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ヨーロッパでは戦争が起こっています。インフレーションや為替変動が激しく、これまで親しんできた輸入食材も値上がりが予想されます。そんな中で必然的に気になるのが食料自給率です。なんとなく日本の食料自給率は低いのだろうと理解はしていますが、それはどの程度なのでしょうか?ここ数十年、価格が安定していて物価の優等生と呼ばれるたまご、この栄養豊富で安価な食材の自給率を見てみると驚きの事実(ファクトフルネス)が浮かび上がってきます。

食料自給率の数字はいくつかある

自給率の話をする時にやっかいなことがあります。それは基準になる統計がいくつかあること。カロリーベース食料自給率は、その名の通り食品のエネルギー(熱量)に着目したもの。農林水産省によれば、1日1人あたりの供給熱量を分母として国産供給熱量を割ったもの。令和3年は供給熱量が2,265kcal、国産供給熱量が860kcalだったので、860÷2,265=38%となります。

一方で生産額ベース食料自給率は経済的価値に着目して、食料の国内生産額÷食料の国内消費仕向額で導き出します。令和3年は、食料の国内生産額9.9兆円÷食料の国内消費仕向額15.7兆円=63%と、金額ベースと熱量ベースでかなり見え方が変わってくることがわかります。

また食品の重量を基にした重量ベース食料自給率という指標もあり、これは食品の品目別の自給率を測る際に利用されることが多い指標になっています。(参照:農林水産省『食料自給率とは』

このように自給率の数字が複数存在するため、一元的に比較できなかったり、指標によって見え方が変わってくるところが自給率の話をすることを難しくしています。ただ、生存に関わるという意味ではカロリーベース食料自給率を見ておくべきですし、それが38%というのはかなり低いと考えて良いのではないでしょうか。国はこのカロリーベース食料自給率を令和12年までに45%に高めることを目標にしています。(参照:農林水産省 『日本の食料自給率』

食料自給率と食料国産率

さらに事情を複雑にしているのが畜産品の飼料の自給率です。これは令和3年度では25%と非常に低いのです。ということは日本で育てられている畜産品のほとんどが外国産の餌を食べて育っているということ。これらの畜産品を純粋な国産として扱って良いのかという問題があります。輸入飼料がなければ生産できなかった畜産品だからです。そのため食料自給率は飼料の自給率を反映した数字になっています。

一方で、輸入飼料で生産された畜産品も国内産としてカウントした場合の数字も公表されています。それが食料国産率なのです。令和3年度のカロリーベース食料国産率は47%とカロリーベース食料自給率と比較して9%もアップします。ここから畜産品が食料自給率に与えているインパクトが大きいこと、それは間接的に飼料自給率が大きく影響していることが読み解けます。

畜産品を支えている輸入飼料

国産の畜産品の扱いを変えるだけで9%も自給率の考え方が変わるということは、それだけ食肉の影響が大きいことがわかりました。では、その食肉の消費傾向はどう変化しているのでしょうか。


農林水産省の食料需給表を見てみると、1960年には鯨肉を除く肉類の消費量は1人1年あたり4.9kgでした。それが2021年には50.8kgとなんと10倍に増えています。主な要因は食の欧米化といわれていますが、半世紀の間に日本人の食べるものが大きく変わったことがわかります。さらに食肉の内訳を見てみると1965年から2010年の間で、増加が顕著なのは鶏肉で751.2%、消費が7.5倍に増えています。牛肉で488.4%、豚肉が460.6%と4〜5倍近い伸びです。牛乳乳製品(飲用向け)は124.7 %。しかし2001年度から2010年度にかけて牛肉と牛乳乳製品の消費は落ちています。(一般社団法人食品需給研究センター資料:食料自給率変動要因調査報告書 )

ここで全体の食料自給率と鯨肉を除く肉類の自給率の推移を見てみます。


食料自給率は1965年の73%から2021年の38%とちょうど半減していることになります。一方、鯨肉を除く肉類の国産率は90%から53%に減少、自給率でみると42%から8%と1/5にまで低下しています。肉類の自給率をみると1965年の42%から1972年の12%まで急激に下がっているのは、国内の旺盛な食肉への需要を輸入飼料による国内生産でまかなっていたことが読み取れます。そして1985年に牛肉の輸入枠拡大などが始まったため、食肉そのものが輸入されるようになり、今度は肉類の国産率も下がり始めるのです。

また、1993年に食料自給率がガクッと落ちていますが、これは冷害による米不足の影響。これまで自給していた米が急に足りなくなり、タイ米などを大量に輸入しました。世界の米市場を大きく揺さぶり、これもその後の自給率低下の大きな一因となっったのです。いずれにしても食習慣の変化が全体の自給率を押し下げていることがよくわかります。

たまごの本当の自給率

では、タイトルにもある鶏卵の自給率はどうなっているのでしょうか。


2021年度の国産率はなんと97%と非常に高い数字を誇っています。当然、たまごは国産と思って私たちは購入しているのです。しかし、自給率をみると13%しかありません。栄養豊富な物価の優等生は大量に輸入される飼料に依存していたということです。このように数字をつぶさに追ってみると自給率の本当の姿が浮かび上がってきます。こうした食の事実(ファクトフルネス)を踏まえながら、わたしたちは今日何を食べるかを選択していく必要があるのかもしれません。

そして最後に種明かしをひとつ。トップ画像に使ったグラフィックは実はたまごの自給率と国産率を比較したものだったんです。気がつきましたか?