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大迫傑選手が、MGCを経て自身のことを語る注目のトークイベントが開かれた。これは、〈Number PREMIER〉が主催し、ライターの林田順子さんが聞き手となって行われたもの。〈Number PREMIER〉とは、1980年創刊の老舗スポーツ総合誌〈Sports Graphic Number〉に掲載された記事を、スマートフォン、PCなどで読めるサブスクリプション(定期購読)サービス。会員になれば、この大迫傑選手のトークインベントの全編が収められた動画アーカイブの視聴も可能だ。

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Photo:Tomosuke Imai/Number

集団の中から見たレース展開

ここでは、このイベントで大迫傑選手が語ったことの一部をお伝えしよう。まずは、MGCについて、前回(2019年)と同じ3位という結果について。

「4年前と似ているところがあるというか、やっぱり勝ちきれなかった悔しさは残りつつも、自分の中では4年間の中で成長できた部分も多々あった。それを感じることができたので、全く成長していない自分ではなかった。常にあの場で戦えているというのは僕自身の強さかなと思います。いつか積み重ねていけば、自分の一番いいレースができると信じてます」

レースは川内優輝選手がレース直後から飛び出して、2位以下を大きく引き離す“逃げ”の体制をつくった。それを2位集団が追うかたち。奇しくも前回のMGCと似たレース展開となった。2位集団の中核にいた大迫選手はそれを中からどう見ていたのだろうか。

「今回は冷静でした。川内選手は落ちてくると(集団の)みんなはわかっていて、誰がどのタイミングで追うかだけが重要だったと思うんです。いろんな選手が詰めようとしていたんですけど、なかなか決定打にかけていた部分がありました。そこで感じたのが、僕がレースを動かしていかなくてはいけないな、良くも悪くも僕の挙動というのが見られているんだろうなって意識があった。29〜30kmくらいのところで、ここからは追いついておいた方がいいよねということで、出たような感じになります。僕が出ることによって大集団が動いていったというのがありますね。選手がひっぱりあっていけたので、エネルギーを使っていないというか、うまくきっかけを作れたなと思います」

これに対してライターの林田さんから、集団の選手間で意思の疎通はあったのですかという問いかけがなされた。

「鎧坂(哲哉)さんは確実にわかっている感じがしましたよね。ずっと一緒に練習していましたし。(出て)いく時によろいさんの顔を見たんですよね。その時は目が合わなかったんですけど、おそらく雰囲気を感じていて、僕がいった後に出てくれたんだなってのはありますし、他の選手も同様に空気をうまく利用してくれて、前を追っていくという展開になったんだと思います。(一緒に追っていくぞっていう)そういう雰囲気はあったと思います」

キーワードだった“夢中”の意味

今回のレースのテーマを“夢中”というキーワードに込めていたという大迫選手。その言葉はどこから生まれてきたのか。

「なぜそもそも“夢中”ということを考え始めたか。マラソンって自分の中でトラウマを積み重ねることが多い。あれだけキツいことを続けていると、例えば30kmを過ぎると絶対キツくなるよねとか、決めつけてしまうと思うんですよ。変に冷静になってしまう。自分の壁を作ってしまうことが多いんですけど、それを自分の中で、好きだからやっているとか、夢中であること、それを意識的に作り出すことはなかなか難しいんですけど、(夢中になれれば)未来をそこまで想像しなくなるから、その瞬間を頑張れる。その瞬間を頑張れる人って一番強いよねって。壁っていうものをあまり考えずにすむから、自分の限界を超えることにもつながる。そういう意味で(練習のために一人で)アメリカにいるときから考えるようになりました」

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Photo:Tomosuke Imai/Number

ここで、聞き手の林田さんからは、大迫選手が発したマラソンにおける“トラウマ”という強い言葉について、問いかけがあった。

「みんなそうだと思うんですけど、あのキツさに直面したら、(レースの)前日とか苦しいじゃないですか。苦しくない、なんてことはほぼないし、やっぱり嫌だなとは思いますけど、それをいかにポジティブな方向に転換していくか。それは、マラソンだけじゃなくて大事なんだろうなっていうのは思います。今回、約3ヶ月間アメリカにひとりで行ったことによって、“なんで自分が走るのか”というところを再認識できた。勝負は好きだし、マラソンを走ることで自分にいろいろ気づきができることも好きだしというところ。そこをちゃんと深めていけば、まだまだ自分のマラソン人生も可能性があるんじゃないかなっていうのは思っています」

いくつものビッグレースを経験し、円熟味を増してきた大迫傑選手の言葉は、ランナーだけでなく、全ての人に届く普遍性を持つように感じられる。〈Number PREMIER〉のアーカイブ動画にはこの他にもたくさんの大迫選手の言葉が詰まっている。ぜひ、この機会に登録して彼の言葉に触れてみて欲しい。