあるかもしれない。早速、美味しいハンドドリップコーヒーの代名詞〈ブルーボトルコーヒー〉を訪ねた。

“美味しいコーヒーと世界をつなぐ”をヴィジョンに掲げる〈ブルーボトルコーヒー〉。カウンターで、バリスタがハンドドリップで淹れるコーヒーは、香り高く、味わい深い。2015年2月に東京・清澄白河に国内1号店がオープンして以来、多くの日本のコーヒーファンを魅了し続けている“おいしさ”の裏にはいくつかの“数字”が隠されている。

〈ブルーボトルコーヒー〉では、グリーンビーンバイヤー(生豆のバイヤー)が季節ごとに旬のコーヒーを吟味し、世界中から厳選された高品質のコーヒー豆の買い付けを行なっている。そして、そのコーヒー豆が持つ個性を最大限に引き出すべく、コーヒー豆の種類に応じたレシピを使用して自社のロースタリー(日本国内と香港のブルーボトルコーヒーで提供されるコーヒー豆の焙煎は東京都・江東区にある北砂ファクトリーで行われている)で焙煎している。豆によって焙煎時間や熱のかけ方が異なり、それがレシピとして共有されているのだ。

焙煎直後のコーヒー豆はガスが発生するため、コーヒー抽出の観点からガス抜きのために数日寝かされる。そして焙煎後は、コーヒー豆の種類ごとに測定したピークフレーバー期間(おいしさが最も際立つ期間内)に提供できるように管理されている。

もちろん管理される数字は焙煎する時間と温度、ピークフレーバー期間だけにとどまらない。〈ブルーボトルコーヒー〉の味に一貫性を持たせ、世界のどこのカフェでも同じ味と香りが楽しめるよう、テクノロジーが活用されている。

〈ブルーボトルコーヒー〉流ホットコーヒーの淹れ方

コーヒースケールは〈ブルーボトルコーヒー〉に欠かせないアイテムだ。〈ブルーボトルコーヒー〉でバリスタの淹れるコーヒーを味わったことがある人なら、ドリップコーヒーが注がれるカラフェの下にある四角い台のようなものをおそらく目にしたことがあるだろう。あの台のようなものが、時間と重さを同時に計測できるコーヒースケールで、文字通りコーヒーの味を支えている。

ハンドドリップでは、湯の注ぎ方が味に大きく影響する。そのため、コーヒーごとに、粉の量、湯量、注湯の時間と回数がレシピ化されている。そして感覚だけに頼らず、バリスタがコーヒースケールに表示される数字を確認しながらコーヒーを淹れるので、いつでも最高の味と香りが楽しめる。科学的な裏付けのあるおいしさとも言えるかもしれない。

レシピはコーヒーによって異なるものだが、参考としての数字を教えてもらった。〈ブルーボトルコーヒー〉のコーヒーは注ぐお湯の量が350mℓ、コーヒーの粉が水分を吸収するので出来上がりの量が310㎖ほどになる。コーヒーの粉の量はブレンドなら28〜30g、シングルオリジンなら23〜25gを使用する。抽出に使用するお湯の温度は93℃。水を沸騰させ、一度湯通しをしたケトルに湯を移すと、93℃前後になるとのことなので、家庭で再現する場合は参考にしてほしい。

フィルターをドリッパーにセットし、コーヒーの粉を入れたら、湯は4回に分けて注ぐ。1回目に注ぐ湯は40〜60㎖。外側から中心に向かって螺旋を描くように、そして粉全体に湯が浸透するように約10秒かけて注ぐ。注ぎ終わったら30秒時間を置き、2回目に。10秒で注いで、30秒あけるというリズムを基本として、3回、4回と残りの湯を注いでいく。そして時間としては、およそ3分をかけて一杯のコーヒーをドリップしているということになる。この湯量と時間をコントロールするのに、コーヒースケールを活用しているのだ。

アイスコーヒーは水出しを提供

〈ブルーボトルコーヒー〉ではコールドブリュー、つまり水出しのアイスコーヒーを提供している。水出しコーヒーは、熱湯で抽出したコーヒーと比べると角がなく、コクがある。そして、滑らかな口当たりとクリアな後味が特徴だ。抽出時間はおよそ16時間ほど。その後は高性能なフィルターでしっかりと濾過する。当然、熱湯で抽出するよりも時間がかかるのだが、飲み比べれば味わいはかなり違う。

〈ブルーボトルコーヒー〉では自宅で気軽にコールドブリューを楽しめるよう、コールドブリューボトルの販売を行なっている。そのボトルを使った水出しアイスコーヒーの作り方も簡単に紹介しておこう。

