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林業の特集担当を任された時、森の中の木々をイメージすることは難しくありませんでした。登山を趣味にしている私にとって、森は馴染み深いものです。日常を忘れて時間を過ごせる三浦半島のハイキングコースには身近なエリアにもかかわらず深い原生林が現れます。八ヶ岳の山行では登山口の苔の森から徐々に植生の移り変わるさまが面白く、日本アルプスでは森林限界を突破して、自然のメカニズムを感じられます。木陰からじっとこちらを見るカモシカと出会ったこともありました。生物の多様性や美しさを直接目にした登山体験との繋がりを探して、林業というテーマを読者のみなさんにも共感を持って届けられるのではないか、と想像して胸が高鳴りました。

しかし、なぜ今、林業なのか。生物多様性や水源を守り、材木などの資源となり、エネルギーとなって私たちの身近な生活に寄与する森林資源は、とても尊い存在です。そして、豊かな森林は、CO2を吸収し地球温暖化を克服する切り札なのです。

今、世界が林業・森林に期待しています。日本では衰退していく産業だと捉えられていた林業に新しい風が吹き始めています。CO2や温室効果ガスの削減効果を取引する“カーボンクレジット”によって、森を保全すること自体もビジネスとして成り立つようになってきているのです。こうした明るい兆しと、耳に届いてくる足元の林業の難しさをどう結びつけ、アウトドアを楽しむ私たちが、森の保全にどうやったら貢献できるか考えるのがこの特集の目的でした。

実際に取材を始めてみると、国土の2/3を占める森の国で木々を扱う大きな産業となれば、いざ出てくるのは疑問ばかり。林業の具体的な仕事とは?山林の所有者は誰?林業はどんな課題を抱えている?植える、育てる、伐採して使う、このサイクルをイメージすることはできたけれど、それぞれの作業を実行するためには人の手も、所有者の意思も、道つけの技術も必要でした。さらに、安価な輸入木材が手に入るなか、林業を継続するためのマネタイズには様々な工夫が不可欠なこともわかりました。

林業を知り、樹木の価値を再認識することは、今後私たちにとっても読者のみなさんにとっても発想の材料となるでしょう。そして、北海道で独自の林業を志向する〈outwoods〉の足立さんの言葉は、これから登山を楽しみながら何度も頭をよぎるんだと思います。

「奥深い場所でなくていいので、歩いたり、走ったり、滑ったり、迷い込んだりして、森の中で過ごしてほしい。そして、ごく小さなことでいいから、森の中で今起こっていることと自分の生活の繋がりを見つけてほしい。その積み重ねの先に、みんなで語り合えるようになる森の共通言語が生まれ始めると思います」

森の可能性に気づいた人々が、いま林業の新しい未来を切り開きつつあります。それは、私たちにとって遠いものではないはずです。古くて新しい林業の可能性、それはまずアクティビティを通して森に触れるところから始まるのかもしれません。今回の特集に目を通して頂けたら、きっとフィールドを見る目が変化していると思います。