fbpx

私たち日本人の食生活に「魚離れ」の傾向があるという。ロードサイドには回転寿司チェーンが頻繁に開店しているし、スーパーマーケットに行けば、サンマやマグロ、タイなどのメジャーな魚がいつでもそこに並んでいる。魚離れは真実なのか。

一方、スーパーマーケットではなく専門の鮮魚店が以前のように在るだろうか、自宅で魚をどれだけ食べているだろうか、それは肉と比べてどちらが多いだろうか、などと自問してみると、思い当たる節が出てくる。

日本の漁獲量は右肩下がり

日本人の魚離れの背景にある、漁獲量の減少は真実だ。

日本の漁業は、第2次世界大戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することによって発展した。沿岸漁業、沖合漁業、遠洋漁業は魚をとる海域や船の規模により区分されている。

漁獲量を伸ばし成長していた日本の漁業は、昭和50年代に“200海里時代”を迎える。昭和52(1977)年、沿岸から200海里(約370km)の水域で外国船が勝手に入って漁をしてはいけないという国際的なルールの設定によって、既存の漁場から撤退を余儀なくされたのだ。世界各国でそのルールが約束されると、さらに国際的な漁業管理が強化されていき、遠洋漁業縮小につながる動きが相次いで、日本は大きな打撃を受けた。最盛期には漁船漁業生産量の4割(約400万トン)を占めていた遠洋漁業は平成以降には1割ほどまで減少し、2018年の生産量は35万トンで、全体の8%となった。

200海里水域の設定以降、遠洋漁業の生産量が減った分、沿岸漁業の割合が2割から3割へ増加した。しかし今度は、沿岸の開発による水産生物の減少、サケやマスの回帰率の低下など、環境の変化によって、現在まで続く減少傾向が始まる。

また、昭和期から平成期に至るまで常に漁船漁獲量全体の6割を占める沖合漁業がある。主に、イワシ、アジ、サバ、サンマなど、一度に大量に漁獲できるのが特徴である反面、これらの魚は海水の温度など環境の変化の影響を受けやすく、漁獲量も獲れる主要魚種もその時々で大きく変わる。1980年代、それまでの主要魚種であったサバ類は漸減し、急増したマイワシが主要魚種となって1984年に漁業生産量のピーク(1,282万トン)を迎えるのだが、1990年代に入ると急減した。代わってマアジやサンマが増加するが、マイワシの急減をカバーするほどではなく、その結果、沖合漁業の生産量は急速に減少し始めた。かつてのマイワシほど大きな割合を占める魚種は見られず、漁獲魚種の構成は多様化していく。漁獲量に直結する魚種交代のメカニズムには未だ不明な点が多いが、海洋研究により認められている〈レジームシフト〉と呼ばれる数十年規模の水温変動が関係している可能性が示唆されている。

平成23(2011)年の東日本大震災では前年比10%減少となるほど漁業も大きな影響を受けた。翌年には、被災地復興等により前年比2%ほど回復するも、その後緩やかな減少傾向が続いている。右肩下がりに推移してきた漁獲量の減少にはあらゆる要因があることがわかるが、今、日本の漁業はこれまでにない大敵に直面している。

漁師さんも減っている

それは漁業就業者の減少だ。漁師を含む漁業就業者は平成期の30年間で61%も減少した。また、遠洋漁業や沖合漁業では40〜59歳が多く、肉体的な限界を感じて定年でリタイアする人が出てくるが、沿岸漁業においては75歳以上でも仕事をする人は大勢いて、平均年齢は56.9歳と高齢に偏っている。若い世代が少ないことで後継者問題が深刻だ。かつての漁村が都市の中に埋もれその集落ごとなくなったケースがあったり、漁師の所得減少も背景にある。

気候変動による漁獲量の減少や、家庭での海産物の消費量減少は、漁業や水産加工の現場の生き残りを困難にしている。

消費量の減少を止めるには、食の志向の変化がヒントに

日本の食用魚介類の1人1年当たりの消費量が減少している。平成13(2001)年度の40.2kgをピークに減少傾向が始まり、肉類と比較すると、平成23(2011)年度には初めて肉類の消費量を下回って、逆転したままその差は年々開いている。これは若い世代に限るものではなく、年齢階層別に見てもほぼ全ての世代で減少傾向にあるという。

食料品全体の価格が上昇する中、特に生鮮魚介類は高騰し、消費者を対象にした「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」(農林水産省実施)では、魚を購入しない理由を「価格が高いから」と回答している人が多いことがわかっている。

さらに、株式会社日本政策金融公庫による調査結果が興味深い。食の志向も変化しているようだ。令和2(2020)年には〈健康志向〉、〈簡便化志向〉、〈経済性志向〉の割合が上位を占めている。特に、簡便化志向の割合の増加が顕著で、経済性志向の割合を上回るほどだ。女性の就業率の増加や単身世帯の増加など、ライフスタイルの多様化が背景にある。調理が面倒という理由で生鮮魚介類は敬遠されているのだ。つまり消費量の減少は魚嫌いとはノットイコールであり、食の志向に合った商品開発や供給が消費量の減少を食い止めることに重要なポイントとなってくる。

