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2023年4月、日本で23番目の〈B Corp〉認証取得企業となったUMITO Partners(ウミトパートナーズ)。設立2年ほどの若い会社が、国内取得企業の中でも95.8という高得点を獲得した背景を伺うため、5月に移転したばかりの新しいオフィスを訪ねると、代表の村上春二さんと実際の認証作業を担った藤居料実さんが出迎えてくれた。 時折、博多弁の交じる村上さんの語り口ならきっと、顧客でありパートナーでもある日本各地の漁師さんの懐にもすっと入っていくだろう。「ウミとヒトが豊かな社会の実現」をビジョンに掲げ、「現場の漁師さんの伴走者」としてサステナブルな漁業のあり方を模索し続ける同社にとって〈B Corp〉認証はどのような意味を持つのか、じっくりと話を伺った。

現場の漁師さんたちは一番危機感をもっている

UMITO Partnersは、環境・経済・社会面で持続可能な漁業や地域を目指す漁師さんをサポートするプロフェッショナルチームだ。2名の海洋・水産科学博士で構成される科学・調査分析部と2名のプロジェクト開発&マネジメントチーム、2名の組織部の計6名の少数精鋭のスタッフが、全国各地の漁港に赴き、漁師と漁協の未来をともに考えるためのワークショップ(UMITO NARIWAIワークショップ)、資源状態に合わせた管理を科学的にサポートする漁業プロジェクト、飲食店を巻き込んだサステナブルシーフードイベント、MSC/ASC認証取得のためのコンサルティングなどを行っている。

「僕たちがビジョンとして掲げる『ウミとヒトが豊かな社会の実現』って世界平和レベルの大きな話ですけれど、言い換えると『海と漁業のサステナビリティを推進すること』が本当に実現したいところです。海は僕たちにとってすごく大切な存在ではあるけれども、そのことを日常では忘れがちだし、海イコール魚、資源と考えると、一番影響を与えているのは、消費者はもちろんですが、海から魚を獲っている漁師さんなんですよね。どこがレバレッジなのかを考えると、漁師さんたちがなりわいとしても持続可能になっていくというのがすごく大切だと思って、そこに焦点を当てた活動をしています」(村上さん)


UMITO Partners代表取締役 村上春二さん

markでも以前、「魚が消えてしまう前に、日本の海を正しく知る」でレポートした通り、日本の漁獲量も漁師さんの数も年々右肩下がりで、漁業を取り巻く状況は厳しい。

「現場の漁師さんたちは一番危機感をもっていると思います。魚が獲れなくなると自分たちの生活に直撃しますから。漁師さんたちは感覚的に魚が獲れなくなってきたというのがわかると思うんですけれど、単価が低いにもかかわらず減少した魚を、獲り続けてしまったら、資源量も減る一方です。でもそれを実際にサスティナブルな漁業にしましょうといっても、簡単にいってくれるなというところもあると思います。

僕たちは漁協から財務諸表などの資料をもらって、チームが数字を分析し、単価と漁獲量だけでなく、どれだけ海に魚がいるかの資源状態も目で見てわかるような資料にして漁業者や漁協の方に提示します。その上で、みんなで何をしていったらいいかを参加型のワークショップで一緒に考えたり、あとは考えたことを実際の行動に起こすためのサステナブル漁業プロジェクトを各地で行っています」(村上さん)

その一つの事例が、北海道苫前町という人口3000人くらいの小さな町で行われてきた、ミズダコの「樽流し漁業」のプロジェクトだ。縄張り意識の強いタコの特性を利用し、タコに似せた手作りの「いさり」と呼ばれるタコの擬似餌を樽からロープで吊るして海に流すと、自分の縄張りに侵入してきたと勘違いしたタコが威嚇のためにニセダコに抱きついてくる、それを樽ごと引き上げるというユニークな漁法だ。

「人口の2割くらいが漁業従事者のこの町では、漁業は地域経済の根幹ですが、漁師さんの数も少なくなっているし、タコも獲れなくなってきています。タコという資源を守りながら漁業を守っていくには、一番初期投資が少ないこの「樽流し漁業」を持続可能にすることが、この地域を良くすることにつながるということから『サステナブル漁業プロジェクト』が始まりました」


