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そろそろ旅に出かけたいこの夏。東京から一泊二日程度で気軽に行けて、せっかくなら海が近くて心地よい場所がいいと考えていた。そんな折、東京・日本橋にできたベーカリー〈PARKLET〉で、ここでいつも飲んでいるお気に入りのコーヒー〈Overview Coffee〉の焙煎所が瀬戸田にあるという話を耳にした。なぜわざわざ島に?という疑問、おもしろそうだという興味が同時に湧いた。
どうやら生口島の瀬戸田町のメインストリート(?)である しおまち商店街周辺がここ数年、じわじわと盛り上がっているらしい。温暖な気候と自然に恵まれ、歴史文化や食も豊かな瀬戸内海。内海の島を縫うようにして、広島県尾道と愛媛県今治を結ぶ全長60kmの“瀬戸内しまなみ海道”は世界7大サイクリングロードにも名を連ねている。
それならアクティビティと島旅を組み合わせて楽しむこともできるじゃないか。できるだけ身軽になるように、とバックパックにはミニマルなギアだけを厳選して詰め込んだ。最低限の予約だけ済ませ、旅の準備は完了だ。

DAY1

旅の拠点である尾道へのアクセスは、都内から4時間ほど。東海道・山陽新幹線、福山駅または岡山駅でJR山陽線に乗り継ぎ、尾道駅へと到着する。戦火を逃れ、西の小京都とも呼ばれる尾道は、風情ある街並みと多くの寺が残っている。早速、出迎えてくれる魅力的なお土産屋の誘惑を振り切りながら、目的の場所へと向かう。

到着早々、訪れたのは尾道駅から徒歩7分の港沿いの倉庫のような大きな建物〈ONOMICHI U2〉。ここはサイクリストフレンドリーな宿泊施設、カフェ、バー、ショップなどが併設されている複合施設だ。併設の〈ジャイアントストア尾道店〉は、宿泊者以外の利用客も気軽に自転車をレンタルできる。ライドの際の注意点などのレクチャーを受け、尾道から瀬戸田までの道のり約32kmを共に旅する相棒を手に入れた。

しまなみ海道は、尾道をスタート地とした場合、向島、因島を経由し生口島へ辿り着く。地図を確認しながらさっそく出発。海風を感じながら向島を1時間ほどライドする。因島大橋を渡りきり、立ち寄ったのは〈はっさく屋〉。看板のはっさく大福は、小休憩にはもってこいの甘味。生のはっさくを、ほどよい甘さの白餡が包みこんでいる。イートインコーナーで涼んで、因島の南部へと進む。瀬戸田を目指すには、少し遠回りになるルートを選んだのは、あるローカルフードを食すためだ。

因島のお好み焼き、通称「いんおこ」は、うどんが入ったお好み焼きのこと。因島の土生港の周辺には、かつては50軒以上のお好み焼き屋があったそうだ。なかでも老舗の〈越智お好み焼き店〉は、地元の常連さんも通う店。創業42年のお店は、小さいけれどアットホーム。巨大な鉄板を囲むスタイルは、昔の駄菓子屋を彷彿とさせる。油を使わずに焼くことと、のしイカが入っていることがこのお店の特徴らしく、魚介の風味とソースの香りが食欲をそそる。熱々のお好み焼きは、やさしい味で箸がどんどん進む。なぜうどんが入っているのかは諸説あるが、造船で栄えた因島の働き手のお腹を満たすため、腹持ちのいいうどんを入れたという説が有力だそう。さておき店主の「昔っからお好み焼きは、うどんしか食べたことないけぇ」という言葉が、実感をもって心に届いた。

お腹を満たして、再びペダルを踏みしめる。昼過ぎには目的の生口島に到着し、高根大橋から瀬戸田港を望む。レモンの収穫は春だから、その頃は島がレモン色に染まる。季節外れだが道中、脇の雑木林に野生のレモンを発見できた。しおまち商店街の方面からは、下校中の学生の賑やかな声が響いている。

本日の宿にチェックイン。街のリビングルームをコンセプトにした〈Soil Setoda〉は、宿泊施設という機能だけでなく、瀬戸田のローカルと旅人をつなぐ役割を果たしている。開放的なラウンジルームには、つい長居してしまう心地よさで、ワーケーションにも良さそうだ。

この旅の動機にもなったロースター〈Overview Coffee〉の焙煎室をガラス越しにのぞく。代表の増田啓輔さんは、パネルと向き合い、真剣な眼差しで黙々と焙煎を続けていた。〈Overview Coffee〉のリジェネラティブ・オーガニックやのこと、このロースターができるまでの経緯を、増田さんに伺ってますますファンになった。

陽が落ちきる前に、1Fの〈MINATOYA〉で夕食をいただく。地元の新鮮な食材と、薪火による調理、シェフの鬼崎さんが腕を振るう料理は、「肩肘張らないカジュアルさ」「旅の特別感」のいいとこ取りのよう。「タコ麻婆」など、中華料理テイストなのも他にはない彼の味だ。食材のことや、この島のおすすめなどを惜しみなく、気さくに教えてくれた。