簡単に魚が食べられる未利用魚のサブスク〈Fishlle!〉がある

“魚の需要自体がなくなってしまっては、どれだけ未利用魚を有効活用しても、流通構造を整えても、消費者の需要がなくては意味がない。魚の需要が少しでも拡大するように我々が力を入れるのは、魚を食べやすくすること。”

sample alt

食用魚介類消費量の減少が続く状況を深刻な問題として捉えて語るのは、株式会社ベンナーズの代表、井口剛志さんだ。

井口さんは2018年に株式会社ベンナーズを立ち上げ、「未利用魚」と呼ばれる魚に出会う。未利用魚とは、形が悪かったり傷がついていたり、出荷する相当数が揃わない等の理由だけで、価値がつかず市場に出回らないもったいない魚のこと。

未利用魚を美味しいミールパックの定期便〈Fishlle!〉へと価値化して、今の時代にマッチングしたサービスをスタートさせ、注目されている。井口さんの鋭い想像力から生まれた〈Fishlle!〉について伺った。

ー〈Fishlle!〉がスタートした経緯は?

元々は違う事業をすることから始まった会社なんです。2018年に、産地と外食企業の方々をネット上でマッチングさせるプラットフォームを作る事業を始めました。いろんな産地を回っている中で、未利用魚の存在を目の当たりにして、「もったいないな、どうにかできないかな」と、ずっと思っていたんです。

2020年にコロナが本格的に国内に蔓延しはじめて、我々としても何か新しい事業に挑戦しようとしていたタイミングで、ずっと考えていた未利用魚の活用を具体化しました。外食ができない分、家庭で魚を食べる機会が増えるのではないかと想像し、そこに未利用魚を使って簡単に魚を食べられるようなサービスを提供すればいいのではないかと、点と点がつながるような感じでした。

ーどのような製造工程ですか?

玄界灘で水揚げされた魚を、福岡市東区にある自社の工場に搬入して、その日のうちに最終形まで持っていくので、鮮度は抜群です。現状は県内で水揚げされた魚をメインに扱っています。産地で水上げされた魚を産地で加工するという形は、鮮度を高めるのはもちろん、フードマイレージを抑えることにつながるという点も意識しています。

加工は鱗を取る作業から始まり、一時処理し、味付けをして最終的に凍結まで。レシピに関しては料理人の方々に監修していただいていて、そのレシピをベースに獲れた魚との相性を現場で判断しています。

sample alt

ー未利用魚のサブスクは、届いてからのお楽しみ?

そうですね、どういう魚種がどれだけの量獲れるかが日によって変わりますし、サイズもバラバラです。非常に少量多品種のため管理するのが大変な一方で、お客様からすると、次はどんな魚がくるんだろうというワクワクする気持ちや食べたことのない魚が届くという楽しみに繋がっていると思います。

ー生産者さんはどんな反応をされますか?

最初は「こんな魚をどうするの?」と怪訝そうにされていましたが、マイナスな話ではないですし、私たちが扱う量が増えていくと、徐々に漁師さん達の間でも価値化される認識に変わって、集まる未利用魚の数も質も高まっていっていますね。

ー日本人の魚食離れがあるようですが、どう捉えていますか?また、食に対して簡便化を好む志向が高まっているようです。

魚の需要自体がなくなってしまっては、どれだけ未利用魚を有効活用しても、流通構造を整えても、結局消費者の需要がなくては意味がないので、大きな課題として認識しています。魚の需要が少しでも拡大するように我々が力を入れるのは、まずはそれを食べやすくしていることです。〈Fishlle!〉の商品は、生食用ですと解凍するだけ、加熱用も基本焼くだけ、あるいはパックごと湯煎するだけでお召し上がりいただけます。そういう形に加工する努力もそうですし、また、塩焼き、みりん漬け、干物といったよくある食べ方だけでなく、もっといろんな食べ方があるんだよということを知っていただきたいので、こだわりのレシピを提案しています。合わせて同梱物やSNSを通じて未利用魚や商品を使ったアレンジレシピを紹介しています。

ーどんな方に利用されていますか?

女性が圧倒的に多くて、中でも40代~50代が多いです。40代の方は恐らく子育て世代で、50代はもう少し生活や時間的な余裕のある方々かなと。子育て世代のお母さんには、お子さんに食べてもらえる機会となっているでしょうし、そのお子さんが大きくなって次の世代に食べさせるという循環が生まれることを思うと嬉しいです。

ー〈Fishlle!〉をスタートして新たに気づかれることなどはありましたか?

もともとは未利用魚を知ってもらうため、それは魚の需要を末端(消費者)から作っていくという狙いで〈Fishlle!〉というブランドを立ち上げたんですけど、思いのほか外食産業や小売産業のtoB企業の方々から問い合わせをもらうことが多くて。社会全体でSDGsに対する関心が高まっている中で、“未利用魚”というワードに注目度が高まってきていることを、ここ最近になって強く実感しています。

sample alt

井口さんの鋭敏な発想により、廃棄されていた未利用魚は、生産者が喜び、消費者が喜び、社会が変わり得るサービスに生まれ変わった。守られるべき海の豊かさは、困難な現実を受け止め、ヒントをつかんで知恵を絞り、柔軟に対応していく取り組みの積み重ねだろう。そのスタートの号砲を鳴らしてくれたのが〈Fishlle!〉なのだ。

日本の海から魚が消えてしまう前に、事実を正しく知ることで、〈Fishlle!〉などの具体策に出合えたり、持続可能な社会に貢献できる方法が見えてくるはずだ。