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気候変動、人権問題、ダイバーシティとインクルージョン、コロナ禍が促した新しい働き方。さまざまな社会課題に直面して、企業はその価値を問われている。そんな中、これからの時代の新たなベンチマークになり得ると言われているのが、いま最もクールだといわれる企業認証制度 〈B Corp(B Corporation)〉だ。

〈B Corp〉が目指す新しい経済システム

〈Patagonia〉、アイスクリームの〈Ben & Jerry’s〉、ヨーグルトの〈DANONE〉、スニーカーの〈ALLBIRDS〉、化粧品の〈THE BODY SHOP〉。さて、これらの企業に共通することはなんだろう?

正解は、いずれも〈B Corp〉を取得していること。2007年にアメリカで誕生した〈B Corp〉は、企業の利益を否定せず、同時に社会や環境にとってもよりよいインパクトをもたらす新しい経済システムを築いていこうという概念を広めるためにスタートした。この制度が目指すのは、経営陣や株主、従業員の利益だけではなく、取引先、顧客、地球環境、地域コミュニティなど、企業を取り巻くあらゆる関係者にとって利益をもたらす企業=Benefit Corporationになること。政府や自治体だけでは解決できない社会課題を、民間企業を巻き込んでともに解決しようという姿勢は、これからの時代を担うポスト資本主義の最右翼といえるだろう。

“認証制度”の先にある役割

〈B Corp〉はただの認証制度ではない。世界全体で取り組むべき社会課題に対し、同じ理念をもつ企業が連帯して取り組むプラットフォームとしても機能しており、その点も画期的だ。過去をさかのぼると、気候変動枠組条約の制定に際しては国境や業種の違いを超えて取得企業同士が連携してイニシアチブをとったという経緯があったし、BLM運動(注1)は、〈B Corp〉の認証機関である非営利団体〈B Lab〉(注2)がアンチレイシズムのキャンペーンを行い、認証企業がBLMへの連帯を表明したこともあった。

(注1)ブラック・ライブズ・マター(英: Black Lives Matter、略称「BLM」)は、アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発した、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動の総称。
(注2)〈B Lab〉は2006年に発足したアメリカ・ペンシルバニア州に本拠を置く非営利団体。

2022年11月現在、〈B Corp〉の認証を取得している企業は世界80カ国で6000社近くにも及ぶ。日本の企業で取得しているのは、化粧品の〈mayunoWa〉、社会貢献型ショッピングサイト運営の〈Kuradashi〉、アパレルの〈CFCL〉、リサイクルショップの〈エコリング〉など15社。まだまだ数は少ないけれど、現在認証待ちという企業も多数あり、今後 1、2年で20〜30社の増加が見込まれている。

日本で取得が進まないワケ

日本の企業が初めて認証を取得したのは2016年だが、取得企業がなかなか増えなかった理由は、認証を取得するのに必要なBIA(B Impact Assessment)というプロセスの難しさにあった。まず、認証に必要なアセスメントへの回答およびその後のプロセスの全てが英語でのやりとりとなること。BIAで回答した内容を裏付ける証拠としてドキュメントの提出が求められるが、その手配に労力や時間がかかること。これだけの労力がかかわるわりに、そもそも日本での知名度が低かったこと。

ところが、2020年を境にアセスメントを提出する企業が急増しているという。その背景を、〈B Corp〉取得支援専門のコンサルタント、岡望美さんに解説していただこう。

「2020年、コロナ禍をきっかけに気候変動に対する認識やコンセンサスが一気に高まりました。さらにBLM運動を発端に、人々は世界的な人種差別を明確に認識するようになりました。こうしたでき事が2020年に集中し、長年の社会課題に対して抱いていた、『なにかアクションをおこさなくては』という気持ちの積み重ねが爆発したといえます。また、多くの人が働き方や生き方のマインドシフトを経験し、一部の企業はこれまでの事業経営のありかたを省みるようになりました。その一方で、サスティナブルマーケティングが盛んに行われる中で、一部の企業のグリーンウォッシュ(注3)も明らかになりました。こうしたことから、よりよい社会を目指す企業というベンチマークとして、〈B Corp〉に注目が集まるようになったのだと思います」

