近頃は、自然派ワインやヴァンナチュールと呼ばれる自然なつくりのワインを飲食店でも多く見かけるようになった。トレンド的な側面がある一方で、肩肘張らずに気軽に飲むラフさや、オーガニックなつくりだから感じる心地よさは、mark読者とも相性が良いはずだ。今回から始まる『WITH WINE』は、自然なつくりのワインに寄り添う人へのインタビュー連載。これから身体も精神も健やかで軽やかになれるワインの楽しみを、共有していこう。第1回目は、〈KIKI WINE CLUB〉の新井‘Lai’政廣さん。
ポップアップイベントやオンラインショップ販売で、日本の“自然酒“を届ける〈KIKI WINE CLUB〉。取り扱うお酒は、ナチュラルワインや自然発酵の日本酒など。そのほとんどが、ビデオグラファーであるLaiさんが、畑やワイナリーへと旅をし、実際に会いに行った生産者のものだ。
「KIKIは、もともと〈青果ミコト屋〉と全国の生産者をめぐる旅をしていた体験から生まれたプロジェクトです。映像を撮りながら生産者の畑を見てまわっていて、彼ら(共同創設者:鈴木鉄平、山代徹)はずっと野菜を販売していて、生産者たちをフォーカスしていった。自分はその成り立ちをそばで見ていて、同じく農産物でもあるワインの可能性を感じはじめました。発想の元となった旅を共有してきたので、ミコト屋の新しく始めたジェラートのプロジェクト『KIKI Natural Icecream』と、屋号を分かち合ってるんです。視覚的なことと、味覚的なことを混ぜたクリエイティブに興味があったので、KIKI “WINE CLUB”では販売だけでなく視覚的にアプローチできるよう、醸造所や畑の様子を動画にして、生産者の想いや背景をセットにして届けたいと思って立ち上げに至りました」
旅の目的地が、ワイン生産地へと向いたのは2年ほど前のこと。幼い頃からアレルギー体質だったこともあり、食品が身体に与える影響や、健康についても意識があったというLaiさん。もともと下戸だった彼がナチュラルワインと出合い、一口飲んだ瞬間に身体への心地よさを感じた。
「兵庫の飲食店(「tanigaki」と「off」)を営む谷垣兄弟という双子がいて、彼らのセレクトするワインがすごく美味しくて。ワインを掘ることになったきっかけの1つです。ワインは味自体は好きでも、体質的に飲めないことがハードルだったけど、余計なものを加えていないナチュラルなものだと身体に引っ掛かりがないということを実感した。馴染むというか、染み渡る感覚……。だから自分自身もKIKIのワインのセレクトも、当初は酸化防腐剤、亜硫塩酸(SO2)を添加していないものに限って揃えてました。ただ現在では、完全SO2フリーに付随した生産面での難しさも理解して、微量の添加であれば取り扱っています。醸造家の話をきいて、ワインに対する考え方も変化していきましたね」
小川町の農家ツアー
KIKIの活動をサポートするメンバーが、月に一度集まる食事会。内輪の会だが、ECサイトで販売するワインの味わいを言語化する試飲会も兼ねているそう。今回は有機農家が多く、Laiさんとも縁の深い埼玉県小川町で行われた。Laiさんが「せっかくなので試飲会の前に、農家さんに会いに行きましょう」と、小川町の2箇所の畑を案内してくれた。
「まだ日本のワインに対して固定概念をもっている人に、ワインの魅力や味わいはもちろんなんですが、それだけでなく畑のことや、農家さんと醸造家のお互い支え合うような関係性も伝えられたらと思います。さらにいうと、今日会った〈横田農場〉の岳くんも話していたような、自然エネルギーの循環や、目に見えない菌の働きのこと。知恵と工夫次第で無農薬、無施肥でも健全に野菜が育つことも含めて、知って欲しいという気持ちも根底にはあります。醸造家さん自身も、自分のワイナリーのことだけじゃなくワイナリー周辺のコミュニティや、その地域の暮らしの豊さについて考え、実践している人もいて、その先進的な考えがとても刺激になっています。1番最初に取り扱いが決まった宮城県川崎町のワイナリー〈Fattoria AL FIORE〉の目黒さんもその一人。……そういうことは考えつつも、あまり頭でっかちには言いたくない。ワインって楽しいし、エチケットも惹かれるデザインが多いから、まずはそこが入り口になって繋がれればいい。だから“クラブ”なんです」
視覚と味覚の場を目指して
10種類以上の国産ナチュラルワインを飲み比べできるKIKIのポップアップイベント。ワインの可能性を一気に広げてくれる体験は、お客さんの反応も新鮮だ。
「イベントは地道だけど、対面でコミュニケーションが取れる場。これからEC販売が軌道に乗っても、さらにコミュニケーションが濃厚なイベントを作っていきたいと思います。特に飲み比べでは、作り手の特徴や味わいの違いを楽しんでもらえる良い機会に。日本のテロワールを感じたり、軽やかでも深く、日本の風土にあう味わいに驚かれる方も多いです」
「これから扱うワインの物量も増える予定なので、数年後には生まれ育った地元(埼玉県鶴ヶ島市)に場を持ちたいですね。ワインの在庫用の倉庫と自分のクリエイティブのスタジオを兼ねた『視覚と味覚の場』。複合的なハブになれるようなところを構想しています。お店が中心になってコミュニティ生まれたら、活動を通して埼玉同士で繋がれたら、ここに根ざしてローカルから発信できたら、というのが今の想像する理想ですね」