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日本の森林面積は約2508万ヘクタール。これは国土面積3780万ヘクタールのおよそ2/3にあたる。国土における森林率は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中ではフィンランドに次ぐ2番目。世界有数の森林国といえるのだが、林業の担い手は少なく、抱えている課題は多い。森林資源を活用しながら、豊かな森を次世代に受け渡すためには何が必要なのだろうか。

日本の林業

森林は大きく天然林と人工林に分けられる。一言で説明するならば前者は自然の力で成立した森林、後者は人間の営為によって成立した森林だ。日本においては森林面積の約60%が天然林、約40%が人工林となっている。

1940年代〜1950年代、戦後の復興期に日本では木材需要が急増する。しかし、戦時中の乱伐による森林の荒廃により、供給が追いつかず、木材の高騰が続いた。加えて、森林荒廃を起因とする土石流の発生や河川の氾濫も頻発。その結果、木材の安定供給と国土保全を目的に、政府主導で造林が推進されることとなる。

戦後間もなく造林補助事業が公共事業に組み入れられ、1950年には造林臨時措置法(要造林地を指定するとともに、森林所有者が造林しない場合は第三者に造林を行わせることができることなどとされた)が制定される。1951年には森林法が改正され、森林計画制度が創設されるとともに、伐採規制が強化された。また、造林事業を対象とする長期低利融資制度も整備され、造林が後押しされた。

1950年代半ばには住宅建築がブームとなり、ますます木材需要が拡大する。その一方で、木炭や薪が中心だった家庭燃料はガスや石油に切り替わっていく。それまで里山の雑木林は薪や炭の供給源でもあったが、その需要がなくなったため、広葉樹が伐採された跡地には建築用材として需要が見込まれた針葉樹が植栽されていった。需要増加により木材価格が高騰していたため、造林は全国的に広がり、急速にスギやヒノキを主とする針葉樹の人工林が増えることになった。

しかし、1964年に木材輸入が全面自由化されると安価な輸入材の需要が高まっていく。そして、1973年の変動相場制への移行によって円高が進むと、輸入材との価格差が増し、日本の林業経営は苦しくなり、林業就業者は減少の一途を辿ることになる。1955年には90%以上あった木材の自給率が、近年は30%前後を推移。国土の大半が森林に覆われているにも関わらず、木材は輸入に頼っているというのが現状なのだ。

森林の機能と林業が抱える課題

木材輸入の自由化と外国産木材の需要増加により、造林が全国的に拡大していたにも関わらず林業は衰退していった。そして、林業は後継者不足、林業就業者の高齢化といった問題を抱えることになる。結果、日本の人工林は放置されて十分な手入れがなされず、荒廃が目立つようになってきているのだ。

森林には木材やキノコ・山菜などの林産物を産む生産機能や、二酸化炭素を吸収して炭素を固定することによる温室効果ガスの削減機能のほかに、河川氾濫の防止、土砂崩れの防止、海岸の風砂害や風雪害の抑制といった災害の抑制機能がある。しかし、荒廃した人工林は、台風や大雨などによって土砂災害が起こるリスクが高くなってしまう。

人間の手によって植栽された人工林は、人がその保全をサポートする必要がある。たとえば、数十年にわたって放置されたスギやヒノキの人工林では、暗くなった林床に光が届かず植物が生えなくなり、土壌が流出しやすくなるといったことが起こる。反対に、長年にわたって間伐や(森林の成長に応じて樹木の一部を伐採し、過密となった林内密度を調整する作業)枝打ち(樹木の下枝を切り払う作業)をきちんと行えば、さまざまな植物が林床に育ち、土壌・水分が十分に保たれた生物相の豊かな森林になっていく。

また、樹木のCO2吸収量は樹齢が若いほど多く、高齢になると次第に低下していく。森林によるCO2吸収量を減少させないためにも、人工林は伐採と植林のサイクルを回すことが望ましいのだ。

日本の人工林は1960年前後に植林されたものが多く、林齢50年を超えるものが約半分を占めている。造林が推進された頃に植えられた苗木が、今ようやく収穫期を迎えているのだ。かつてないほど充実している森林資源を有効活用するためにも、人工林の荒廃を食い止めるためにも、伐採を進めながら、新しい苗木を再植林して森林の若返りを進めるタイミングなのだが、人手不足や採算性が原因となり、循環は思うようには進んでいない。

日本には地形が急峻な山林が多いことに加え、林業が衰退してしまったことから、国産材を供給する基盤となる林業用路網の整備が遅れているという実情がある。また、日本の林業は8割が個人経営態という小規模な組織によって運営されており、個人所有の森林においては「自分の山がどこかわからない」「高齢のために現地立会いができない」などの理由から、所有者や境界が不明確な森林が増加していることも、放置林増加の原因となっている。問題解決のためには、林業経営の生産性・採算性の向上、林道の整備が不可欠と言えるだろう。

次世代へと繋ぐ

現在、スギの丸太価格は直径25cm×長さ4mで3000〜4000円程度。ピーク時に比べると1/3程度になっているという。仮に1本の木から4mの丸太が3本とれたとしても、1万円程度にしかならない。50〜60年という時間をかけて育てた木がこの価格では、持続可能なビジネスとしていくのは難しい。

この課題を解決するため、たとえば〈東京チェンソーズ〉は、自社で山を買って社有林を持ち、“1本丸ごと販売”という新しい形の木材販売をスタートした。枝や根株など、従来であれば、山に残置されていた素材にも目を向け、1本の木の価値を高めようとしている。また、所有する山を会員制のアウトドアフィールドとするなど、山自体を活用する仕組みも生み出している。

一方、大手企業の〈住友林業〉は、日本国内に木材バイオマスを利用する発電所や、国産材の安定供給や価格競争力のある国産材生産を目的とした木材コンビナート(予定)を建設し、国産材の利活用の促進をサポート。さらには、傾斜地で伐採・搬出重機をアシストする林業機械や、林業用苗木運搬ドローン、路網設計支援ソフトなどを共同開発することで、林業の効率化を図り、林業全体の活性化を促そうとしている。

また、2013年度からスタートしたJ-クレジット制度(国内クレジット制度とJ-VER制度を一本化し、経済産業省・環境省・農林水産省が運営)にも注目したい。省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度で、森林の持ち主の新たな収入源になることが期待されている。

日本の森林面積の約40%が人工林であり、人工林の保全には整備が欠かせない。そして、豊かな森林を次世代へと繋いでいくためには、木材資源を上手く活用しながら植林をするサイクルをスムーズに回していくことがカギになる。

ハイキング、トレイルランニング、釣り、キャンプ……。さまざまなアクティビティを楽しむ場所として訪れることが多い森林。その保全のためにも、日本の林業、木材にもう少し目を向けていきたい。