セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を“征服”できるか
著:ジェニー・クリーマン 翻訳:安藤貴子
英国の気鋭ジャーナリストによる初の著作で考察されているのは、人類を取り巻く様々な問題とそれを解決するかのように見える最新テクノロジー、そして、「人間性」についてだ。
刺激的なタイトルも気を引くが、本書は「性愛」「肉食」「生殖」「自死」という4つのテーマごとに、著者の細やかな取材で引き出された最新技術の最前線の様子が描き出されている。
今回の特集〈FOOD FACTFULNESS 数字で見る食の事実〉に関わるテーマという意味では「肉食」がそれにあたる。タイトルの「人造肉」という言葉は原題だと「VEGAN MEAT」となっているが、ここで紐解かれているのは豆や野菜など植物性の代替物を用いた疑似肉ではなく、動物の細胞から人工培養による生み出される「培養肉」と呼ばれるものだ。
ヴィーガニズムやベリタリアニズムはここ数年で一般化している一方、世界的に見ても肉の消費量は増えているという。例えば中国では2017年のひとりあたりの牛肉消費量が二十年前のおよそ倍、インドでは同じ期間で鶏肉の消費量が3倍以上に増加している。
さらに世界の畜産業が排出する温室効果ガスの排出量が地球上のあらゆる輸送手段の総排出量よりも多いことをはじめ、気候変動に大きく影響していることも看過できない。他にも薬剤耐性をもつスーパー耐性菌を生み出すリスク、畜産で必要な水や土地面積の膨大さなどが問題視されている。
そういった状況を踏まえて生み出されたのが「培養肉」だ。「培養肉」を開発するスタートアップはイメージを向上するためにそれらを「クリーンミート」と呼称している(米国の食品医薬品局は好ましく思っていないのだそう)。「クリーンミート」の開発は投資家たちからも注目されていて、各社はいかに自分たちのテクノロジーが未来の利益を約束するものなのかをアピールするのに必死だ。しかし、「クリーンミート」と呼ばれるものを実際に試食した著者の取材によれば、その開発状況には疑問も多い。資本主義が到達しようとしている極限も見え隠れしてくる。
肉食が様々な問題をはらんでいることがわかってきた今、私たちは肉を食べることを続けるのか、それとも、やめるのか、はたまた「クリーンミート」を食べることを選ぶのか、遠くない未来にその選択に迫られることになるかもしれない。