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Overview Coffee〉は、コーヒーの栽培を見つめ直し、環境負荷の軽減を追求するミッションを掲げたスペシャルティコーヒーロースターブランドだ。ポートランドで発足し、土壌の健康面を考えたリジェネラティブ・オーガニック農法を推進している。 都内では日本橋のベーカリー〈PARKLET〉などで提供され、豆のサブスクリプションサービスもリピーターが多い。コーヒーをめぐるサステナブルな思想の認知とともに、日本でもじわじわとファンを増やす〈Overview Coffee〉の拠点は、じつは瀬戸田にある。島を訪れた火曜日は、週に一度の焙煎の日。代表の増田啓輔さんは、焙煎機に繋がれたコントロールパネル画面に集中していた。

瀬戸田港の宿泊施設〈SOIL Setoda Living〉の隣の建物、古い蔵を改装した〈SOIL Setoda KURA〉の室内、ガラス戸で仕切られた小さな空間が〈Overview Coffee〉の焙煎室だ。輸入したコーヒーの生豆の保管庫としての役割も果たしているため、室内の温度は20℃を超えないように設定されている。毎週火曜、増田さんはこの部屋で通常ラインナップの4種類の焙煎を行うという。

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「焙煎機はカリフォルニアのメーカー『ローリング15kgFalcon』を使っています。他の焙煎機に比べると、75〜80%もガスの使用率がカットされるので、環境負荷が少ないんです。また、豆の温度、放出される温度など数値でいろいろ測れるので、焙煎も安定させることができます。香りや目視だと、自分のコンディションによって左右されてしまうので。ログを残すことで、焙煎を検証しやすいところも、このマシンのメリットですね。パソコンのソフトウェアを繋ぎログを残すことで、焙煎を検証しやすくさせる、それから1分間で何度上昇するか……などグラフで見るようにしています」

そうすることでコーヒーの品質向上に繋がるようだ。スイッチを押して、手放しに見ているだけではない。出てきた数字から、その日のレシピを微調整していく。基本的には準備したレシピに沿って、焙煎をし、良い結果の再現をすることに注力しているが、増田さんは「もっと良くなるんじゃないかって思って結局いつも微調整しちゃいます」と笑う。焙煎士としての欲が出る場面だという。外の自然環境によっても結果が左右されるため、その日の天候や温度・湿度なども焙煎のデータとともにメモに残されている。

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「焙煎室の温度管理も、全く同じにするのは難しい。豆の経年変化にも微妙に合わせていく必要があります。だからこそ、なるべくデータで“見える化”するようにしています。感覚だけっていうのは自分はないですね。これから焙煎量が増えて、集中する時間が長くなれば、さらに目や鼻にだけ頼り続けられないですから」

ログ化すれば、そのプロファイルをシェアすることもできる。クラウド化して、他の焙煎士に共有できる。さまざまな要因が影響する複雑な作業なのだ。

焙煎を終えたあとは、人の手によって選別され、翌日発送され全国へ。月曜日の夜までにネットで注文すれば、より新鮮な豆が水曜日に発送されることはオンラインで購入するユーザーは特に覚えておきたい。

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「仕入れるコーヒー豆は、オーガニック認証をとっているもの、またはオーガニックに作られていることが証明できるものを使用しています。どうしても虫が食べてしまうことや、生育過程でおこるダメージが多いのが欠点と言われています。手間をかけて、焙煎後に選別することで、高いクオリティでの提供を徹底しています。オーガニックだからあるがまま出すっていうのも、ひとつの考えとしてあると思うんですけど、美味しくないと環境に良かったとしても続かない。飲み続けていただくことが重要なので、そういった意味でも味は大切です。生産者がせっかくいい豆を作ってくれているんだから、美味しさを引き出すのは、生産者と消費者の間の役目ですよね」

焙煎室は釣り竿やスケートボードなど趣味が垣間見えるモノたちがちらほら。増田さんのカラーが空間に表れている。イヤホンで作業中に何を聴いているんですか?と気になって尋ねてみた。

「ずっと集中しないといけないし、緊張するので、できるだけ自分がリラックスできる空間になればいいなって。聴いている音楽は、気持ちをフラットにしてくれる曲、焙煎と波長が合うサウンドを選んでいます。一回試しにロックとかヒップホップにしてみたこともあるんですが、焙煎が曲に影響されてアグレッシブになっちゃうと困るなと思って(笑)。同じラインナップをリピートしてますね」

