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食料危機や地球温暖化の観点からも大きな社会課題になっているフードロス。食べられるのに廃棄されてしまう食料を有効活用するビジネスが広がってきている。

フードロス大国、日本

世界では開発途上国を中心に約8億人(9人に1人)が飢餓状態に陥っているというのに、1年間に生産される食料約44億トンに対し、その1/3に近い約13億トンが廃棄されている。もし廃棄される食料の1/4でも有効に活用できれば、世界の飢餓人口を十分に養うことができるといわれている。フードロスは、食料が余って捨ててしまう先進国特有の問題と思われるかもしれないが、一方で開発途上国では、技術不足や人手不足で収穫できない、流通環境や保存設備などインフラが整っていないため市場に出回る前に傷んでしまうなど、先進国とは別の理由でフードロスが生じている。

先進国のなかでもとりわけ食料自給率が低い日本(38%)は、食料の多くを輸入に頼っているにも関わらず、残念ながら世界有数のフードロス大国でもある。数字にすると年間のフードロスは522万トン(2020年)で、これを1人当たりに換算すると年間約41kg。日本人一人一人が毎日茶碗1杯のごはんを捨てている計算になる。

なぜこれだけのフードロスが生じるのか。賞味期限切れが近い、規格外やキズ、パッケージの変更、メーカーへ返品された……など、廃棄される理由はさまざまだが、そもそも生ものを好む日本人は、食に求める品質のボーダーラインが非常に高いという事情がある。それゆれに食品流通業界は独自の「3分の1ルール(サプライチェーンにおいて製造日から賞味期限までの期間を3等分して1/3の日数経過以内で小売店に納品するという慣例)」に縛られていたり、パッケージの汚れや変更だけで販売しないといった厳しい品質・流通管理がなされていたり、さまざまな背景がフードロスを引き起こしているようだ。

日本のフードロス削減事業のパイオニア


人口増加による食料危機や地球温暖化といった課題に対応する意味でも、フードロス削減は世界的な社会課題になっており、すでに欧米諸国では廃棄処分の対象となった食品だけを扱うスーパーマーケットや廃棄予定の食品を活用するレストランが誕生するなど、フードロスをビジネスに転換する動きが高まっている。日本では、フードロス削減を目指すソーシャルグッドマーケット〈Kuradashi〉が2015年にスタートした。現在の会員数は39万人、1ヶ月数万人単位で会員が増えているというECサイトだ。

こちらのECサイトでは、まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう可能性のある商品をリーズナブルに扱っており、買い物を通じてフードロス削減に賛同するメーカー、生産者と消費者をつないでいる。
「創業者の関藤竜也が総合商社に勤めていたころ、高度経済成長時代まっただなかの中国に駐在し、食品の大量廃棄を目の当たりにしました。『こんなことを続けていては、いつか世界は大変なことになる』と危機感を抱き、いろいろ調べてみると日本でも大量のフードロスが生じていた。そこで、フードロス削減を目的としたECサイトを立ち上げたのです」(取締役執行役員CEO・河村晃平さん)

フードロス削減×気軽な社会貢献

〈Kuradashi〉が画期的なのは、フードロス削減を目指すだけでなく、ショッピングがそのまま社会貢献につながる制度を作り上げた点だ。購入者は、環境保護や災害支援、動物保護など、多岐に渡る社会貢献団体から応援したい団体に売上の一部を寄付できる。ソーシャルグッドなアクションを起こす企業、団体はたくさんあるけれど、経済性を担保できなければそもそもビジネスを持続できない。その点、〈Kuradashi〉は、初めから社会性、環境性、経済性がリンクし合い、スムーズに循環させる仕組みづくりを目指した。消費者にとってはいつもの食材やちょっと贅沢な食材をお得に購入でき、かつ社会貢献できる利点があり、生産者にとってはコストをかけて廃棄していた商品が廃棄を免れるというメリットがある。

