効果的なトレーニングをするには、まず自分を知ることから。
自分の身体能力を客観的に測って、弱い部分を強化するためのトレーニングを紹介する「大人の体力測定」。第6回は、姿勢を保つために働く筋肉、腹直筋について解説します。
テーマ:姿勢を保つために働く筋肉、腹筋力の測定(ノーハンドゲットアップ)
測定方法
①両足を伸ばして仰向けに寝る
②胸の前で腕を組んだまま反動をつけずに起き上がる努力をする
③起き上がれない場合には腕を組まずに前方に伸ばして再度行う
④この時の起き上がり方の状態で腹筋力を判断する
評価
非常に良い ・・・・腕を組んだまま、両足が床からほとんど浮かずに起き上がれる
良い ・・・・腕を組んだまま起き上がれるが、両足が床から5cm以上浮く
普通 ・・・・腕を伸ばせば、両足が床からほとんど浮かずに起き上がれる
努力が必要 ・・・・腕を伸ばせば起き上がれるが、両足が床から5cm以上浮く
悪い ・・・・腕を伸ばしても途中までしか起き上がれない
非常に悪い ・・・・腕を伸ばしても、床から背中がほとんど離れないほど起き上がれない
腹筋はスポーツ動作の姿勢を左右する
人間の身体には600種類もの筋肉があると言われていますが、誰もが多かれ少なかれ気にしている一番メジャーな筋肉と言ったら、やはり腹筋ではないでしょうか。
見た目の体つきを気にする人はもちろん、腹筋が弱いと腰痛が起こりやすくなることから、健康を気にする人にとっても腹筋は重要。そしてスポーツマンにとっても腹筋は姿勢の維持に大きな役目を果たし、パフォーマンスに大きな影響を与えることから、それ以上のレベルで重要な意味を持ちます。
まずは腹筋を構成する数ある筋肉群の中から「腹直筋」について見てみましょう。
腹直筋は文字通り、お腹をまっすぐに覆っている筋肉のことで、肋骨の下から恥骨まで繋がっています。腹直筋が鍛えられている人は、お腹に力を入れると6つに割れることから、俗に「シックスパック」言われるところですね。逆に腹直筋が弱い人は、ポッコリお腹になってしまいます。
腹直筋の役目は、身体を起こすときに使われる筋肉、簡単に言えば、「腰を丸める」ための筋肉です。つまり反った腰をもとに戻す役目をする筋肉で、これが弱いと腰が反りがちになってしまいます。
次に、姿勢を維持する筋肉の中でももう一つ大切な筋肉、「腸腰筋」について見てみましょう。
腸腰筋は、腰椎と大腿骨を結ぶ筋肉。大臀筋の主な拮抗筋(筋肉運動の際に反対の動きをする筋肉のこと)として、腿上げに使われる筋肉です。
腸腰筋を鍛えることで、例えばランニングにおいては、身体が安定し、推進力が増加するなど、運動能力との相関が強いと言われています。
筋肉は基本的に収縮することで働くものですが、腸腰筋が働く時、つまり収縮する時は、骨盤が前方に引っ張られる形になるため、腰が反りやすくもなります。
腹直筋が弱いと腰が反りがちになるということと、腸腰筋が収縮するときは腰が反りやすくなるという2点を踏まえた上で、スポーツする時の腹筋の重要性を見てみましょう。
例えば、ランニングの時は、脚を上げるたびに腸腰筋に引っ張られて腰が反りやすくなりますが、ここで腹直筋がしっかり働いて腰が反るのを止められないとどうなるでしょう。
なんと長距離を走る結果として反り腰がひどくなり、腰痛へと発展しかねないのです。
つまり、健康や身体作りのためにランニングを始めたのに、ランニングのせいでかえって腰痛になってしまうというショッキングな事態にも。そしてこれは、サイクリングなど他のスポーツでも同様のことが言えるのです。
脚を伸ばしたまま起き上がる時の仕組み
さて、ここで測定方法についても見ておきましょう。
脚を伸ばしたまま起き上がる時の身体の仕組みは、上半身より下半身の方が軽いので、お尻を支点にして起き上がろうとすると、普通は軽い脚側のほうが上がってきてしまいます。
この時、より大きく背中を丸められれば、お尻から頭までの距離が短くなるため、テコの原理でテコの短い上半身の方が軽くなって、上半身を起こすことができるのです。
つまり腹直筋が強くて、より背中を丸められれば、脚が浮かずに起き上がれるということになるのです。
この動作中は、腸腰筋より腹直筋のほうが大きく働くため、反り腰になることはなく、測定自体で腰痛になる危険性は低いのですが、測定結果が思わしくなかった方は、以下のエクササイズで、腹筋を強化してみてください。
改善エクササイズ
エルボータッチクランチ
①仰向けに寝て太ももが床と垂直になるように上げる。
②胸の前で腕をクロスして、指先で軽く肩を触れる。
③この状態から、両肘が太ももにタッチする事を目標に最大努力で腰を丸める。
④反動を使わずに2秒で腰を丸め、1秒でもとに戻る。
⑤腰を丸める時に息を吐き切り、戻す時に吸う。
⑥上記を10回繰り返して1セット。3セット行う。
ポイント
①決して反動をつけて行わないこと。
②太ももに肘がつかなくても、最大努力でよい。
③太ももの方を引き寄せてしまわないこと。
④「起き上がる」のではなく、あくまで「腰を丸める」という動作を行うこと。
腹直筋は下半身の力を上半身に伝えるブリッジでもあるので、ここがしっかりしているかどうかで、スポーツのパフォーマンスは大きく変わってきます。
腹直筋は快適なスポーツライフのためにも、どうしても鍛えておきたい筋肉。
日頃からしっかり強化して、いつまでも楽しくスポーツできる身体をキープしたいものですね。
(監修 清水忍/イラスト atsushi ave)
【大人の体力測定アーカイブ】
#01 ハムストリングスの柔軟性
#02 上半身のバランスを司る広背筋の重要性
#03 身体のコントロール能力を確かめよう
#04 パフォーマンス向上&肩こり解消にも!肩周りの柔軟性
#05 体力低下は脚筋力低下から始まる
#06 姿勢の維持に大きな役目を果たす腹筋力の測定
#07 憧れの開脚!横開脚の柔軟性
#08 人は常に姿勢が崩れてる?バランスと調整力
#09 その場足踏みで、骨盤のねじれを自覚しよう
#10 体幹を鍛えるだけでは意味がない?体幹連動性の測定
#11 ここが硬い人は要注意!前ももの柔軟性
#12 スポーツしている人ほど硬くなる? 股関節外旋の柔軟性
#13 イチロー選手への第一歩!? 股関節内旋の柔軟性