近くの銭湯〈yubune〉で汗を流して1日の疲れをリセット。宿に戻って、就寝前に宮本常一著の『瀬戸内文化誌』を手に取った。それぞれの客室に、瀬戸内にまつわる書籍が選書され置かれているのだ。本州、四国、九州に囲まれた瀬戸内にはたくさんの島がある。島と、そこに暮らす人々の衣食住、漁業、文化の変遷、ときに海賊の話など盛りだくさんの一冊だ。もちろん生口島や瀬戸田にも触れている。

美味しいものを食べたり、美しい景色を目にするだけでなく、旅先の歴史背景を得ることでその場所を見る視野が広がっていく。昼間食べた「いんおこ」に周辺の造船業の繁栄という背景があったように、景観や食などをさらに深く味わうことができる。

DAY2

夏の早朝は、一年の中でも好きな時間だ。日が高くないうちから起きて活動すれば、暑さを避けることができる。朝食前のランニングは旅先でも欠かせない習慣だ。せっかくなので、昨日自転車で通過した道と逆方向のサンセットビーチ方面に向かって走ることにした。往復でちょうど10km、海沿いの道を走る。いくつもの島が隣り合う内海の海は、本州から見えるような水平線はない。複雑な地形からなるため、少し進めば先刻に自分が居た場所と、全く違う表情の景色になるから不思議だ。向こう側に見える島も角度を変え、海も色が変わって見える。近くに寄って覗くと、透明度が高いことがわかる。カワハギのような魚が、泳いでいるのが見えるほど。クラゲも優雅に浮いている。

用水路の脇の小道をくぐり抜け、島の形に沿って緩やかなカーブを描く道を走って、〈SOIL Setoda〉へ戻る。

  • SOIL Setodaのバイクスタンドから、再び旅は始まる。/しまなみドルチェのジェラートは必食。新鮮な柑橘を中心に豊富なフレーバーを展開している。

2日目は増田さんの計らいで、柑橘農家さんの畑を案内していただけることになった。一年中出回っているので、旬を感じにくいレモン。国産のレモンは遅くとも5月までに収穫と出荷を終えるため、ここ生口島でもこの時期にはその姿をほとんど見ることはない。レモンとの触れ合いは諦めていたところに「畑を見に行ってみますか?」というありがたいお誘いをいただき、同行させていただくことになった。

まずは東京と生口島の畑を行き来しているという〈トニーファーム〉のトニーさんのレモン畑へ。畑のメンテナンスのため、今日までの滞在だということでラッキーなタイミングだった。彼は生口島に5つの畑をもち、自然農法でレモンや山椒などを栽培している。傾斜のきつい場所でもズンズンと登っていくパワフルなトニーさんは、写真家としても活動している。虫や草花が共存する畑の、多様な環境づくりの重要性を教えてくれた。

〈トニーファーム〉にレモンが1つだけ残っていた
  • (左)畑から景観の良いスポットへと案内してくれるトニーさん。(右)〈セーフティフルーツ〉能勢さんは、自宅側の隣の畑で作業をしていた。

トニーさんの畑を見学した後、近所の柑橘畑を営む〈セーフティフルーツ〉の能勢賢太郎さんと合流した。生まれも育ちも生口島の能勢さんは、有機栽培・無農薬の柑橘を生産している農家だ。一般的な柑橘はもちろん、ベルガモットやブラッドオレンジなど希少種も育てているために、全国から調香師、バーテンダーなどが能勢さんを訪ねてやってくるという。トニーさんも「賢ちゃんにいろいろ教えてもらったんだ!」というほどの柑橘エキスパートなのだ。

シーズンオフにもかかわらず島の代名詞、柑橘の畑を2つも巡ることができた。実がなる頃に再訪することを約束して、フェリーの時間までしおまち商店街をぶらつく。お肉屋さんのコロッケ、小さな商店のシャーベットアイスを小銭で買って店頭で食べるのは“ザ・夏休みの少年”気分。瀬戸田港からの船にロードバイクとともに乗り込む。平日ということもあり空いている船内から、島に別れを告げた。

古くより内海航路の拠点として栄えた瀬戸田港。しおまちと呼ばれるこの場所の歴史や、文化を残しながら、そこには新しい風が吹いているようだった。内海に発生する渦のごとくいろんな人や要素を巻き込んで、これからますます魅力的なエリアになっていくに違いない。

旅の立ち寄りスポット インフォメーション
 
ジャイアントストア尾道店
広島県尾道市西御所町5-11
営業時間 9:00〜18:00
火曜定休
0848-21-0068

はっさく屋
広島県尾道市因島大浜町246-1
営業時間 8:30〜17:00
月・火定休
0845-24-0715

越智お好み焼き店
広島県尾道市因島土生町
営業時間 11:00〜17:00
木曜定休
0845-22-0932

SOIL Setoda / MINATOYA
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田254-2
https://soilis.co/locations/setoda/

ドルチェ 瀬戸田本店
広島県尾道市瀬戸田町林20-8
営業時間 10:00-17:00

トニーファーム
tonyfarm209.stores.jp

セーフティフルーツ
https://shimanami-lemon.com/cultivation

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