(注3)企業やその商品・サービスなどが、実態を伴わないのに、あたかも環境に配慮した取り組みをしているように見せること。具体的には、企業が広告宣伝や環境報告書などで、根拠を示さずに「環境にやさしい」「エコ」などという表現を使ったり、森林や海洋などのイメージ写真を使用するなど。あるいは環境に悪影響のある企業活動には触れず、環境に配慮した一部の取り組みを強調するなど、環境対応の実態を正しく伝えず消費者に誤解を与えるようなコミュニケーション活動に対し、環境NGOなどが1990年頃から批判的にグリーン・ウォッシュと呼ぶようになった。

どんな規模でも、業種でも

企業の規模や売上、業種にかかわらず、全ての企業が申請可能だが(大麻産業や刑務所労働ビジネス、オフショアでの金融ビジネスなど、社会や環境に大きな懸念をもたらす企業については個別に要件を設けている)、日本で取得済み、および取得過程にあるのは中小企業やスタートアップが多いようだ。〈B Corp〉のメリットはというと、認証によって取引先の信頼を得られやすく、ビジネスチャンスを広げられること。また、ESG投資(注4)の広がりもあって〈B Corp〉を指標に投資を行う機関投資家も増えており、資金が集まりやすいこと。さらに優秀な人材を集めやすいこと、世界をリードする大きな流れに乗れること……とさまざまだが、いずれもスタートアップにとっては魅力的だ。

「中には、会社を立ち上げるときにBIAの項目をベースに就業規則やカンパニーポリシーを整備するというスタートアップも。一方で大企業からも高い注目を集めています。内規を見直すなどのプロセスを考えると、多くの株主や従業員を抱える大企業にとってはハードルが高いのかもしれませんが、関連子会社から着手するという企業もあります」

(注4)ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資のことを指す。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されている。

「三方よし」をグローバルにアップデート

SDGsやESGの考えに通じると言われるのが、「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「三方よし」という、日本ならではの経営理念だ。株主利益偏重の欧米諸国と違い、「三方よし」が息づく日本はもともと、ESG的ビジネスを行いやすい下地があるといえるだろう。

「とはいえ、こういうビジネスをステークホルダーに認めてもらい、投資家から資金を集めるためには、なにかお墨付きがあったほうがよさそうです。また、『三方よし』といいながらも実質は何も行っていない、もしくは外部にはそうした取り組みが見えないという企業もあると思います。『三方よし』の内容を明文化してグローバルに打ち出し、企業価値をあげて得られた利益を環境や社会に還元する……〈B Corp〉がそうした役割を担うといえそうです」

2022年6月に日本語版の『The B Corp Handbook』(バリューブックス社)が発刊されたこともあり、今後、日本でも爆発的に広まっていきそうな〈B Corp〉。世界中で認証申請が相次ぐ現在、回答を見てもらえるまでに半年程度かかるというから、取得を考える場合は早めにアクションを起こしたほうがよさそうだ。

とはいえ認証取得までいかずとも、〈B Corp〉の概念を取り入れるだけでも大きなメリットがありそうだ。

「BIAへの回答は、それをそのままサスティナブルレポートとして公開できるほど充実した内容になります。回答することで、『これまでになかったグローバルな視点を得られた』、『いまの社会に必要とされる基準と自社に足りないところが明らかになった』というフィードバックもありました。BIAに回答することは自分たちの企業活動を見つめ直すことであり、それによりさらに成長することができるのです」

〈B Corp〉に参画することは、しばしば“旅”に例えられる。認証取得はゴールではない、むしろこれはスタートだ。同志たちと互いを高め合い、手を携えて社会にポジティブなインパクトをもたらすムーブメントを牽引し続ける。そんな、わくわくするような長い旅の始まりなのである。

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