用意するのはコールドブリューボトルと、コーヒー豆(55g)と水(650㎖)。豆を中細挽き(グラニュー糖程度のサイズ)にグラインドし、ストレーナーにコーヒー粉を入れる。ストレーナーをボトルにセットしたら、水をいれて栓をしてボトルをゆっくりと左右に揺らしてコーヒーと水をなじませる。冷蔵庫で8時間抽出したら完成だ。

もちろん抽出時間が長くなり過ぎれば苦味や酸味、さらには雑味が増す原因になるので注意したい。

コーヒーの濃度も計測している

味の管理のために、〈ブルーボトルコーヒー〉では、コーヒーの濃度を計測するリフレクトメーターも活用している。光の屈折率から水中にどれだけコーヒーの成分が溶けているかが分かるものだ。

コーヒー豆は焙煎してからの日数などでも感じる風味が変わる。使用する湯量や温度、粉の量によって抽出されるコーヒーの味わいは変化するが、ブルーボトルコーヒーではどれほどの粒度で豆を挽くかは、バリスタがその日の朝に決めている。粒度が大きい粗挽きであれば、濃度は薄くなり、味は軽くなることが多い。逆に粒度が小さい細挽きであれば、濃度は濃くなり、深い味わいになる。豆の状態を見て、味に一貫性を持たせるべく粒度をコントロールしているのだ。

バリスタは毎朝実際にコーヒーを入れて、粒度を確定する。その際に、〈ブルーボトルコーヒー〉が理想とする味のコーヒーとなったのかを、味だけでなく、濃度計の数値も確認にして参考にしている。一流のバリスタであっても、毎日体調が一定というわけではない。バリスタの味覚、嗅覚だけでなく、濃度という判断材料を加えることで、美味しいコーヒーが保たれる。数字の裏付けを重要視する姿勢からも、〈ブルーボトルコーヒー〉が味の一貫性を大切にしていることがよくわかる。

有田焼のオリジナルドリッパー

味に一貫性を持たせるための工夫は、ドリッパーにもある。〈ブルーボトルコーヒー〉のドリッパーは、日本製。佐賀県にある有田焼の窯元、久保田稔製陶所 久右ヱ門で製造されている。構想5年、4人の物理学者が研究を重ね、70パターンに及ぶプロトタイプの製作を経て、この形にたどり着いた。

ドリッパーの内側には抽出口に向かって40本の突起したラインが引かれ、抽出口の穴は1つに設定されている。この構造によって、遅すぎず、速すぎず、一定の流れでコーヒーが抽出できるようになっているという。最もおいしいドリップコーヒーを淹れるための理想の流れを実現するために、ドリッパーも自社で開発しているのだ。

製品の厚みを薄くして軽くできること、熱伝導が良いこと、そして繊細な構造の製品を同品質で作り上げる技術があることから、有田焼でドリッパーを作ることになったそうだ。コーヒーの抽出時には湯の温度を下げずにドリップする必要があるため、有田焼はドリッパーに適しているのだという。

〈ブルーボトルコーヒー〉では、ドリッパーだけでなくペーパーフィルターも独自に開発している。ドリッパーの形状に合わせたウェーブ状になっており、フィルターを折る手間が不要になっている。また竹パルプの配合率も、試行錯誤を重ねて、最終的に10%となった。ペーパーフィルターを通してコーヒーを抽出する以上、少なからずペーパーフィルターの質はコーヒーの味に影響する。コーヒー本来の味わいが十分に引き出されるように、テストが繰り返されたのだ。

ドリッパーとペーパーフィルターを独自で開発したことで「ドリッパーを温める」「ペーパーフィルターをドリッパーに定着させる」「フィルター特有の香りをとる」といった目的で行う湯通しが不要になった。その分、注文から提供までの時間も短縮されているということになる。

ドリップコーヒーは、コーヒー豆の状態、抽出のレシピ、バリスタの技術などによって決まる。しかし、〈ブルーボトルコーヒー〉では、自分たちが理想とする味の再現性を高め、一貫して、いつでも、どのカフェでも、提供できるようバリスタのスキルに加えて数字とテクノロジーによって管理している。故に、変わらぬ「おいしい!」を味わえるのだ。

普段、ハンドドリップでなんとなく淹れているコーヒーも、湯の温度や、注ぐ湯量と時間、そして豆を挽く際の粒度に気を遣うと、味や香りがガラリと変わるはず。たとえばランナーが、トレーニングでペースや距離、心拍数といったデータを参考にするように、試行錯誤をして自分好みのおいしさを探すのも楽しい作業だろう。

Blue Bottle Coffee
https://bluebottlecoffee.jp/