株式会社ゴールドウインはアパレル産業を取り巻くさまざまな環境問題の改善を目指し、2015年よりSpiber株式会社と構造タンパク質素材〈Brewed Protein™️繊維〉の共同開発に取り組んできた。
Spiber社はタイのラヨン県に量産プラントを建設し、〈Brewed Protein™️ポリマー〉の量産に成功。共同開発の開始から8年目にしてついに、5ブランド一斉の〈Brewed Protein™️繊維〉を使用したコレクション発表が実現した。
2019年に〈THE NORTH FACE〉から発売したTシャツ〈Planetary Equilibrium Tee〉が製品開発の第一弾となり、その後、同ブランドからアウトドアジャケットを発売。2020年11月には、オリジナルブランド〈Goldwin〉からニットウェア〈The Sweater〉を発売。そして、〈Goldwin 0〉から昨年秋にジャケットとフリース、今年3月にデニムジャケットとパンツが発売されている。これらはすべて、〈Brewed Protein™️繊維〉の生産量が限られていたため、抽選販売という数量限定の販売方法だった。
〈コレクション発表対象ブランド〉
THE NORTH FACE
Goldwin
nanamica
THE NORTH FACE PURPLE LABEL
WOOLRICH
〈THE NORTH FACE〉からは昨年デビュー30 周年を迎えた〈Nuptse Jacket〉、〈Goldwin〉からはオリジンであるスキーウエアをルーツにもつ〈Cross-Field 3L Jacket〉など、各ブランドのアイコニックな定番品の完成されたデザインを活かし、〈Brewed Protein™️繊維〉の採用で新たな価値を創出する。プロダクトラインナップは現在発表されているものから、発売に向けてアップデートされるとのこと。
また、量産実現とともに海外展開が決定している。〈Goldwin〉と〈nanamica〉は、海外直営店でも販売。また、〈THE NORTH FACE〉と〈WOOLRICH〉も、海外の事業者と連携し、グローバルでの販売を予定している。
東京国際フォーラムで行われたコレクション発表会にて
記念すべきコレクション発表会には、Spiber社の取締役兼代表執行役である関山和秀さんとゴールドウインの渡辺貴生社長が登壇し、プレゼンテーションが行われた。
Spiber取締役兼代表執行役 関山さんのプレゼンテーション内容を一部抜粋。
「『持続可能性』を考える上でキーワードになるのが 『循環』だと思っています。地球の生態系は、基本的には循環可能な素材でできていて、自分の命が終わった後に他の命の資源になるといった循環システムが存在しています。人間の産業も自然の生態系の一部ですから、地球のリソースをいかにうまく活用して循環可能な形にデザインできるかが重要になります。ただ、人間の身体がそうであるように、非常にたくさんの材料が複雑に組み合わさって機能を持ちます。つまり、多様に活用できる生分解マテリアルが増えれば増えるほど、モノづくりの選択肢を広げられるようになるということです。
そこで、キーになるのがタンパク質です。タンパク質というのは、非常に面白い分子です。一言でタンパク質といっても、このプラットフォームで無限のバリエーションの素材を作ることができます。2015年から、ゴールドウインさんと開発を進めてきて、糸が数百グラム作れたところから、ようやく大きな工場で産業スケールの量産を実現しました。こうしてスタートラインに立つことができたことを嬉しく思います。
実績として50t以上生産しており、これだけ大規模で構造タンパク質ポリマーを作り出した例はありません。現在80社以上の加工メーカーとサプライチェーンを構築して、アパレルブランドだけでなく様々な産業エリアでの活用を目指し、素材開発に取り組んでいます。
“持続可能性が高い”状態とは、地球の生態系に産業システムが一体的に組み込まれている状態です。そのために、生態系の多くを占めるタンパク質を使いこなすこととインフラを作ることが重要になります。その基盤が完成しつつあると思います。ゴールドウインさんをはじめ協力企業様のご支援のおかげで、社会の転換に自分たちが重要な機関を担えることを幸運に思います」
ゴールドウイン渡辺代表はプレゼンテーションのなかで、サステナビリティビジョンである〈PLAY EARTH 2030〉について触れた。
「今回のプロジェクトを契機に、環境負荷低減素材の導入をさらに加速させたいと考えております。2030年までに製品と材料の廃棄をゼロにするとともに、私たちが生産するすべてのプロダクトの90%が環境負荷低減素材を使って製造します。同時に、そのうちの10%を〈Brewed Protein™️〉に置き換えることを目標にしています。
中期的ビジョンとして、本来の地球の美しさを取り戻すプロジェクトを推進していきます。私たちが考える未来とは、宇宙にフィールドを移すのではなく、この地球をより良い状態へ進化させていくことにあります。適切なテクノロジーを用い、自然と文明が接続し、すべての営みが地球の自然なサイクルに回帰する社会へとデザインし直していくことを目指します」
Spiber との取り組みが世界の暮らしを大きく変革させるテクノロジーであることを信じているとし、今後も共同開発を加速させる方針を語った。
2023年9月より丸の内ビルディング内に 〈Brewed Protein™️繊維〉を使用した全製品を販売するPOP-UP STOREのオープンを予定している。