「〈Kuradashi〉が掲げるメッセージは『楽しいお買い物でみんなトクする』ですが、この『トク』は、みんなにとっての『得(=メリット)』と『徳(=社会貢献性)』というダブルミーニングになっています。かつては、メーカーにとっては処分=『捨てる』という選択肢しかありませんでした。捨てることにより、価格破壊を起こさずにブランド価値を維持してきたのです。けれども時代は変わり、現代は『モノを捨てる=環境に配慮していない企業』と見なされ、ブランド価値が損なわれてしまいます。ならば、メーカーにとっても捨てずに有効活用したほうがメリットがあるのです」

独自基金を設け、生産現場も支援

創業から2022年9月末までの〈Kuradashi〉によるフードロス削減による効果はといえば、フードロス削減量が12,605トン、これによるCO2削減量が33,417トン、〈Kuradashi〉支援総額は、なんと85,660,355円!支援先の一つである〈クラダシ基金〉の活動もユニークだ。〈クラダシ基金〉は地域活性化と社会発展のための社会貢献活動を自らが行うために設けた基金で、地方創生事業やフードバンク支援、SDGs教育事業などに充てられている。

「〈クラダシ基金〉の活動には、たとえば社会貢献型インターンシップ〈クラダシチャレンジ〉があります。これは高齢化や人口減少などにより人材不足に陥った地方の生産者のもとに学生が訪れ、収穫のお手伝いをしてもらうというもの。学生の旅費や宿泊費は基金が支援します。学生が収穫の担い手となることで、これまで収穫できないでいた農産物を〈Kuradashi〉で販売できるようになり、フードロス削減に貢献できるばかりか、生産者にとっては売上に、学生にとっては現場でのSDGs教育体験となります。また、売上の一部をクラダシ基金に還元していただくので、“三方良し”のサーキュラーエコノミーとして循環しています。クラダシが連携協定を締結している自治体で実施していますが、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地で〈クラダシチャレンジ〉を実施しています。

全国に140数ヶ所あるフードバンクを支援すべく、〈クラダシ基金〉が食品提供メーカーとフードバンクのハブとなる活動も行っています。メーカーとしては食の安全性や安定性という観点から、フードバンクへ安易に食品を提供できないと事情がありました。そこで〈クラダシ基金〉が安全な管理・配送を担い、特定の団体に寄付が偏りすぎないよう調整するなどしてフードバンクの課題解決に取り組んでいます」(広報・齊藤友香さん)

事業規模=社会貢献度、だからやりがいになる

一般的な資本主義では、経済活動を通じて利益を出すことで会社を大きくすることが重視され、社会にどれだけポジティブなインパクトを与えられるかは考慮されていなかった。「〈Kuradashi〉の場合は事業が大きくなるほど社会貢献度が大きくなる。ビジネス規模と社会貢献度がイコールだからこそ社員のやりがいにつながるし、多くの人を巻き込むことができる」と河村さん。これが“新・資本主義”ともいえる、これからのビジネスのあり方になるのかもしれない。
「クライアントからは、『これまで廃棄という選択肢しかなかったからこそ、Kuradashiは画期的なサービスだ』というコメントもいただけています。利用者からは『意義のある取り組みだから応援したい』というメッセージをいただきます。そういう声が私たちのモチベーションになっています」(河村さん)

「もうひとつ特徴的なのは、自分がどこにどれだけ寄付したか、社会への貢献度合いを視覚化した〈Kuradashi〉のユーザーのマイページです。1ヶ月に何回も利用いただいているヘビーユーザーもいらっしゃいますが、こうしたことも利用者の達成感やモチベーションにもなっているようです」(齊藤さん)

おいしい季節の到来だもの、〈Kuradashi〉を活用して、おいしく、楽しくフードロス削減に取り組んでみよう。齊藤さんのおすすめは「クラダシチャレンジ」で収穫した各地の名産。収穫を手伝った学生のメッセージつきというのも微笑ましい。また、パッケージ変更やエチケットのキズで出品されているワインなど、アルコール類もかなりお得。そうやってショッピングをするうち、いつしかどっぷり、〈Kuradashi〉にハマっているはずだ。もちろん、家庭でできるフードロス削減もお忘れなく。買いすぎない、作りすぎない、もったいないを意識しながら、秋の味覚を満喫して。