UMITO NARIWAIワークショップにて、地元漁師さんたちとのブレインストーミングの様子

村上さんは2年をかけ、現場に足を運び、理解者を増やしてこのプロジェクトを推進していったという。今では流通価値を上げるため漁業現場とシェフをつなぎ、品質改善のプロジェクトも実施。都内ではブラインドドンキーd47食堂でも苫前町のタコを味わうことができる。(8月末まで数量限定で提供予定)

会社設立に繋がる、自然との向き合い

村上さんの行動力、そしてサステナブルな漁業を広げたいという思いの根底には、幼少期からの自然との関わりがある。

「子供の頃は福岡の片田舎で裏山に猿がでるようなところに住んでいました。会社経営をしていた父はイノシシ猟と魚釣りが趣味で、例えば中学校に電話がかかってきて、帰ってこいと言われ、子ども心に喜んで早退すると、イノシシの解体作業を手伝わされるようなことが当たり前の日常でした(笑)」

高校を卒業した村上さんは、アメリカ・カリフォルニア州に留学し、ヒッチハイクでアメリカ横断したり、ヨーロッパやペルーをバックパックで旅したり、自然から多くの学びを得る。

「代々経営をしてきた家系だったので、お金を稼ぐことが人生の成功という文脈で育ってきたところがあったのですが、自然を旅するうちに、あれ、それって違うんじゃないかという気持ちになりました。人間社会は自然を破壊しながら経済活動をしていることが、すごく不合理で一方的だなと思って。この眼の前の自然をどうやったら残していけるかを考えたことから、ビジネスや地理学の勉強を始めたんです。21才のときでした」

帰国後はライターをしながらパタゴニア日本支社に勤務していたが、限られた24時間を使ってもっと環境にいいインパクトを与えたいと思い、国際環境非営利機関のWild Salmon Centerで野生鮭の保護を始める。その後、オーシャン・アウトカムズという漁業や養殖業のサステナビリティを支援する組織の日本支部長を経て、自分でも起業して、現在に至る。

「NGOで働いているとき、現場の漁師さんたちは会議に呼ばれないことがあったり、あまり重要視されていないことを実感したんです。政治や政策を変えようとする姿勢は大切ですが、でも実際に海を変えるには漁師さんの意識と行動が不可欠というところに立ち戻ったとき、漁師さんに寄り添う組織がどこにもなかったことから、それをやろうと思ったのが設立のきっかけでした」

こうして2021年6月にスタートしたUMITO Partnersは、それから2年足らずの2023年4月に〈B Corp〉認証を取得することとなった。

UMITO Partnersが〈B Corp〉認証を取得する意味

「〈B Corp〉認証はパタゴニアに勤務しているときに知り、会社を設立した当初から取得を考えていました。正直、〈B Corp〉以外の認証制度の選択肢は、僕の中にはなかったです。世の中は、お金の使い方、稼ぎ方で良くも悪くもなると思いますが、社会に対して、環境にいいことをしながら会社として事業できるということを表現し、発信できるというのが〈B Corp〉取得のメリットだと思っています」(村上さん)

会社設立の忙しさが落ち着いた半年後から、バックオフィス全般を担う藤居料実さんを中心にBIA(B Impact Assessment)の取り組みが始まった。

「6人の会社なので代表が考えているところはみんなにも共有されていたので、なぜ会社として〈B Corp〉を取得する必要があるのか、サステナビリティとは何かを社内で説明する必要はありませんでしたが、回答に対して根拠をひとつひとつ証明していくところに難しさがあり、当初3ヶ月くらいかと思っていたBIAの回答は結局9ヶ月かかってしまいました。回答しやすいところから始めましたが、例えば会社の方針としてはあるけれど、言語化されていないものを一つ一つ表現し、確認したりとか、科学・調査分析部と事業開発・営業部がそれぞれ漁師さんたちとどんな仕事をしているかなど細かい情報を集めてまとめていくのにすごく時間がかかりましたね」(藤居さん)


