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BIAは200あまりの項目(※)からなるアセスメント(評価)で、各項目に回答して自己採点し、トータルスコアが200点満点中80点を超えれば認証機関である〈B Lab〉に提出することができる。「ガバナンス・従業員・環境・コミュニティ・顧客」という5つの分野からなり各アセスメントに回答することで、それぞれの分野で自分の会社が社会に対してどれだけのインパクトを与えているかを計測できる。それだけでなく、〈B Corp〉の核心が見えてきそうだ。
(※) アセスメントの項目数や内容はその企業の形態や規模によって異なる。また回答の選択によって後の質問内容が変わるなど、その企業に一番合ったアセスメントになっている。

5つの分野のなかで、比較的想像しやすい項目がならぶ「従業員」。

「サスティナブルな企業というと環境問題に対する取り組みばかりに目がいきがちですが、〈B Corp〉では企業にとって最も身近な従業員の存在を蔑ろにしてはいけないと考えており、BIAのオンラインのツール上ではこの分野が2番目に表記されています」

従業員にとってメリットの多いアセスメント

「従業員」では、たとえばこんな項目が並ぶ。

・従業員の50%以上の給与体系(固定給/日給/時給)
・ボーナスは創業者と役員をのぞくフルタイムおよびパートタイムの従業員の何%に与えられたか
・利益の何%がボーナスとして従業員に支払われたか
・従業員の退職金プラン
・従業員に対する健康とウェルネスに関するイニシアティブやポリシー(従業員の、勤務日に健康増進活動への参加を支援している/健康リスクアセスメントを実施/従業員は健康に関するカウンセリングサービスや従業員支援プログラムを利用できる、など)
・従業員のキャリア開発(外部教育受講の予算がある/継続教育に対して学費償還や派遣制度がある、など)
・過去一年で昇進した従業員の割合
・第二の親(父親など)の休暇ポリシー
・従業員満足度とエンゲージメントについての指標(離職率を算出している/定期的に従業員満足度やエンゲージメント調査を行っている、など)
・有給日数
など

従業員にとってよりよい会社となるための指標が並ぶ「従業員」のアセスメント。ウェルネス、教育プログラム、パフォーマンス評価など従業員にとってメリットのあるアセスメントにより、〈B Corp〉を取得するとどんなメリットがあるのかを従業員に打ち出すことができる。〈B Corp〉取得にむけて彼らの共感を得られやすくなり、団結して取り組むことができそうだ。

「〈B Corp〉は透明性を貫くという理念にもとづいて全ての企業のBIA得点や得点分布を明らかにしていますが、日本で取得した企業の得点を見てみると、点数の開きが少ない分野が『従業員』です。『従業員』分野のアセスメントは取引先やサプライチェーンを巻き込まずに社内の仕組みを整えることでアップデートできるものが多く、従業員の共感を得られるという点でも比較的取り組みやすいようです」

〈B Corp〉らしいアセスメントというと、従業員のエンゲージメントとして「従業員の声を集める公式な意見箱のメカニズムが存在する」というものがある。

「ただ意見箱が存在するかだけでなく、『従業員の意見を反映して改善を行ったかどうかの割合をトラッキングしている』という項目もあります。私のクライアントで認証取得プロセスにおいて目安箱を設置したある企業は、『目安箱の存在によって社内の意見交換が活発になり、言いたいことを言いあえるようなムードが醸成された』と述べています。目安箱を設置する会社は少なくないと思いますが、意見を集めるだけで改善にまで至らないことが多いようです。実際に改善に至るまでのプロセスに得点を付与するというのが、〈B Corp〉らしさを反映していると感じました」

2021年に〈B Corp〉認証を取得した〈エコリング〉の場合

2021年に〈B Corp〉認証を取得した〈エコリング〉は、国内のリユースビジネスのパイオニア。リユースを促すことは「廃棄を減らすとともに資源を有効に活用することになり、環境負荷の削減に貢献する」として、将来的にはリユースのインフラとなることを目指している。そんな〈エコリング〉が、「社会問題解決型組織を目指す」として〈B Corp〉認証取得に取り組み始めたのは2018年夏のことだ。社内で発足した〈B Corp〉プロジェクトのメンバーとして制度改革にあたったのが、コンプライアンス部に所属する村上洋子さんだ。

「トップダウンで取得認証を目指す企業が多いと思いますが、私たちの場合はボトムアップで制度が整っていったことが他社との違いだと思います。従業員の『こうなりたい、ああしたい』という声を吸い上げた結果、〈B Corp〉認証を取得できたのですが、その役割を担ったのが〈B Corp〉プロジェクトでした」

〈B Corp〉プロジェクトは役割や立場の異なる6〜7つのチームから成り、それぞれが異なる課題解決を担って活動している。たとえば、女性サスティナビリティ推進チームは男性の育休や生理休暇を取得しやすい環境を整える、女性社員が妊活・不妊治療に取り組める社風作りなどに取り組んでいる。

「社内にはもともと、目安箱や『社員満足度向上委員会』など、従業員が声をあげやすい仕組みがありました。けれどもBIAへの取り組みを通して、会社の利益をしっかり従業員に還元する、有給休暇の日数を増やす、子どもが小学校を卒業するまで(子どもが6歳になるまで認められていた)時短勤務を選択できる、というように、従業員を大切にするという姿勢がより明確になったと思います」

そもそも〈エコリング〉が〈B Corp〉認証を目指した理由の一つに、これを通して社内のガバナンスや就業規則を整えることがあったというが、BIAの項目を一つ一つクリアにすることで社内制度が整い、従業員にとって働きやすい環境をつくることができたという。こうした社内に受けた取り組みに加え、BIAへ回答するプロセスを通じて人権問題への意識も芽生えているそう。「諸外国に比べ、認識が甘かった」というが、今後は多国籍化や障害者雇用など人権やダイバーシティに配慮した取り組みを積極的に行い、社会によりよいインパクトを与えたいと考えている。

日本で馴染みの薄い概念から、グローバルな視点を学ぼう

その一方で、世界80カ国に広まっている認証ということもあり、従業員のオーナーシップ、生活賃金、従業員ハンドブックなど、日本にはなじみの薄い言葉や概念も並ぶ。全ての国、業界、規模に十分にカスタマイズされているわけではないのだ。

「国によって制度自体がない場合は『該当なし』という答えも用意されていますし、加点の調整も行われます。〈B Lab〉も、BIAは完璧ではないと公言していて、世界の情勢にあわせてアセスメントをアップデートし続けています。一方、日本では算定されていない生活賃金(その地域で労働者が不自由なく暮らせる生活費から算出される賃金水準で、最低賃金とは異なる)については、国連とILOはこれを基本的人権であると宣言しています。日本ではBIA上では『該当なし』を選択できますが、よりよい会社を目指す上で生活賃金を考えるきっかけとするのもよさそうです」

BIAは認証取得のプロセスというだけでなく、教育ツールとしても活用できるし、スタートアップ企業であれば会社のフレームワークを作る際の指標にもなる。従業員と経営者とのコミュニケーションツールとすれば一体感を得られ、課題に対する認識を共有する効果もありそうだ。BIAはオンライン上で気軽に閲覧できる。まずは無料のアカウントを作るところから始めてみよう。