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地球にやさしい、日常の一杯を目指す

しおまち商店街のまちづくりの一環でこの蔵の使い道を検討していた時から、プロジェクトに関わっていた増田さん。瀬戸田に“小さなロースター”という構想は、その頃からすでに出ていた。コーヒーのバックグラウンドをもつ増田さんは、しっかりローストブランドをやりたいという想いがあった。一方、アメリカで〈Overview Coffee〉を立ち上げたアレックス・ヨーダとは、ブランド立ち上げ以前から交流があった。

「スノーボードのために日本に来ていたアレックスは、その頃からコーヒーで何かをやりたいと言っていていました。彼はコーヒーのこれからを見ていたんですね。サードウェーブと呼ばれる現在のコーヒーシーンって、小さい成長はあるけどずっと新しい動きはなくて。次のムーブメントってなんだろうって、僕もずっと考えていたタイミングでした。アレックスは、美味しさを求めることに加えて、これからは自然環境を後世に残していくことだと考えていて。スペシャルティコーヒーだけでなく、リジェネラティブ・オーガニックのスペシャルティコーヒー切り替えていく。彼の考えに共感して〈Overview Coffee〉を日本でもやりたいと思ったんです」

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アメリカのCEOアレックス・ヨーダとかけたヨーダの置物は、守り神的存在で焙煎を見守っている。

〈パタゴニア〉のワールドアンバサダーとして知られるアレックス・ヨーダ。気候変動に対する興味関心が高かった彼は、成人になると水の次に飲まれる飲料としてコーヒーに着目した。身近な飲料がリジェネラティブに作られたものにとって代われば、環境へのインパクトが大きいと考えてコーヒーを選んだのだ。〈Overview Coffee〉の本国のブランド発足は2020年、日本では2021年にスタートした。

「焙煎の方向性は、日本とアメリカそれぞれです。ローカライゼーションは必要だと思っていて。同じ味のコーヒーを全世界に発信することではなくて、僕らの目的は、リジェネラティブ・オーガニックが広がっていくことなので。違うプロセス(味)を通っても、目的地は同じ。日本のオーディエンスに合う味、何より自分が好きと思えるような味づくりをしています。意識しているのは、疲れない液体。1日に二杯、三杯と負担なく飲めるような、日常生活に溶け込むコーヒーです。まさに水を飲むように、飲んでいただけたら。1杯ってすごく小さなアクションかもしれないけど、毎日のことであれば大きいですし、このブランドは環境のために飲む、というよりは心地よい味だから飲んでいて、結果的に地球にやさしいことだった、みたいなのが理想です」

農の経験を島で積む

もともと静岡にいた増田さんは、昨年瀬戸田に移住してきたばかり。島にロースターができたばかりの頃は、週一でこの島に通っていたそうだ。

「実は、まさか自分が焙煎士をやるとは思っていなかったんですよね。焙煎を頼める人がなかなか見つからなかったのもあって、島に引っ越してきました。はじめは必要に迫られてでしたが、僕自身、焙煎できるチャンスがあったのは良かったです。コーヒーのおもしろさに、もう一段階レイヤーが増えて楽しいです」

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多様な農法に触れる機会が多いという生口島の環境。自然農法や有機農法などの知見を深められる、学びの多い場だという。いずれは提携している海外のコーヒー農園に足を運びたいという増田さん。

「100パーセントの気持ち、自信を持ってプレゼンしたいので、やっぱり自分の目で生産地を見たいです。また、自分が焙煎したコーヒーを農家の人にも飲んでもらいたい。ものを作るからには、最後に捨てられるまでをすごく気にしているので、パッケージやコーヒーカスなども含め、もっと追求して、環境に対してインパクトの少ないものにしていきたいと思っています。そういう意味で、生口島の中では、コーヒーカスを農家さんがコンポストに使ってくれたり。余ったものをどうするか、相談できる人がすごく近くに居てくれるのでありがたい。1年経って、この島でロースターをやる意味はここに来たばかりの時よりももっとたくさん感じています」

Overview Coffee
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Instagram:@overviewcoffeejapan