UMITO Partners組織部 藤居料実さん

漁師さんたちのなりわいが国を越えていく

BIAの5つの指標(ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、顧客)の中では、特に顧客のスコアが高かったという。

「最初は環境のところで自分たちの取り組みを表そうとしていたのですが、例えば選択肢の中に『何ヘクタールの森林を保護しましたか』や『生物多様性をどのように守りましたか』という設問はあっても、『海の資源をどれくらい保護しましたか』という設問はなかったので、弊社の活動を表現するにはやや難がありました。その代わりに顧客の中で、自分たちのプロジェクトはどういう環境インパクトがあり、どういう顧客に対してプラスがあったのかをできる限り数値化して、資料にまとめる作業をしたところ、高得点を取ることができました」(藤居さん)

「これは岡山県邑久町の養殖カキの事例なのですが、カキは20gの大きさで毎日400Lの水をろ過します。僕たちが関わっているプロジェクトのカキの個数を把握し、それは1500tぐらいなのですが、成貝になる3〜4ヶ月の間にどれくらいの水をろ過するか容量を算出し、今度は瀬戸内海の播磨灘の水の容積を調べて、どれくらいのペースで環境にインパクトを与えているかすべて数値化したりと、とても手間のかかる作業をしました。実際にこのカキを扱ってくださっているd47食堂さんに、定量化するための情報をくださいとお願いしていたところ、カキの提供数と単価で計算して、経済効果で600万円ほど、地域の漁師さんに収益として貢献できたという数字を先方自ら試算してくれて、取引先への意識の連鎖や波及効果を感じています」

また、波及効果でいうと認証を受けたことによって、プロジェクトの商品を海外にアプローチしやすくなるということはもちろん、頑張っている日本の漁師さんたちの知識ややり方を、例えばインドネシアなど、同じような環境のある地域に共有したり、コミュニティを広げていくことによって、より世界全体がよくなる、漁師さんたちのなりわいが国を越えていくということに期待をしているという。

「里山や里海というと、閉ざされ限定された地域というニュアンスがありますが、そうではなく、いわゆる漁師さんと自然、地域の人と自然の関係性っていうはもっと循環していると思うんです。その範囲が地域なのか日本全体なのか、もしくは人類と海なのか。この概念は別に、その地域に閉ざされなくてもいいんじゃないかなっていうのが最近、すごく思ってることです。その延長線の話で、縄文時代の人たちは、そもそも取り過ぎたら続かなくなるとわかった上で生活していたようなんです。貝塚を分析すると、小さい貝は取らずに、ちゃんと成長した大きい貝を食べている。それって結局何なのかと思ったとき、自然との繋がりがちゃんとあったから、そういう道理を理解しているんですよね。対して現代社会は、僕はマトリョーシュカと呼んでいるんですけど、コンクリートの中に人間がいて、自然との距離感がどうしても遠いがゆえに、どこか他人事になっていて、なんかサスティナブルとか言いますけど、まずは自然や海と繋がるところからやろうって思うところはすごくあります。それがUMITO Partnersの名前の由来にもなっています」(村上さん)

「まだ設立2年でメンバーは6人の会社でも、〈B Corp〉認証をもっているということで、会社の活動がわかりやすく伝わったり、こうして今まで接点がないところに弊社の考えを知ってもらえることにもなります。小さい会社さんで認証を受けたい方は、チャレンジしてみる価値は十分あると思います」(藤居さん)。

今後、サステナブルな行動変容を堅苦しくなく、楽しみながらやっていきたいというお二人は、インタビューの最後にミズダコ、カキ、スズキの型抜きをしたユニークな“魚の名刺”をお土産に渡してくれた。クリエイティブな発想力と科学的な分析に基づいた確かな手法で、サステナブルに事業を推進するUMITO Partnersの活動が、世界に波及するためのパスポートとしても、〈B Corp〉認証はきっと役立つに違いない。